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「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」関連イベント「詩とグラフィックデザイン」鼎談

イベントレポート

「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」関連イベント「詩とグラフィックデザイン」鼎談

太田市美術館・図書館で現在開催中の展覧会「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」の関連イベントとして、出品作家の佐々木俊氏、祖父江慎氏、服部一成氏三者による鼎談が9月1日、同所で行なわれました。
テーマは「詩とグラフィックデザイン」。その模様をレポートします。

〈本と美術の展覧会〉の第2弾として現在開催中の「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」。 三つのテーマごとに分けられている展示空間のうち、最初の部屋を飾るのは佐々木俊氏、祖父江慎氏、服部一成氏の三名のデザイナーの作品。
詩人・最果タヒ氏の著作『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『愛の縫い目はここ』に納められている詩のなかから選んだ詩を用いて各者制作した作品です。
今回のイベントでは、その制作秘話や、デザイナーとしての詩や文学作品との関わり方などが語られました。
司会進行は、展覧会を企画担当された学芸員の小金沢智氏。

左から服部一成氏、祖父江慎氏、佐々木俊氏

展示構成について

お三方の自己紹介の後、まず最初に語られたのは、展示室の構成について。
展覧会の最初に足を踏み入れる[1.詩×グラフィック]の部屋は、三者の作品が隔たれることなく、混ざり合って展示されています。
街中にある看板などのかたちを模した佐々木氏の『詩の標識、あるいは看板』のシリーズ、
空間のいたるところにカッティングシート、紙等様々な材質を用い配置された祖父江氏の『定着』のシリーズ、
額に納められたポスターの形式をとった服部氏の『夜、山茶花梅雨』など詩と同タイトルを冠する一連の作品。

展示室1の風景

三者の作品がいたるところに設置されています

最初に小金沢氏より提示された作者ごとに壁をわけて展示するプランに対して、
「均等に空間を分けるのは、あまり面白くないのではと思った。 当初は詩ごとに分担を決めて……という案で、 それは最果さんの詩に対して三人の腕くらべみたいになるかなと。 三者で空間を作り上げていくほうがいいのではということで、 現在のかたちになった」と話す服部氏。
どの詩を使用するかも含めて、展示プランを持ち寄る打ち合わせを最果氏も交えて2回行なったそうです。

佐々木俊氏の作品について

続いて各人の出品作品について語られました。

最果氏の著作の装丁を手がけた佐々木氏が今回出品しているのは、 バス停・街中に建てられた看板を模した『詩の標識、あるいは看板』。

詩の選び方について、「外がでてくる詩や、街の名前などがでてくる詩を選んだ。
展示するのは美術館の中だけど、いずれ外にでたらいいなという意味もあります」と話す佐々木氏

バス停をモチーフにするのは、1回目の打ち合わせのあとに発想したとのこと。
「打ち合わせの帰り道、ここに詩があったらおもしろいかな、といったことを考えた。 道路に、当たり前のようにドンと詩があったりしたら……というのをまず思って。 最果さんが、街や外に詩を持ち出したいと以前話していたのを思い出して、それっていいよねえと。
『街に詩がある』というもの、詩の看板と標識がもしあったら、というものを作った。」

祖父江氏からの「なんでにぎやかな色をいっぱい使ったんですか?」という質問には、 「最果さんの詩には、『孤独』とか『死』といった、単語でいうと暗い印象のことばが多く使われているけれど、 暗い単語を使っていても、暗い詩ではない。 最果さんのデザインに関わる時は明るさを大事にしているので、今回もビビッドな色を使っています。 直線や丸を使用したのは、かたち自体には意味が生まれないように。グラフィックとしては無垢な感じに……。 そのほうが、詩が、読む人のものになるかなと」と回答。

服部氏は「街で突然言葉に出会うイメージで面白い。グラフィカルなので、ことばだけがむき出しで置いてある感じじゃなくて、模様みたいでもあって重くならず、洒落っぽくなっている」とコメント。

祖父江慎氏の作品について

祖父江氏は、 「僕は場所と文字をテーマにしました。通常文字は、それが配置されるべく用意された場所に入れられることが多いです。本の場合でもそうだし、街中のポスターでもそうで、 こちらにどうぞーって用意されている。 それじゃあ文字が窮屈なんじゃないかなって思う。 文字や文章は、その内容ににあう場所に解放されていいと思う。2次元である必要もないのかも」 と自身の作品の着想について語られました。

「文字との出会いかたによって、言葉は違う意味を発することがある」と語る祖父江氏

『定着_投影』は展示スペースの一番最初の通路の壁に、カッティングシートを用いて展示された作品。 光で斜め上から投影された影のような文字で、『まくらの詩』が綴られています。

「本に文字が書いてあることを当然と思っている人が多いけれど、それは最近になってからのことで、 持って移動できることばをグーテンベルグが発明しちゃったから。 石に彫ってある文字や石碑など、言葉はもともとはその場所に住んでいるものだった。
『定着_碑文』はトラヤヌス碑文のまねっこで、見上げると遠くの文字が大きく近くの文字が小さくなっている。 下から見上げても、読みやすい。 距離感がわからなくなって、言葉がここに出現したぜって感じ」

