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「フォント男子!」擬人化漫画の編集担当と協力のモリサワに聞く

開発インタビュー

「フォント男子!」擬人化漫画の編集担当と協力のモリサワに聞く

4月10日、フォントの日に公開され話題となった「ヤングエースUP」連載漫画「フォント男子!」。 この、フォント擬人化コメディ漫画がどのようにして誕生したのか、KADOKAWAヤングエース編集部の加藤浩嗣さんと、モリサワの広報宣伝課の高井幸代さんにお話をうかがいました。

「フォント男子!」特設ページはこちら

type.center:「フォント男子!」は、どういうきっかけでスタートしたのですか?

加藤浩嗣さん(KADOKAWA):去年の夏くらいからでしょうか、漫画家のヴァージニア二等兵先生と話をしていたときに、フォントの擬人化というアイデアが出ました。そこでフォントといえばモリサワさんだろう、ということでお声をかけさせていただきました。

高井幸代さん(モリサワ):最初にお話をいただいたとき、直感的には「面白そう!」と思いました。いま世の中では刀とか戦艦などの擬人化も流行っていて、しかも影響力もありますよね。いよいよその波がフォントまで来たか、と。これまでモリサワがリーチできなかった方々へも「モリサワフォント」をお届けできる非常に有効な機会だと思いました。

加藤:やるならもちろん本物の書体を使って、と思っていたので、モリサワさんにご協力いただけることになってよかったです。

KADOKAWAヤングエース編集部の加藤浩嗣さん(右)と、モリサワの広報宣伝課の高井幸代さん

t.c:なぜ「男子」だったんですか?

高井:最初から「男子」でしたよね。

加藤:ヴァージニア先生のアイデアの時点で男子でしたね。いろいろとキャラ付けがしやすかったのだと思います。また読者層を考えてみても、より擬人化した書体に興味を持ってくれるのは女性のほうが多いのかな、と思いました。

t.c:まさに、知り合いでフォントを擬人化して描いていた女性がいます(笑)

高井:「ヤングエースUP」の読者層は、20〜30代と伺っています。

加藤:そうですね。そのくらいですと仕事もして「書体」とか「フォント」という言葉もすこしずつ知ってくるのではないかと。もちろんヴァージニア先生の描くキャラクターに惹かれて見た目から入っていただくのも結構ですし。広く「学園コメディ」として読んでいただいてもいいですし。

t.c:各キャラクターの配置や性格付けはどのようにしたのですか?

加藤:主人公はアンチックAN君なのですが、漫画のふきだしに使われている書体としてアンチック太ゴの組み合わせが一番多く、最もなじみのある書体ということで、まずはアンチックをメインにしようと考えていました。他の書体に関しては、編集者目線からいくと、こういう場面ではこの書体、という使い方、ヴァージニア先生からは一般的な見え方など、そしてモリサワさんからは文字の特徴や歴史などを伺って性格づけをしていきました。

「フォント男子!」第1話の冒頭より。主人公のアンチックAN君がモリサワ学園に転校してくるところからはじまる

高井:ヴァージニア先生と加藤さんのお二人に弊社に来ていただき、モリサワの書体見本帳をひろげて各書体の説明と、歴史や書体名のゆかりなどをひととおりお話させていただいて、そこから先どういうキャラクターになったのかはお任せだったんです。最終的に「こんな風になりました」というキャラクター一覧をみせていただいたところ、書体が素敵にキャラクターとして表現されていて、完成度の高さに感動しました。さすがですね。

加藤:ヴァージニア先生がフォントのことを好きなんですよね。ところどころ入っている「今日のフォントうんちく」もヴァージニア先生が書いています。

ところどころに入ってくる「今日のフォントうんちく」

高井:第1話を見てストーリーが動き出すとなおさら、書体とキャラクターの親和性が高くてよくできているなと実感します。

加藤:ネクタイの色によって学年分けされていて、アンチックAN君は2年生で、かわいいハッピーN君とか新丸ゴ君は、1年生という設定です。

t.c:主人公のアンチックAN君と、頼れる幼馴染の太ゴB101君。男子ふたりのバディ物(相棒もの)という印象もありますね。

加藤:ははは。実はアンチックAN君の相棒は、太ゴB101君じゃなくて、新ゴにしようかという案もあったんです。

t.c:なんと!

加藤:擬人化して楽しむときに一番大切にするところは、個性もそうですが関係性だと思います。当初、メジャーな書体の新ゴを相棒に、としていたのですが、漫画におけるアンチックとの相性でいうと、やはり太ゴです。なので最終的に太ゴB101君となりました。私としては永年お世話になってきたアンチックAN太ゴB101という書体を擬人化できて感無量です(笑)


t.c:ところで冒頭部分、アンチック君が転校してくるところから始まりますが、一体どこから来たんでしょう?(笑)

高井:そういうところを掘るのがフォントクラスタですよね(笑)

加藤:ご想像におまかせします(笑)

先ほどお話したとおり、漫画のストーリーとして重要なのは関係性をどういう見せていくか、というところなので、転校生のようにはじめての場所に入っていくという手法をとりました。ゼロベースで物語がスタートして、読者と一緒に体験して進んでいくという。

t.c:なるほど。だけど太ゴ君と幼馴染っていうのがまた(笑)

加藤:はい、そこは想像していただいて(笑)

高井:実際フォントが使われている現場での書体どうしの関係と、この漫画のストーリーを絡めて深読みする楽しみがありますよね。

加藤:関係性の話をつづけますと、アンチック君太ゴ君との相性もありますが、アンチックはそもそも明朝体ですから、リュウミンとの関係も出てきます。基本はこのコがいないと話がすすんでいかないようになっています。

