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タイプデザイナーの視点(後半)「私と書体、私の書体」「書体をつくるうえで大切なこと」

第3回タイプデザインコンペティション特別セミナー&表彰式レポート

タイプデザイナーの視点(後半)「私と書体、私の書体」「書体をつくるうえで大切なこと」

株式会社モリサワによるタイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」(2015年3月20日 東京・秋葉原のUDXシアターにて)でのセミナーのレポート、セッション1「Pan CJKフォントの誕生」に続いての後半をお届けする。

セッション2 「私と書体、私の書体」

豊島晶氏

タイプデザインの楽しさを語る「すずむし」作者の豊島晶氏

2つめのセッションは、豊島晶氏による「私と書体、私の書体」。豊島氏は、「すずむし」で「タイプデザインコンペティション 2012」和文部門モリサワ賞銅賞・明石賞・ファン投票1位のトリプル受賞を達成。「えんそく」では「タイプデザインコンペティション 2014」和文部門ファン投票2位を獲得しており、「すずむし」は2014年にモリサワからリリースされ、親しみのある表情で高い評価を得ている。

セッションは、コレクションや趣味といった自身の紹介から始まり、次第にタイポグラフィへの興味、タイプデザインへの取り組みへと話が進む。専門学校の卒展の際に制作した初のタイプデザインを写し出すと、「これを拡張し、FONT1000で書体を発表した。私が学生の頃はモリサワ『タイプデザインコンペティション』のようなものがなく、FONT1000が唯一の発表の場であった」と話し、「『日本タイポグラフィ年鑑』審査会のとき、味岡(伸太郎)さんに『きみは書体作りを続けたほうがいい』と言って頂き、その言葉を信じて、いままで書体を作り続けてきた」と、エピソードを添えた。そして、これまで豊島氏が手がけてきた書体を紹介すると、話題は「すずむし」の制作プロセスへ

落語の世界観を表現した書体「すずむし」

「『すずむし』は落語の世界観を表現した書体。下町の風景や、人情的で暖かみのある人たちの日常…そんなイメージを寄席文字や勘亭流ではなく、もっとポップでかわいらしい文字で表現できないかと思って制作した」「すずむし」のひらがなは、漢字やカタカナに比べて、やわらかく描かれており、この理由を豊島氏は「日本語の文章のほとんどがひらがなで構成されている。漢字とひらがなをビジュアル的に見た時、漢字がアクセントのように使われていると感じ、意図的にひらがなをやわらかくすることで、コロコロとした、リズミカルで楽しい雰囲気になるのではと思った」と説明。

骨組みに面白さを持たせて制作していると言い、点、トメ、ハネ、ハライなどに、ぽてっとした墨だまりのようなモチーフを使うことで、遊び心のある印象的な書体に仕上げている。

制作のようすを語る豊島氏

豊島氏が文字を描くときに一番大切にしているのは「空間の使い方」だ。初期に描かれた「すずむし」と最終版を見せ、「線がどこに流れるのが気持ちいいか、どんなハネ方をするとなめらかか、ここに点を打つと間が抜けてかわいいんじゃないかというように、バランスを崩しながら、一定のリズムを保ちつつ、ちょうどいいバランスをとるというのが難しい。でもそこが一番楽しいところ」とタイプデザインの醍醐味を語る。

そして、話中に自身のノートを映し出すと、「(書体制作にあたって)こんな雰囲気というメモやラフをノートに書き留めるものの、具体的なスケッチは描かない」と話し、頭の中のイメージをもとに漢字もひらがなもすべてMac上で作ること、漢字を先に作りイメージを頭に入れてからひらがなを作ると心地いいものになることなど、書体作りの持論を展開した。

豊島氏は最後に「すずむし」がカフェで作業をしながら制作されたことに触れて、「文字は気楽に、誰にでも作ることができる。知識も技術も重要になるが、ファーストステップとして、いまの状態で試しに作ってみてもいい。ゼロに近い状態でしか作れない文字もあり、それは貴重な、新しい書体が生まれるチャンス。必要なのは、こういうものが作りたいという創造力と、やってみようという行動力、そして少しの忍耐力だと思う」と話し、セッションの幕を閉じた。


セッション3 「書体をつくるうえで大切なこと」

鳥海修氏

「ハートで作る」と熱く語る鳥海修氏

最後のセッションは、「タイプデザインコンペティション 2014」で和文部門審査員を務めた字游工房の鳥海修氏による「書体をつくるうえで大切なこと」。鳥海氏は冒頭で「今日は『ハートで作る』という話をしたいと思う」と切り出し、京都精華大学での7年間にわたる講義の中で作られた書体について話を始めた。