服部一成氏の作品について

「詩はどんな書体でどんな色でどんな風に組まれたとしても、詩としての根本が損なわれたり上がったりするものではない」と詩に対する際の姿勢を語られる服部氏

服部氏の作品は、額縁に納められたポスター状のもの。
「普段の仕事の時から、詩や文章、文学はそれぞれ独立したものだからそれらに対してデザインはいらないのでは、と考えていて。 ブックデザインを考えたりもするけれど、それによって中身の文章が影響を受けるというものではないと思っています。
今回ビジュアル的な作品を作るにしても、やることに必然性が感じられないと、説得力が出せないなと思って迷った。 詩の内容を意識して、内容に対してのデザインと考えてしまうと、墓穴を掘るというか……。
悲しいシーンで悲しい音楽をかけるようなことはしたくないなと」

「詩の内容とは違うところで関与したいと思って、詩のリズム、音律にかたちが介入していくという発想で作りました。 曲線・カーブを持った形状の中に、砂時計のように、垂直に流れていく言葉をいれようというイメージ。」

「装丁をする時も、作家とデザイナーの領域って考えませんか?」と服部氏の発言に 深く祖父江氏が首肯。「文字のかたちが内容を説明しだすと伝わらなくなる」と祖父江氏。

詩をグラフィックで表現することについて

作品制作で詩を扱う時と、デザイナーの仕事で詩を扱う時との共通点、異なる点について、小金沢氏より質問が続きます。

『死んでしまう系のぼくらに』は、佐々木氏が初めて手がけたブックデザインの仕事だそう。
「詩集のタイトルに対してどういう洋服を着せるか、というのがカバーデザインだと考えた。 タイトルを読んで、どう感じたか……読書感想文のような考えがグラフィックデザインに反映されていると思う」と佐々木氏。

『千年後の百人一首』は、絵をアーティストの清川あさみ氏が描き、百人一首の現代語訳を最果氏が行なった本。
アートディレクションを行なった祖父江氏は、 「絵というのは強い。絵と歌を同じ強さにするには、どうしたらいいのかを考えさせられました」と話しました。

各号多様なレイアウトデザインが試みられている雑誌『真夜中』では、 No.2などに最果氏の詩が掲載されています(雑誌は現在休刊中)。 服部氏のアートディレクション。
「デザインが何をしたら、文学にとっての意味のあることになるか、というのを考えて色々試行錯誤した」とのことでした。

文字の使い分けについて

質疑応答の際に、「言葉をものに定着する際、文字を使うのにあたって、今回の作品の中ではフォントの使い分け、選び方にはどのような考えがあったか」 という質問が来場者の方よりありました。

佐々木氏は、使用した書体に秀英丸ゴシック、秀英角ゴシック銀をあげ、
「こういうのに理由をつけるのは難しいけれど……」と踏まえた上で、
「色彩的にどう見えるか、というのを考えて、ここは濃厚に、ここは淡く見せたい、という風に太さなどを使い分けている。絵の具的な扱い」と話しました。

祖父江氏は、 「最初(佐々木氏と服部氏の)二人はゴシックを使用するだろうなと思ったから、 明朝を使うのは僕の担当だよなあと思いました。 ただカッティングシートを使用して明朝を扱う場合、あまり文字サイズが小さいのができない…… 横線に太さのあるものでないと困ります。 しかもうるおいがほしい。ということで漢字は筑紫明朝LB。 ひらがな、カタカナについては筑紫アンティーク明朝を組んでいます」とのこと。

服部氏は、 「途中まで明朝を使用していたけれど、最終的にはゴシックになった。 明朝のほうが文字っぽい印象で、ゴシックのほうがかたちっぽくなると思って」と話し、 普段からよく使用するものとしてイワタ明朝オールドをあげられました。

鼎談の最後は、 「文学を使用した展覧会って、つい企画っぽいものと思われたりしがちだけど、 会場にはいってちゃんと文章を読みながら歩いてみたら、 本の中でみる文字よりもイキイキと音が伝わってくる気がしました。窮屈なページにおさめられた文章よりも空間の中にことばがあるこちらのほうが自然なことなのかもと思いました。
本に閉じ込めていた今までよごめんなさい! と言いたくなるようなすごくいい空間になりました」 との祖父江氏の言葉で締めくくられました。


「ことばをながめる、ことばとあるく」の展覧会は、この展示室に続き、
管啓次郎氏、佐々木愛氏による「詩×絵画」の展示室2、
大槻三好氏、大槻松枝氏の短歌と惣田紗希氏のイラストレーションによる「短歌×イラストレーション」の展示室3に続きます。
また今後もイベントが多数企画されており、9月22日にはこの鼎談の模様も収録した図録も発売されます。

太田市美術館・図書館は美術館と図書館やカフェ、イベントスペースなどが混然と一体となった施設。
館内を歩いているだけでも楽しく、1日いても飽きなさそうです。

図書館スペース。「えほん」の文字が可愛い!

こちらの施設までのアクセスは、小金沢氏のブログの記事がとても参考になりますので、お出かけ前は要チェック!

(レポート:伊東友子

2018年9月11日

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