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味岡伸太郎 味明物語 東京展 ギャラリートーク(白井敬尚×祖父江慎×味岡伸太郎)

イベントレポート

味岡伸太郎 味明物語 東京展 ギャラリートーク(白井敬尚×祖父江慎×味岡伸太郎)

見出し明朝体「味明」と「味明モダン」、それに合わせた本文用のかな書体を発表し、それに合わせて「味岡伸太郎書体講座」を刊行された味岡伸太郎氏。

4月の頭までペーパーボイス大阪で行なわれた「味明物語大阪展」に引き続き、 現在ペーパーボイス東京では「味明物語東京展」が開催されています(26日(木)まで)。

4月17日(火)に行なわれたトークイベント(白井敬尚 × 祖父江慎 × 味岡伸太郎)の様子をレポートします。

ギャラリートーク

白井敬尚 × 祖父江慎 × 味岡伸太郎

スピーカーは、味岡伸太郎氏、白井敬尚氏、祖父江慎氏の三名。お三方は、愛知県のご出身。祖父江氏は浪人生時代から、白井氏はデザインのお仕事を始められてすぐのころから、味岡氏とのつきあいがあるとのこと。

そのころから「味明」にいたるまでの味岡氏とのエッセイや、味岡氏が語る「味明」の制作エピソードなどが収録されたリーフレットがギャラリースペース・イベント会場で配布されました。

司会の櫻井拓氏の進行によりトークイベントは始まりました。

左から、祖父江 慎、味岡伸太郎、白井敬尚の各氏

「現時点の僕の考えが全部含まれている」

まず、リーフレットを眺めながら味岡氏より「味明」の書体についての概要から話されました。 「味明」と「味明モダン」は見出し用の書体で、制作文字数は、JISの第一水準(内、漢字2965)+αの、合計漢字3637。加えて、例示字体の味明N、味明モダンN、そしてそれぞれに10種のかなと、10種の本文明朝体用かなが含まれています。

味明制作のきっかけは、「今までにさまざまな漢字書体が発表されてはいるが、実際に多く使用されているのは秀英や築地の復刻書体のみ。明朝体で見出しとして使えるのによいと思える書体は少なく、グラフィックデザイナーとして必要だった。モダンなタイプとなるとさらにないので、作りたいと思った」。

10種類のかな

10種類のかなについては、「漢字が何万字も含まれる日本で何万書体も作ることは不可能。文章の七割近くはひらがなとカタカナなので、漢字と組み合わせた時の組版のバリエーションをふやすことで、日本の書体の多様化を考えた。本文用かなは、リョービの本明朝の漢字と一緒に組めるようにウェイトを合わせた。すでにあるいい書体はみんなで使って、足りないところを自分が作ればよいと思った」と語りました。

「味明のファミリー図が、日本の書体はどうあるべきか、組版のありかたはどうあるべきか、フォントベンダーのありかたはどうあるべきか、現時点の僕の考えが全部含まれている」という言葉で締めくくられ、白井氏へとバトンタッチされました。


「味岡さんの身体性のあるカーブだよね」

白井氏は味岡氏との出会いのエピソードをお話されたあと、例えば今回の味明物語展のポスターにも使用された、土を描画の材料にしたドローイング作品のエピソードなどを紹介しつつ、「あるものを並べていく時に、ただきれいに並べるというわけではなくて、その中に動きのある置き方と言うか、どこか不自然で整合性のない感じ、というのが味岡さんの作る美術作品の中にはある。それが味岡さんの書体設計や組版の根底にもつながっているのではないか。そこに人間の身体を動かす脈のようなものを感じる」、「味岡さんは書体開発と美術とは繋げて考えていないと仰っていたけど、文字のカーブを見ると、味岡さんの身体性のあるカーブだよねと思う」と話しました。

味明書体を使用し白井氏がデザインした本として、『老建築稼の歩んだ道 松村正恒著作集』が紹介されました。


「味明モダンの飾りひげは、書体の歴史の中で事件性が高い」

祖父江氏は「味岡さんにはデザインの仕事を教えてもらったわけではないけれど、生活に密着したデザインに多く触れさせてもらった」と話し始めました。

「数年前に、味岡さんは文字には書体と字体と書風があると仰っていた。書体にも書風があるんじゃないかなと思う。白井さんは(味明に)行為の跡を感じると言っていたけど、僕は身体性はあるけれど個人的な感じはないところがすごいと思う。全部他人の文字のように感じて、書き手がわかりにくい印象」と語りました。

モニタに映っているのは、2002年の麿赤兒の豆本パンフレット。味岡氏が書を使い祖父江氏がデザインした

「漢字については、うつくしさ満点で恐るべき感じ、漢字なだけに」とのこと。 「モダンタイプの書体には今までひげがなかった。味明モダンは美しいかたちで飾りひげを残した。これは書体の歴史の中で事件性が高い出来事ですよ。見出し的な使い方をする時に、飾りひげがないと間抜け。変な学者的な考え方でひげをなくすということは大問題」と、書体の変遷の中で味岡氏の書体がどのような意味を持ち、どういった立ち位置であるかを、時代の流れに沿って解説しました。

「父」の字に「飾りひげ」が見られる

後半は、司会の櫻井氏や観客の質問に返答するかたちで話が進みました。

文字を扱う上で読みやすさと美しさとの関係をどう考えるかという話題になった時に、味岡氏は「どんなに汚らしいタイポグラフィーでも、すばらしいタイポグラフィーでも、書かれた内容を凌駕することはできない」とふまえた上で、井上有一氏の書作品を例に挙げながら、「(井上氏の書は)読めないけど、書かれた文字を聞くと納得する。文字には文字の、その最終的なかたちが成立する理由がある。かたちだけがどんなに面白くてもだめ。文字の共通認識を超えるようになってしまうと読みにくい。伝統からはみ出さないようにと考えている」と話しました。

祖父江氏は味岡氏の言葉に、「(味岡氏が)以前仰っていた中でおもしろかったのは、強い意志を持っている強いかたちが大事、こっちに向かってくる強さが美しさ・読みやすさということ」と続けました。

終盤は組版の話に移り、「時代によって変化する日本語の組版はどうあるべきか、書体設計をどうやるべきか、すべての分野の人の共同作業によって真摯に考えることがこれからの課題」との味岡氏の言葉が力強く、印象的でした。

(レポート:伊東友子


味明物語東京展は、引き続きペーパーボイス東京にて、4月26日(木)まで開催しています。

味岡伸太郎

味明物語東京展

  • 会期:2018年4月17日(火) ― 4月26日(木)

    • [土日休館]
    • 9:00 ~ 17:00
    • ※最終日は16:00まで
  • 会場:平和紙業株式会社 ペーパーボイス東京

    • 〒104-0033 東京都中央区新川1-22-11
    • TEL 03-3206-8541
2018年4月21日

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人物プロフィール

伊東友子

多摩美術大学大学院美術研究科修了。文字・言葉に纏わる制作および執筆を行う。

イベントレポート

type.center編集部

type.centerの編集部です。文字関連イベントをレポートしたり役立つ情報を発信できるよう努力してまいります。よろしくお願いします。

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