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アン・サンス インタビュー(後編)  デザイン教育のポテンシャルを高める

アン・サンス インタビュー

アン・サンス インタビュー(後編)  デザイン教育のポテンシャルを高める

韓国を代表するグラフィックデザイナー、デザイン教育者であり、1980年代に革新的なハングル書体「アンサンス体」を発表したタイポグラファーでもあるアン・サンス。

type.center編集長(大日本タイポ組合)が韓国・ソウルでアン氏にインタビューしました。今回の後編では、2013年にアン氏が創立したデザイン学校「PaTI(Paju Typography Institute)」の興味深いコンセプトについてうかがいます。


アン・サンス インタビュー(後編)

デザイン教育のポテンシャルを高める

インタビューは、国立現代美術館ソウル館内のPaTIの展示スペースで行われた。写真右上の壁面にはハングルの字母を組み合わせて韓国語で「遊ぶだけ!」と書かれている。

アン:アン・サンス氏
tc:type.center編集長(大日本タイポ組合:秀親、塚田哲也)

PaTIはデザイン学校をデザインしていくプロジェクト

tc:

PaTIではタイポグラフィについてどのようなことを教えているんですか。

アン:

タイポグラフィの何かについて深く教えるというより、タイポグラフィ自体がデザインや文化の根本、骨格だという思想に基づいて教えています。もちろん、タイポグラフィについて深い関心がある学生さんたちもいるので、その人たちに詳しく教えることはありますけど。タイポグラフィについて強制して教えるというかたちではないですね。

tc:

学生は何人ですか。

アン:

約50人で、そのうち大学院生が12人、学部生が40人くらいです。

tc:

アンさんは毎日教えているのですか。

アン:

みんながなかなか時間をくれないので(笑)、毎日ではないですね。ただ、「私たちが創る学校」という授業が別にあって、それを教えています。“designing school”という意味の授業です。PaTIは学校をデザインするプロジェクトみたいなものなんですね。学校自体をデザインしていく。私は、ずっとそういうデザインプロジェクトをやりたいと考えていたんです。

 

韓国には「人生、60年」という言葉があります。自分は今、62歳なので、もうその60年は終わりました。日本にも似た言葉がありますか?

tc:

60歳を還暦と呼びますね。60年で人生ひとめぐりと考えて、60歳の誕生日に赤いちゃんちゃんこを着て、赤い帽子をかぶってお祝いします。似てますね。

アン:

ああ、後でそういう赤い帽子の写真があったら送ってください(笑)。

私の場合は、60歳以降をどういうふうに送れば一番価値のある人生になるだろう、とずっと考えていたんですね。最も深く考えたのはデザイナーとデザインの教育者についてです。その2つを合わせると、デザイン学校をデザインする、というアイデアに至りました。

tc:

デザイナーとデザインを教える人を同時に育てるということですか。

アン:

はい。今までの自分の人生をふりかえると、デザイナーでもあって教育者でもあったから、それを合わせたのがこの形(国立現代美術館ソウル館内にPaTIの教室を再現したスペース。同館で開催中の「バウハウスの舞台実験—人間、空間、機械」展の一環として展示された)なんです。“designing school”、それがPaTIです。

PaTIがバウハウスで遊ぶ

tc:

今はこの美術館内の教室に学生が来て授業をしているんですか。

アン:

はい。現在、この国立現代美術館ソウル館ではバウハウス展(国立現代美術館ソウル館「バウハウスの舞台実験—人間、空間、機械」展バウハウス・デッサウ財団 同展覧会紹介記事)が行われています。バウハウスの展覧会は、韓国では公式にはこれが初めてだと聞きました。ドイツから展示物を直接持ってきているんですが、キュレーターの方がPaTIを見て、「理念がバウハウスに似ている」と、展覧会への参加を打診されたんです。

展示にはいろいろな方法が考えられました。PaTIがつくった作品を壁に飾るとか、授業の写真を貼るとか、または展覧会のタイトルに合わせて何か作品をつくるとか。でも、そうではなくて、PaTIの教室をそのまま見せることにしました。それで、2年生の教室をそのままここに移してきたんです。

tc:

机とかも持ってきたんですか?

