文字による文字のための文字のサイト

スペシャルトーク「日本タイポグラフィ年鑑2018グランプリ」

イベントレポート

スペシャルトーク「日本タイポグラフィ年鑑2018グランプリ」

国内・海外より多くのタイポグラフィ・デザイン作品が集まる『日本タイポグラフィ年鑑』。その受賞作品や入選作品が展示された「日本タイポグラフィ年鑑2018作品展」が、4月6日(金)から5月18日(金)まで、株式会社竹尾の見本帖本店2Fで行なわれています。

5月11日(金)に開催されたスペシャルトーク「日本タイポグラフィ年鑑2018グランプリ」では、『砧明朝体』でグランプリを受賞された片岡 朗氏、木龍歩美氏が登壇。年鑑2018編集長の八十島博明氏による司会進行で行なわれたイベントの様子をレポートします。


『砧明朝体』は、1,374の応募数の中からグランプリを受賞。砧書体制作所(旧:カタオカデザインワークス)は、片岡氏と木龍氏二名の事務所。

代表的な「丸明オールド」をはじめとして、お二人が制作した各書体の紹介や、それにまつわるエピソードなどが語られました。

片岡氏がタイプフェイスデザインに携わるようになったのは、ディスプレイ関係の仕事をしていたお父上の勧めでレタリング事務所に勤めたことがきっかけだそう。

木龍氏は大学卒業後2011年砧書体制作所に入社、手描き文字「山本庵」、極細フォント「芯」の制作に携わり、2015年には、かなフォント「きりこ」を制作されています。

Macは一つの筆記用具

幅広く目にする機会のある「丸明オールド」は、2000年にサントリーモルツの広告で発表。細かい説明書きにもすべて、その時点ではまだフォント化されていない丸明オールドが使用され、片岡氏は原稿が来る度に徹夜されたそう。このキャンペーンの一年後に丸明オールドはフォント化され、以後のシリーズのモルツの広告でも丸明が使用されました。

丸明オールドについて片岡氏は、「Macは一つの筆記用具。ベジェ曲線という道具は驚異的なもの。丸を好きな大きさで描けて、拡大・縮小して自由に配置するという夢のようなことが簡単にできる。丸を使わない手はない、丸を当てはめた書体を作ろうと思った。Macができたからこそ作ることができた書体」と話されました。

「優しさ」と「間」の砧明朝体

「丸丸ゴシック」「佑字」「山本庵」「どんぐり」など、これまでに砧書体制作所から発表された書体それぞれのコンセプトが語られました。

書体制作時には、その書体を一言で説明できるコピーをつくり、目に見えるところに貼っておくのだそう。

 

「砧明朝体」のコンセプトは「『優しさ』と『間』」。「大きくなると優しい。小さくなっても読みやすい漢字」。

「一つの字形で大きく使用することも、小さく使用することもある。拡大しすぎると間延びしてしまう、縮小するとつぶれてしまう、その両方の状況を満足させることはできるのか?という悩みを依然として抱えている。砧明朝では、今の精一杯の表現でそれを実現させた」と片岡氏。

それに対して、八十島氏は「かつての活字の時代には、小さい活字は細く、大きい活字は太かった。写植の時代にはいってからは、同じ文字のサイズを変えることができるようになったが、『この書体は大きく/小さくしてはいけない』という上の代の人からの教えがあって、文字のかたちと大きさにつながりがあった」。現代のMacで自在に拡大縮小できてしまう世代との、書体に対する意識の違いについて言及されました。

 

砧明朝体には、曲線が多く取り入れられているとのこと。それが印刷のにじみ効果にも通じる、目への「優しさ」につながっています。「横棒と縦棒にも、曲線を取り入れており、直線ではありません」と話す木龍氏。

「漢字は、構成されている部首が部首としてはっきり見えるほうが、何の文字かわかりやすくなるように思う。なので、他の明朝に比べると、部首ごとに離れているところはきちんと離している。

写植時代に必要とされた1mmの幅の中に手描きで10本の線を書くという技術は、今は必要ない。けれど、フォント作りにどのようにその感覚を応用するかと考えることは大事。画数の多い字を縮小しても潰れないように作る際に必要な処理」、

「かなのかたちはそもそも曲線が備わった優しいものなので、砧明朝のかなは漢字に近づけたいなと考えた。四角い枠を意識して、ふところを広めにとった。そのことで漢字と調和し、縮小しても可読性が高まったと思う」と、砧明朝体の「優しさ」と「間」について片岡氏より語られました。

 

もっとも特徴的と言えるかもしれないのがアルファベット。とくに「A」や「K」、記号の「&」など、独特なかたちです。事前に寄せられた来場者からの質問には、このかたちに至る経緯について尋ねるものがありました。

