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米国 MPDO ジューン・シンさんとジェム・エスキナージさん(後半)

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米国 MPDO ジューン・シンさんとジェム・エスキナージさん(後半)

米国ロードアイランド州のプロブデンスに開設されたばかりの「Morisawa Providence Drawing Office(モリサワ・プロビデンス・ドローイング・オフィス)」(以下、MPDO)で活躍する若き書体デザイナー、ジューン・シンさんとジェム・エスキナージさんのインタビュー、
前半に引き続き、後半をお届けします。


タイポグラフィーの概念の説明にはクリエイティブな考え方を要する

8.書体デザイン以外のご自身の生活でどんなことが考え方やデザインに直接影響を与えていますか?

JS:趣味を聞かれると困ってしまうんですよ。プライベートを含め、全てがデザインやフォントに関連しています。たまに、自分がつまらない人間じゃないか考えることもあります。でもこれが私なのです。プロセスも製品も書体デザインとは違いますが、私はレタリングが好きですし、文字以外を描くことも好きです。最近サイラスが私たちに2人にデッサン道具をプレゼントしてくれたんです。とても素敵なプレゼントでした。訪れる場所の様子を見渡すのも好きです。毎朝徒歩で通勤していますが、毎日新しいものを見つけたり、同じものでも違うアングルや光の具合など、前日とは異なる視線で見ています。

Cem Eskinazi (CE)

CE:いやいや、つまらなくなんかないよ。私たち2人は、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(以下:RISD)でタイポグラフィーを教えていました。私は現在、RISDで大学院生のアドバイザーとして論文研究の指導をしているのですが、自分の仕事でのお手本になることもあり、とてもためになっています。授業で本質的概念の説明や定義を話すと、自分自身が毎日していることを思い出させてくれます。 長期間ディーテールの作業をして全体像の現状を見失っているときは特に意味がありますね。また、RISDの学生は難しい質問をして来ることが多く、タイポグラフィーの概念の説明にはクリエイティブな考え方を要します。これは新しい視点でタイポグラフィーを見つめるきっかけになります。学生はやる気と活気に満ちていて恐れることがありません。仕事と並行して、このエネルギーに囲まれているのは、特権だと思います。

JS:そうですね。RISDで教えたことはとてもいい経験でした。人に教えることで自分も学ぶことができ、自分の考え方や仕事がより明確になります。また、とてもやりがいがありました。今でも当時の学生たちとは連絡を取っています。


9.公表できる現在または今後のプロジェクトはありますか?

JS:もちろん。最近「Poetry in Motion」というプロジェクトが終えました。このプロジェクトはロードアイランド公共輸送局(RIPTA)との協同プロジェクトです。ロードアイランドの桂冠詩人であるティナ・ケインが選定した詩に合わせてデザイナーがグラフィックを作成します。そしてそれがロードアイランドのバスやケネディー・プラザというプロビデンスの中心部にある大きなバスターミナルのスクリーンに映し出されるのです。美しい詩をバスの中で見るのは素晴らしいサプライズだと思いませんか。大抵流れているのは喫煙調査やアルコール依存症の研究といった内容ですから。

Column on type.center/kr “Oblique A/a”

また、私の書体探検を共有するコラムを韓国版type.centerに掲載しています。韓国を離れて15年経ちますが、そろそろ自分のルーツと繋がりを持つ時期だと感じています。なので韓国の読者向けに言葉を発する場所があるというのは、とても重要なことです。近日中に掲載されますので、ぜひご覧ください。

Animation of Cem Eskinazi's work for “Poetry in Motion”

CE:私はジューンの話に出ました「Poetry in Motion」の2018年1月を担当しました。正直、モリサワでの仕事と学生の指導を同時に行っていてとても忙しいです。ですが常に、小さなプロジェクトも並行して行うようにしています。例えば、地元の映画館用のポスター作成や、デザイン・オフィスの10周年記念のカード作成などですね。


10.お2人とも今年のSTA100を受賞されています。つまり、2017年のフォントを扱ったグラフィックデザインのトップ100に選ばれたということです。おめでとうございます。書体デザイナーとしてフルタイムでは働きながら、どのようにグラフィックデザインの活動も継続しているのですか?

STA100:1927年「デザイン、印刷、タイポグラフィーのあらゆる面における卓越したプロフェッショナリズムを奨励」することをモットーに、シカゴで設立された団体(Society of Typographic Arts)から、革新的なタイポグラフィーを使った世界各地からの優秀なコミュニケーションデザインに毎年贈られる賞。

CE:お祝いの言葉ありがとうございます。全てにおいてバランスを保つのはとても難しいのが正直なところです。現在、複雑なクライアントマネジメントをしなくてもよい短期間の小プロジェクトをやるように心がけています。夜遅くまでスタジオで作業をしたり、週末も作業をすることになりがちですが、健康的にグラフィックデザインの活動も並行できています。短期間の小プトジェクトでは、モチベーションを一気に上げて取り組みます。最終的にはもっと大きなグラフィックデザインのプロジェクトに繋がればいいな、と思っています。今のところは、書体デザインに重点を置いています。

STA100 award winning work of June Shin “Timeface”

