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ATypI Hong Kong 2012 の思いで! 塚田哲也

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ATypI Hong Kong 2012 の思いで! 塚田哲也

2019年に東京で開催される「ATypI Tokyo 2019」。これまで世界各地で開催されたこの国際タイポグラフィ会議とは、いったいどのようなものなのでしょうか。2012年に香港で開催された、ATypI Hong Kong 2012 に参加した際のようすを大日本タイポ組合の塚田哲也が書きます。

ATypI って何?

「ATypI はこちら」の案内もカリグラフィ風の手書き文字で

そもそも「ATypI」っていうのがなんだかよく分からなかったんです。知り合いのタイプデザイナーやフォント制作会社にいる友人などが「ATypIが香港で開催だよ!」とか言ってるのを聞いたんですけども、「え、なにそれおいしいの?」って感じでした。「えーたいぷあい」と言う人もいれば「あてぃぴ」だの「あちぴ」だの言う人もいるし、なんのことかさっぱり分からない。表記も大文字と小文字も混ざってて読みにくいし。

実はその時に知ったのですけど、タイプデザイナーとかフォント制作会社とか、あるいは印刷会社とか組版の方とか、国内でもあちこちで勉強会をよくやっているんですね。入稿時における文字データ、組版データの取扱い、文字コードとかフォントの仕様とか、エラーも含めて情報を共有する必要があるわけです。僕らみたいなグラフィックデザイナーがめちゃくちゃなデータを作ったとしても、きちんと印刷できるような対策を練っていてくれたりもする。本当にありがとうございます〜。

香港に文字好きがあつまる!

で、その勉強会の国際的なやつが「ATypI」だと。めちゃめちゃおおざっぱに言うとそんな印象がありました。最初は。技術寄りの会議っぽい感じなのかなーと。たとえデザイン寄りの話だとしても、それはガチのタイプデザイナーの話で、グラフィックデザイナーは少ないんじゃないかな、とか。でも、そういう技術を知って思いつくデザインとか、使いこなしもあるんですよね実際は。だから、やっぱ勉強会は大事。

んで「ATypI」は、欧米中心の組織で、年イチで開催都市を変えて世界のあちこちで会議を開いている、と。「conference」を訳すと「会議」ってなっちゃうけど、実際の中身はプレゼンテーションがあったりワークショップがあったり、付随してポスターとかグラフィックの展示もあったりと堅苦しい雰囲気は無いらしい。まぁ、日本国内の勉強会もそんなかんじだったし、そこなすんなり想像はできた。

で、そんな「ATypI」が2012年にはアジアで初開催(56年目にして初!)ということで、これまでは遠くて行くの諦めていた俺たちも香港なら行けるぜ! と日本の連中が盛り上ってきたタイミングに出くわした、というワケだったのです。

テーマは「墨」

– between black and white –

香港で開催されるATypI、テーマは「墨 between black and white」でした。白と黒のバランスは、アジアに限らずタイポグラフィ、タイプデザインの基本ですし、なにより「書」を習いはじめて5年ほど経った僕にとって「墨」というテーマはぴったりだっというわけです。

さて、その「書」については、石川九楊という書家の下で学んで(いまも)いるんですけど、「書は垂直の芸術」とおっしゃっている先生で、文字どおり「縦に書け!」という本も出しているくらい。実際にひらがなの成り立ちは、漢字をくずして書かれた時に、縦に書いたからああなったのであって、縦書きの文化の賜物なんですね。あんまり詳しく解説していくとATypIの話に戻れなくなっちゃうので割愛しますが、まぁとにかく縦に書く、と。

ATypI Hong Kong のテーマは「墨」。開会式で話す香港工科大学の Keith Tam さん

だけど現代だと横に書くことが多いじゃないですか。公的な書類とかも。国語の教科書も横組みのやつが出たりしちゃって。でも、もともと縦に書いていたのがくずれてできたひらがなが、横に組まれたらおかしくない? と思って、漢字を横書きでくずしていったら違うひらがなになるんじゃないか、ということを実験/実践することにしました。ふだんやってる大日本タイポ組合とはすこし違う活動かも、と思って、「新世界タイポ研究会」というのを立ち上げ、タイプデザイナーのヨコカクを誘って、秀親との3人でやることにしました。