紹介されたのは、クリームシチューの食材に墨をつけ、様々な紙に描いた文字をもとに制作した「クリームシチュー」、良寛の「愛語」をもとに制作された「おやすみ良寛」、古典の書をもとに作られた「おかあさん」の3書体。

鳥海氏はその書体にまつわるエピソードとして、「おかあさん」制作チームリーダーの言葉を読み上げた。「作り始めは書体作りに興味がなかったけれど、だんだんやっていくうちに面白くなってきて、完成したときは自分の子どものように思った」。これに対し、鳥海氏は「『書体を作って、自分の子どものように思う』。この感覚が実は学生に一番感じてほしい気持ちである。手で作るというのはそういうことなんだ。まさにそれだと思ってとてもうれしかった」と喜びを打ち明けた

文字はハートで作る

話は和文部門モリサワ賞受賞作に移り、金賞を受賞した「わかつき丸ゴシック」に対しては、審査の際に審査員の原研哉氏が話した「この書体は優しい。今の時代にこんな優しい書体はないんじゃないか」という言葉が受賞のきっかけになったのではないかと説明。銀賞を受賞した「陰影明朝體」に対しては、「旧字体を使っているということもあって、文字がちょっと暗い感じがする。重いなと思った」と感想を述べた。

そして、「誰しも少なからず生きづらさのようなものを抱えているのではないか」という想いから、「本を読んで救われるような心に寄り添う書体が作りたいと思った」と作者の制作意図を読み上げ、さらに「重要なこと」として「なぜならわたし自身も本に救われた経験が過去にあるから」という一文を紹介。

「読み手がなにか鬱屈した、鬱々とした気持ちで本を手に取って、そのページを開いたときにこの明朝で組まれている。その紙面を読んでいくに従って、時間がゆっくり進んで徐々に心のなかに文章がしみいってくるというようなイメージでこの書体を作ったのではないかというくらい、運筆も遅く、沈着な文字だと思う。文学を読むということを考えれば、当然、こういう書体があってしかるべきだと僕は思う」と続けた。

最後には質疑応答が繰り広げられた

この2書体について、鳥海氏は「明朝体と丸ゴシック体というベーシックな書体で書体コンペに挑戦するのは難しいと思う。それが最後まで残るというのは完成度が高いということ」と高く評価した。

鳥海氏は話の最後に「ハートで作る」ということについて「タイプデザインまたは文字は、手で描くということがとても重要だと思う。手と心はつながっているし、心の震えが手に現われる。コンピューターが便利になっても、直線が簡単にひけても、きれいな曲線が簡単にひけても、手で描くというのが前提にあるからきれいにひける。ぜひとも手で描いた書体で『タイプデザインコンペティション 2016』に応募してほしい」と次回の「タイプデザインコンペティション」への期待を語り、話を終えた。

2015年5月26日

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人物プロフィール

豊島 晶

短大、専門学校を卒業後いくつかのデザイン会社を経て2009年から2014年の約5年間ニューヨークを拠点にデザインディレクター・タイプディレクターとして活動。2012年(株)AKIPON DESIGN HOUSE設立。2014年9月株式会社モリサワより「すずむし」をリリース。2014年帰国後、東京在住。現在は桑沢デザイン研究所にて専任教員として勤務。日本タイポグラフィ年鑑、東京TDC、N.Y. TDCなど入選多数。2011年日本タイポグラフィ年鑑にてロゴ・シンボル部門ベストワーク受賞。2012年モリサワタイプデザインコンペティションにてモリサワ賞 銅賞、明石賞、ファン投票1位のトリプル受賞。

鳥海修

1955年山形県生まれ。多摩美術大学GD科卒業。1979年株式会社写研入社。1989年に有限会社字游工房を鈴木勉、片田啓一の3名で設立。現在、同社代表取締役であり書体設計士。大日本スクリーン製造株式会社 のヒラギノシリーズ、こぶりなゴシックなどを委託制作。一方で自社ブランドとして游書体ライブラリーの游明朝体、游ゴシック体など、ベーシック書体を中心に100書体以上の書体開発に携わる。2002年に第一回佐藤敬之輔顕彰、ヒラギノシリーズで2005年グッドデザイン賞、 2008東京TDC タイプデザイン賞を受賞。京都精華大学特任教授。

第3回タイプデザインコンペティション特別セミナー&表彰式レポート

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