JS:どのように継続しているかですか?秘訣は特にありません。仕事から帰って来た後や週末も含め、常に仕事をしています。才能ではなく、たくさん働いているんです。


フォントの作成者であり、同時にいちユーザーでもあることは大きな強み

11.グラフィックデザインと書体デザインの仕事は相互にどのように影響していますか?キャリアにおける関係やバランスを教えてください。

CE:フォントの作成者でもあり、同時にいち早いユーザーでもあることは大きな強みだと思います。既にお話した通り、私のインスピレーションの一部は私がこれまでに使用したフォントに抱いている機能的な期待から得ています。一から開発できる製作者として自分を捉えることも好きです。もちろん他の人が使える書体をデザインしたいとも思っていますが、自分の作品で使用するデザインを作ることも好きです。ポスタープロジェクトから生まれるアイディアは私の書体デザインのプロセスにも表れているかもしれません。グラフィックと書体デザインを行き来することで、様々なメディア形態のビジュアルアイディアに反映することができていると思います。

June Shin (JC)

JS:フルタイムデザイナーになれば、グラフィックデザインに費やせる時間はもちろん減るので、時間の配分に大きな変化がありました。ですが、最低1つはプロジェクトを並行させ、異なるペースで仕事ができるようにしています。2つの仕事は密接に関連していますが、説明するのは難しいですね。

まず、グラフィックデザインの仕事はほとんどがタイポグラフィックです。書体デザイナーとなり、タイポグラファーとグラフィックデザイナーとしても質が上がったと思います。フォントの特定の特徴を見分けることができますし、その特徴を際立たせることもできます。概して、優れた書体を作れば、優れたグラフィックができあがるのです。ジェムが言ったように、グラフィックデザイナーとしての活動は書体デザインにも影響を与えています。UI/UXデザインの素晴らしさはわかりますが、ユーザー目線で考える必要がありますよね?それに似ています。とにかく、この仕事量をこなせる間は書体をデザインしつつ、書体を使ったグラフィックを作成したいと思っています。その方が楽しいですから。


12.インタビューをお2人のスタジオで実施できていたらよかったのですが。読者の方がMPDOで働いている様子をイメージしやすいように、スタジオやデスクには何があるか教えてください。

CE:オフィスは古いニューイングランドの建物が連なっているエリアにあります。壁はレンガ壁で天井が高い建物です。The Design Officeというシェアスタジオを使っています。現在、独立したデザイナー2人と1つのグラフィックスタジオがThe Design Officeを使用しており、充実した日々を送ることができています。大きなプロジェクトに関する会話を耳にする機会もありますし、フォントデザイナーの視点からアイディアを出すこともあります。

Interior of “The Design Studio” where MPDO is located.

JS:私たちはオフィスにそれぞれのデスクがあります。既定セットアップのモニター、キーボード、マウス、大きな本に乗せたノートパソコン、ルーペ、ジェムがくれた三角コーンの小さい手綴じ本、ニューイングランドの厳しい冬に耐えるためのハンドクリーム、大量の校正刷、蛍光ペンが数本あります(日本で買った蛍光ペンで消せるんです! すごいですよね)。

Interior of “The Design Studio” where MPDO is located.


13.さて一番重要な質問です。コーヒー派? それとも紅茶派?

CE:アイスコーヒーですね。(トルコ紅茶も好きですよ)

JS:コーヒーの神様を崇拝してます。


14.新しい年が始まりましたね。2018年の目標はありますか?

CE:私は新年に抱負を持つタイプではありませんが、今の目標は自分のフォントをできるだけ早く発表することです。何年かかるかわかりませんが、少なくともそこに行き着くことが私の目標です。

JS:目標はたくさんあります! 私も新しい書体の作成に取り組んでいますが、リリースできるまでにどのくらいの時間がかかるかはわかりません。ですが、これが私をどこに導いていくのか楽しみで仕方ありません。もしくは私が導くかもしれませんし。また、ニューヨークでthe Society of Scribesが開く素晴らしいワークショップを通じて、様々なカリグラフィーを勉強したいと思っています。長年グラフィックデザインに集中してきましたが、自分のアーティストとしての面に戻ってきています。今は自分が楽しむために描いていて、とても楽しんでいます。


本日はお時間いただきありがとうございました。今年の目標が達成されることを祈っております。また、お2人の今後の活躍も期待しております。

CE:私たちの話を聞いてくださりありがとうございました。

JS:ありがとうございました。

2018年2月22日

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人物プロフィール

C
ジェム・エスキナージ

ジェム・エスキナージはロード・アイランドのプロビデンス在住のトルコ人の書体デザイナー、グラフィック・デザイナーです。RISDで書体描画の冒険を始めました。同学校では美術修士号を取得しています。現在はMorisawa USAのMPDOで書体デザイナーをしています。その傍らで自身のスタジオの仕事もDesign Office Providenceのメンバーとして続けています。好きな色は黄色です。

www.cemeskinazi.com

J
ジューン・シン

ジューン・シンは受賞歴のあるデザイナーで、現在はMorisawa USAのMPDOで書体のデザインをしています。コーネル大学で美術史の学士号取得後、RISDでグラフィック・デザインを学び、グラフィック・デザインで美術修士号を取得しました。書体制作をしていない時は、Design Officeの自身のデスクで、主にグラフィック・デザインかレタリングプロジェクトに取り組んでいます。Design Officeはクリエイティブな共有スタジオスペースです。彼女は6月(ジューン)生まれではありません。

Twitter: @notbornin_june

Site page: www.notborninjune.com

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