で、それはとくにどこで発表するとか考えはなくて、かたちになったら次回の東京TDCに応募しようかな、くらいには思っていたのですけど、ちょうどATypIが香港であるよ、と。そこで発表したらどう? って声をかけられて、あれよあれよという流れでATypIに申し込んだ、というのが経緯です。


だって、前にも書いたようにATypIってタイプデザイナーとが技術者の勉強会とか仕様発表会とかじゃないの? って思っていたので、いちデザイナーが考えた、文字のカタチの考察、みたいなんダイジョブかな、っていう心配はありました。とはいえ、タイプデザイナーが縦組み用と横組み用でかなの形を変えたりなどしていたこともあるわけだし、文字のカタチを見直す、という視点も含めてそういう考えがあってもいいよね! と自信を持ち直してプレゼンテーションの申し込みフォームをポチッとしたのでした。あと、とにかく香港行きたいし!

プレゼンテーションの申し込みをして、その後事務局での審査があってオッケーの返事がきました。ついに香港での発表決定です。やるからにはもちろん、きっちりウラを取らないと、ってんで、ひらがなの成り立ちや平仮名史の研究をしている岡田一祐さんにいろいろ教わったりなどして、考察や経過発表などしたり、プレゼンテーションは英語で、とのことだったので、原稿の翻訳依頼とか発音練習とか、やりました。

いざ香港!

漢字が溢れる香港の街は、アガりますね

さて、ついに香港入りです! とはいうものの、香港は何度か行ったことあるのと、日本からの参加者も多くて、横浜中華街に来たような感覚でもあったりして。

とにかく、初のATypIに参加です。到着した日は5日間あるうちのDay2でした。フジロックみたいに、全日程のうち自分が行きたいところだけ参加できるスタイルなんですね。それによって料金も違ってたり。早期申し込みはちょっと安くなってたり、とかします(プログラムPDFはここからダウンロード可能)。

Day2の夜にはキーノートスピーチがあって、香港からはヘンリー・スタイナー(石漢瑞)が、もうひとりは浅葉克己さんが喋ったりして、ますます日本に居るのかな、なんて気に。その後、墨で「右巻、左巻」を書く、なんてパフォーマンスもされていました。

浅葉克己さんの書く「右巻」「左巻」

会場は日によって変わりました。前半がINNOCENTREというところ、後半がHotel ICONというところでした。プレゼンテーションではアドビの山本太郎さんと西塚涼子さん、それからKen Lundeさんが「かづらき」の、和文でありながら「仮想ボディ」に収まらないデザインの話と、そのプロポーショナルなフォントを実現するための技術の話をしていました。いまは源ノ角ゴシック、源ノ明朝、貂明朝が話題ですけど、5年半前はかづらきだったんですねぇ。技術の進化は早い。

「かづらき」のプレゼンテーション

他にも、知っているところだとMonotypeの大曲都市さんやタイププロジェクトの鈴木さん、モリサワの八神さんらのプレゼンテーションも。Glyphsというソフトウェアを開発しているゲオルグさんは、Glyphsでの非ラテン文字の扱い方、なんてのを話してました。休憩時間には直接Glyphsの使い方をおそわったり、なんてことも。

同時進行で別の部屋では、レタリングとか、活版印刷機のデモ、プログラムコーディングのワークショップなどが行われていたようです。休憩時間にも、ちょっとおつまみとか飲み物も用意されていて、タイポグラフィ浸りできる場所、ってかんじでした。

ワークショップのひとつ。漢字(繁体字)のレタリング

「新世界タイポ研究会」の発表はDay4でした。というか、会社名や組織名で発表はしないで、すべて個人名での発表となります。なので、塚田哲也/岡澤慶秀/秀親 名義でしたね。