その質問に対する片岡氏の回答は、「欧文書体はものすごい数があり、きれいなものもすでに多くある。日本語書体を作っているので、欧文書体そのものの美しさではなく、日本語として和文と欧文とを混植した時、こういったアルファベットはどうかなということを考えた。漢字・かなのエレメントを流用する点は実験的な部分でもあり、これからみなさんの中でどうなじんでいくだろうかと思っている」とのことでした。

文字の未完成な部分

砧明朝体は片岡氏が漢字、かな、カナ、アルファベットを主に制作し、木龍氏が記号の制作、エンジニアリングを担当されたそう。「作る人が異なると、認識の違いがかたちに影響する。差が開かないように、思っていることをお互い言葉にする」と木龍氏。

修正作業で一番多い箇所はどこなのか、と八十島氏からの問いに、 「かなで言うと、カーブの微妙な動き。でもこれはきりがない。文字は隣り合う文字によって、重心が片寄って見えることなどがある。それは文字の未完成な部分とも言えるかもしれないけれど、デザインをするみなさんにも、文字を組んだ時に、前後する文字によって位置を一字一字調整したりしてほしい。そうしたら文字はもっとよく見える」と片岡氏は話されました。

現在Lightが発表されている砧明朝は、RegularとBoldが制作中とのこと。

(レポート:伊東友子


『砧明朝体』や、木龍氏のロゴタイプ・シンボルマーク部門のベストワーク部門受賞作品『タイポグラフィックス・ティー 47の観光タイポグラフィポストカード 福島県「会津」』が展示されている「日本タイポグラフィ年鑑2018作品展」は、5月18日(金)まで開催中です。

5月22日(火)からは同じく見本帖本店2Fにて、第64回ニューヨークタイプディレクターズクラブ展」が開催されます。

日本タイポグラフィ年鑑2018作品展|第64回ニューヨークタイプディレクターズクラブ展

  • 会 期:

 4月6日(金)〜5月18日(金)/日本タイポグラフィ年鑑2018作品展

5月22日(火)〜6月22日(金)/第64回ニューヨークタイプディレクターズ展

  • 時 間:10:00~19:00 土日祝・休 ※入場無料

 ※5月21日|月|は展示替えのためクローズ

※4月6日|金|と6月22日|金|は17:00まで

  • 場 所:株式会社竹尾 見本帖本店2F
2018年5月16日

シェア

人物プロフィール

伊東友子

多摩美術大学大学院美術研究科修了。文字・言葉に纏わる制作および執筆を行う。

イベントレポート

type.center編集部

type.centerの編集部です。文字関連イベントをレポートしたり役立つ情報を発信できるよう努力してまいります。よろしくお願いします。

連載記事一覧
今日
昨日
おととい
ちかごろ
あいうえお かきくけこ さしすせそ たちつてと なにぬねの はひふへほ まみむめも やゆよ らりるれろ わゐゑを ん がぎぐげご ざじずぜぞ だぢづでど ばびぶべぼ ぱぴぷぺぽ 0123456789.
連載記事一覧
連載記事一覧
イベントレポート
多摩美術大学オープンキャンパス「この字ナンの字?」ワー…
多摩美術大学オープンキャンパス「この字ナンの字?」ワークショップレポート
2018年7月15日(日)、多摩美術大学オープンキャンパスの情報デザイン学科内のイベントとして文字つくりワークショップが行なわれました。 大日本タイポ組合のお二方が講師を勤める毎年恒例の「食べもの×文字」のワークショップ。 今年のタイトルは「この字ナンの字?」。そのワークショップ…
イベントレポート
第六期文字塾展トーク「この文字どうかな? どの字がすき…
第六期文字塾展トーク「この文字どうかな? どの字がすきかな?」聞いてきました。
 書体設計士の鳥海修氏が主催する「文字塾」では、一年をかけて塾生が各々の仮名のデジタルフォントを作ります。 11名の塾生の書体が集まった第六期文字塾の展覧会が、2018年6月3日(日)から9日(土)まで人形町ヴィジョンズで開催されました。 今年のタイトルは「すきこそもじの上手な…
イベントレポート
「フォントかるたで遊びながら覚える、フォント選びのTP…
「フォントかるたで遊びながら覚える、フォント選びのTPO」イベントレポート
2018年5月24日(木)、「フォントかるた」のイベントがフォントかるた制作チームとハイブリッド型総合書店「honto」との共催で行なわれました。内容は、「フォントかるたで遊びながら覚える、フォント選びのTPO」。
書体の知識や、選び方・使い方のレクチャーからはじまり、実際にフォ…
イベントレポート
味岡伸太郎 味明物語 東京展 ギャラリートーク(白井敬…
味岡伸太郎 味明物語 東京展 ギャラリートーク(白井敬尚×祖父江慎×味岡伸太郎)
見出し明朝体「味明」と「味明モダン」および本文用のかな書体の発表と「味岡伸太郎書体講座」を刊行した味岡伸太郎氏。大阪に続きペーパーボイス東京で開催の「味明物語東京展」において、4月17日(火)白井敬尚と祖父江慎の両氏を迎えたギャラリートークの様子をレポート。
イベントレポート
「言葉と絵で。福部明浩と榎本卓朗の広告のつくり方」に2…
「言葉と絵で。福部明浩と榎本卓朗の広告のつくり方」に230名
(株)モリサワ(森澤彰彦社長)は7月28日、本社4F大ホール(大阪市浪速区敷津東2-6-25)において、第21回モリサワ文字文化フォーラム「言葉と絵で。福部明浩と榎本卓朗の広告のつくり方」を開催。定員の150名を大幅に上回る230名が参加する盛況となった。
イベントレポート
「凸版文久体ができるまで 3」最終セッションでは小宮山…
「凸版文久体ができるまで 3」最終セッションでは小宮山氏が登壇
印刷博物館は、P&Pギャラリーにおいて開催した企画展「印刷書体のできるまで 活字フォントからデジタルフォントへ」にあわせ、凸版文久体のフォント制作に携わったデザイナーなどを招聘し、これまで2つの講演会を開催してきた。その最終セッションとして6月3日、祖父江慎氏とともに凸版文久体制…
イベントレポート
「情報化時代に考えたい漢字の話」 文化庁文化部国語課 …
「情報化時代に考えたい漢字の話」 文化庁文化部国語課 国語調査官・武田康宏氏が講演
千代田区立日比谷図書文化館は3月30日、日比谷コンベンションセンターにおいて、文化庁文化部国語課 国語調査官の武田康宏氏を講師に迎えて「情報化時代に考えたい漢字の話」をテーマとした講演会を開催し、年度末にもかかわらず200名が聴講に訪れた。
イベントレポート
鼎談『漱石本制作の舞台裏』〜「祖父江慎+コズフィッシュ…
鼎談『漱石本制作の舞台裏』〜「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」関連イベント〜
「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」関連トークイベント第2弾「鼎談『漱石本制作の舞台裏』」が3月10日、日比谷コンベンションホール・大ホールにおいて開催され、200名が聴講した。
イベントレポート
対談『造本あれこれそれ話』 〜「祖父江慎+コズフィッシ…
対談『造本あれこれそれ話』 〜「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」関連イベント〜
千代田区立日比谷図書文化館において開催されている特別展「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」の関連イベントとして対談「造本あれこれそれ話」が2月18日、日比谷コンベンションホールにおいて開催。祖父江慎氏と白井敬尚氏の2人のグラフィックデザイナーが、それぞれの造本に対する考え…
h
s
h
イベントレポート
「ニッポンのニッポン ヘルムート・シュミット」展 特別…
「ニッポンのニッポン ヘルムート・シュミット」展 特別講義レポート
昨年末に開催された、京都dddギャラリー「ニッポンのニッポン ヘルムート・シュミット」展。特別講義「タイポグラフィとタイポグラフィ」がヘルムート・シュミット氏を講師に、京都造形芸術大学にて開催されました。今回はこの特別講義内容をレポートします。
イベントレポート
「単位展−あれくらい それくらい どれくらい?」大日本…
「単位展−あれくらい それくらい どれくらい?」大日本タイポ組合とギャラリートーク
21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展「単位展−あれくらい それくらい どれくらい?」の関連プログラムとして、企画チームの前村達也氏、中村至男氏、稲本喜則氏、そして参加作家として大日本タイポ組合の秀親氏と塚田哲也氏らによる「大日本タイポ組合とのギャラリートーク」が開…
イベントレポート
ハングルセミナー「韓国の文字、いろいろと。」
ハングルセミナー「韓国の文字、いろいろと。」
2015年2月13日、ハングルセミナー「韓国の文字、いろいろと。」(講師:ノ・ウニュ氏、主催:佐々木愛氏)が開催されました。そのレポートをお届けします。また、記事の最後に、当日、伺いきれなかった参加者からの質問と、メールによるノ氏からの回答を掲載します。
イベントレポート
サイラス・ハイスミス×大日本タイポ組合 レクチャー&ワ…
サイラス・ハイスミス×大日本タイポ組合 レクチャー&ワークショップ
2014年11月7日、東京・銀座のMMM(メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド)で開催されたレクチャー&ワークショップ「文字を創り出すサイラス・ハイスミス×文字を再構築する大日本タイポ組合⇒言語を超えて文字で遊ぶ」のレポートをお届けする。