ひとりひとり書体に合わせたキャラ作りが行われている

t.c:ところで登場人物の名前がモロにフォント名そのままですよね。

加藤:いろいろ悩んだんですが、シュールで面白いかな、と(笑)。当て字にしたりすることも考えたんですが、コメディ物ですし、そのままで行くことにしました。モジりすぎて分かりにくくなってしまいそうですし。いちおう略称はつけています。

t.c:アンチックAN君、略して「アンチ君」、別の意味にとらわれちゃいそうですけども。

加藤:ははは(笑)

t.c:さて、実際に第1話を読んでいきますと、アンチックAN君のセリフはもちろん定番の「アンチックAN+太ゴB101」なんですが、大きい声のときには新ゴ Bになったりしますよね。「こいつ違う字、しゃべるぞ」と思いました(笑)

第1話より。大きな声ではっきりしたセリフは新ゴ Bになっている

加藤:はい。キャラクターが自身の書体でセリフを話す、というふうに決めてはいないんです。そうするのは簡単なんですけど、むしろ普段の漫画の中でのフォントの使い分け、というものを見ていただくほうがいいのかな、と。こういう気持ちのときはこういう書体で話す、とか、あるいは決めセリフはこの書体、というのを知っていただければと思います。

t.c:太ゴ君の登場シーンは、はじめは声だけで、それが太ゴで組まれているところは「決め感」ありますよね。

高井:しかもそれを受けてのアンチックAN君のセリフが書体解説っぽくもなっているというところも良いですね。

第1話より。太ゴB101君の登場は、まずセリフからというにくい演出

t.c:書体は「声」である、というのがまさに体現されていますね。同じように書体を使い分けという点では、ライトノベルもかなりやっていますよね。

加藤:はい、こちらは漫画ならではの使い方というところを見せていきたいです。たとえばモノローグのときにはリュウミン Rがよく使われるんですが、編集者によっても新丸ゴを使う人もいたりします。そういった違いを見せるのも面白いな、と。

t.c:そういったフォントを変えるのは編集さんの仕事なんですか?

加藤:はい、編集がやります。漫画の見栄えをよくする「お化粧」のような感じですね。

t.c:(キャラクター一覧を見て)この右側のキャラクターは誰なんでしょう?

加藤:フォーク君ですね。フォークという書体はウチでは過去回想で使われることが多いので、すこしニヒルなんです。

キャラクター一覧。いちばん右が「フォーク君」 (イラスト:ヴァージニア二等兵)

高井:あぁ! そういうことだったんですね! 実はキャラクター設定の確認をいただいたとき、フォークだけが少しイメージが違うなと思ったんです。メーカーからするとフォークという書体は明るく爽やかで奇を衒わない書体なので、キャラの雰囲気が少し合わないかな? と思っていたのですけど、一方で、書体から受けるイメージの感じ方は人それぞれですのであまり口出しをするべきじゃないところかなと思っていました。

加藤:ウチの漫画では回想シーンでおなじみの書体です。

高井:まさに「漫画ならではの使い方」からくるキャラクター設定ですね。勉強になります!

加藤:漫画ならではの書体の使い方はもちろん、ふきだしの形やコマ割りなど、漫画というしくみの中でそれぞれがどう機能しているか、というのを楽しんでいただければと思います。

まだ漫画内では名前が出ていませんが、ハッピーN君のセリフは、ちゃんとハッピーNでした

t.c:あっ、アンチック君の髪型のハイライトが「ア」っぽくなってますよね?

高井:そう! よく気付きましたね。

加藤:あと、目がモリサワさんぽいというか。

t.c:えっ? どういうことですか?

高井:MORISAWA FONT のロゴの……

t.c:あー!(笑)

高井:そういう小ネタがちりばめられてくださっていて、飽きないですよね。

「MORISAWA FONT」のロゴと、アンチックAN君。目と髪のハイライトに注目!

t.c:第1話を公開して、読者からの反響はどうでしたか?

加藤:twitter などでもたくさんの反響をいただき、全体として好意的な意見をいただいています。中でも「モリサワ的にアリなんだ」というような話があったりしました。

高井:モリサワといえばどちらかというと「真面目でやや固い」というようなイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。そんな中で「モリサワがこんな面白いこともやるんだ」という声をたくさんいただきました。これをモリサワとしては積極的に捉えていきたいと思いますし、弊社をもっと知っていただく良い機会になればと思っています。読者の方にはこの漫画を通じて、フォントというものを知ってもらい、書体に興味を持っていただけるきっかけになればと思います。


t.c:第1話は自己紹介というかんじですけども、今後どうなっていくんでしょうか。

加藤:まだまだ登場しきれていないキャラクターがいますし、それぞれの関係性も豊かになっていきます。第2話は5月22日(火)に公開です。楽しみにしてください。

t.c:あのう……、プリティー桃、出てほしいんですけど。

加藤:プリティー桃、いいですよね(笑)

高井:「基本7書体」も勢揃いするといいですよね。

加藤:「神7」みたいなかんじで(笑)

ただ、「出したい書体」と「好きな書体」はまた違いまして、それぞれ入れていこうとするとかなり多くなってしまいます(笑)

t.c:モリサワ学園以外の学校は出てきませんか、って質問も用意していたのですが(笑)なかなか学園内だけでも話は尽きなそうですね。本日はどうもありがとうございました。

アンチックAN君と、3ショット


2018年4月27日

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