Monotype の小林章さん

僕らの発表の直前は、小林章さんのプレゼンテーションでした。タイトルは「Rounded Sans in Japan」。いったいどんな話をするんだろう、と思ったら「日本の看板の手書き文字はどうして丸ゴシックなのか」という話でした! めっちゃローカル話! 日本の文字文化を語ってくれた流れで、すんなりと「横書き仮名」のプレゼンテーションに入れました。そのときのプレゼンテーションをムービーにしていますので興味ある方はどうぞ。

持ち時間は20分。カタコトエイゴでのプレゼンをなんとか終えると、ふつうは無いはずの質疑応答タイムなんかが設けられて、ばんばん質問攻めにあいましたが、結果は上々! だったと思います。ふぅ、終わった〜。

タイポグラフィ浸りの日々

すっかり気を楽になって、その後のプレゼンテーションもゆったり見ることができたし、香港理工大学に設けられた展示スペースに向かうと、タイポグラフィの書体見本ポスターの展覧会が催されていたり、各国の文字に関する資料も公開展示されていたりと、ATypIに関連してあれこれ観るものも充実していました。

香港工科大学キャンパス内で開催されていた書体見本ポスター展。「かづらき」も掲示されてました

とはいえやはり旅の醍醐味は街めぐりとメシ! ってことで、安くて美味いメシをバンバン食べたり飲茶したり、街のあちこちの看板の文字みて写真とったり、気づけばあっという間の香港ツアーでした。腸粉うまかった。

街のあちこちで見かける文字もたのしい

「ATypI Hong Kong 2012」に参加して感じたのは、ひとつは自分のプレゼンテーションを披露できるかなり面白い場、ということです。「横書き仮名」のプレゼンテーションの質疑応答で「この話はとても興味深いアイデアだけど、そこをどうやって実際のタイポグラフィの現場に結びつけるつもり?」と質問があって、「It's up to you!(あなた次第ですよ!)」と答えて会場全体のスタンディングオベーションをもらったんですけど(笑 しかもこの質問をしたのはアドビの山本太郎さん)、とにかく考え方を披露して、そこから実践への糸口みたいなものがみつかる(あるいはみつからないかもしれないけど)スタートになれるから面白い、と思います。実際にこれにインスパイアされてタイプフェィスを作った、なんて話ももらったりしましたし。

「100万ドルの夜景」でしたっけ。100万香港ドルでしたっけ?

それから、プレゼンテーションをしなくても、他の方々の発表を聞くだけでも最新事情が分かるし、アイデアがどんどん広がるきっかけになるのでとっても面白かった。しかもそれが世界のあちこちから集まってくるっていうなかなかない機会です。英語が聞きとれない、とかあっったとしても、さいわい画面には文字のカタチやディテールや、それを構成するパラメータといったグラフィックが表示されているので、それだけでもかなりじゅうぶんに伝わるんですね。文字は視覚言語だなぁとつよく実感しましたよ。

ATypI本編以外でも、香港在住のデザイナーとか、学生との交流の会も設けててもらったりして(こっちも濃かったんだけどさすがに割愛)、まさに文字のことばかり談義できる日々、「文字合宿」感がありました。

「どうろのじ」の参考画像を撮るヨコカク氏

「ATypI Hong Kong 2012」に関しては、やはり実際に参加していた山田晃輔さんのブログ(「1日目」「2日目」「3・4日目」)とにも細かく書かれてますし、Monotype大曲さんのブログでも取り上げられています、そちらもあわせてどうぞ。

(掲載した写真は、ATypI Hong Kong 2012 参加者のみなさんの撮ったものを使わせてもらいました。唔該〜!(広東語でありがとう))

2018年4月19日

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人物プロフィール

塚田哲也

大日本タイポ組合のひとり。新世界タイポ研究会のメンバーでもある。ソロ活動として、デザイン関連ダジャレコンテスト「グッドデザイソ」をtwitter上で開催中。

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type.center編集部

type.centerの編集部です。文字関連イベントをレポートしたり役立つ情報を発信できるよう努力してまいります。よろしくお願いします。

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