アン:

そのまま持ってきました。学生さんたちもここに来て、100日間、授業を全てやります。ここで行われる全てのPaTIの活動が展示になるし、このインタビューもまた展示になります(笑)。

tc:

僕らも今、来場者から見られていますね(笑)。

アン:

展示タイトルは、「PaTI Plays Bauhaus」。PaTIがバウハウスで遊ぶ、という意味です。バウハウスというのはみんなが憧れる神話的な存在ですよね。でも、よく考えてみると、当時、バウハウスで活動していた人たちは今の学生さんたちと同じ年代です。ヴァルター・グロピウス(バウハウスの創立者で建築家)も私より年は下だったと思います(笑)。だとしたら、バウハウス自体はもう過去のものですし、私たちもバウハウスで遊べるということですよね。

「PaTI Plays Bauhaus」の展示では、美術館内にPaTIの教室がそのまま持ち込まれた。後ろの壁に記された文字は「PaTI Plays Bauhaus」のロゴで、「ㅍ」はPaTIのハングル字母の、「b」はBauhausのそれぞれ頭文字。

tc:

神話化されていたけど、遊べるよ、と。

アン:

はい。パフォーマンスも全部で5回あって、毎回異なるパフォーマンスをしています。1回目と2回目は舞台で公演みたいなイベントをやりました。3回目はここを回るパレードをしました。1月中にパフォーマンスをもう1回やります。展示は2月22日に終わるんですが、前日の21日には全員が集まって大変大きなパフォーマンス、お祭りになると思います。

韓国語でジャンチ(宴)と言うんですが、美術学校、デザイン学校にはそういうジャンチ的なものがあるべきなんです。人々が集まって、楽しんで、祝ったり、歌ったり、ダンスをしたり。楽しいジャンチが毎日行われる、そういうクリエイティブな学校が必要だと考えたんです。学校をデザインするというのは、クリエイティブな環境をデザインする、ということですからね。

今、韓国ではデザインの層が厚く、深くなりつつある

tc:

韓国の最近のデザイン全般についてはいかがですか。何かムーブメントはありますか。

アン:

雰囲気的には盛り上がっている気がしますね。韓国のデザインの層が厚くなってきているように思います。90年代まではそんなに深くはなかったですね。もちろん、その頃にもデザイナーはいたんですけども。今は、空いているところが全部埋まっていくような気がしています。

tc:

それはなぜなんでしょう?

アン:

韓国という国は急成長したんですね。急に成長すると、中味が追いつかないところがある。でも、成長が穏やかになると、その間に経験を積んでくる。スピードが落ち着いてきたら、中味を見るようになって、それが固まり、空いていたところが埋まってくるんです。自然な現象だと思いますよ。

ただ、今はデザイナーを過剰に供給する時代になりましたね。デザイナーとして生きていくには、緻密さ、繊細さがないと生き残れません。そういった部分がこれからだんだん充実していくと思います。今、韓国ではどんどんデザインの層が厚く、深くなっていますよ。

最近、若者たちがデザインしているものを見ると、醜いものとか、見たくないものがあまりないように思います。SNSなどにあがっているものを見ると、全部が全部というわけではないけれど、“結構いいじゃない?”というふうに思えますね。

tc:

なるほど、それはこれからが楽しみですね。本日はどうもありがとうございました。

最後に関係者一同でアン氏を囲み、記念撮影。片目を隠すポーズはアン氏のポートレイト独特のスタイル。

(構成:稲本喜則、編集協力:ノ・ウニュ)

2015年4月15日

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人物プロフィール

安 尚秀

Ahn Sang-Soo。韓国を代表するグラフィックデザイナー。

1981年、ソウルの弘益大学で美術修士号を取得。1985年、アングラフィックスを設立。アンサンス体を発表してハングル書体の新しい可能性を示した。以後、各国で個展やグループ展を開催するとともに、さまざまな賞の審査員や国際イベントのホスト役等を務める。1991年、母校・弘益大学においてタイポグラフィ、エディトリアル・デザインの教授に就任。ICOGRADA副会長(1997-2001)、韓国視覚情報デザイン協会会長(1999-2000)を歴任。2007年、ライプツィヒ市からグーテンベルク賞を受賞。2012年よりソウル市デザイン財団の理事長を務める。2013年にはデザイン学校「PaTI(PajuTypographyInstitute)」を創立し、新しいかたちのデザイン教育に取り組んでいる。

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