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「ニッポンのニッポン ヘルムート・シュミット」展 特別講義レポート

イベントレポート

「ニッポンのニッポン ヘルムート・シュミット」展 特別講義レポート

京都dddギャラリーでは、昨年11月9日から12月22日までの間、第205回企画展「ニッポンのニッポン ヘルムート・シュミット」展を開催。これに併せてヘルムート・シュミット氏を講師に、11月26日には京都造形芸術大学情報デザイン学科特別講義を開催し、盛況を呈した。そこで今回は、その「タイポグラフィとタイポグラフィ」と題した講義内容をレポートする。


京都造形芸術大学情報デザイン学科特別講義

「タイポグラフィとタイポグラフィ」

ヘルムート・シュミット氏

『タイポグラフィ・トゥデイ』

シュミット氏は、まず2015年8月に改訂増補版が刊行された『タイポグラフィ・トゥデイ』の内容から話し始めた。

 『タイポグラフィ・トゥデイ』の出版は、1970年代の後半、アイデア誌からシュミット氏の作品を8ページの寄稿記事にするよう依頼があったことに始まる。「その時点で私はページ・レイアウトも自分のやり方を貫くと決めていた。レイアウトを編集スタッフに見せると、雑誌のグリッドに従っていないという声があがった。私は躊躇なくそのレイアウトを撤回し、タイポグラフィ特別号の出版を提案してみた。当時の編集長の石原氏は私の提案を受け入れ、160ページを自由に使ってよいと言ってくれ、掲載するデザイナーを自由に選べることになった。まずティポグラフィシェ・モナーツブレッテル誌( Typographische Monatsblätter、以下、TM誌)の編集長のルドルフ・ホシュテットラー氏に話したところ、デザイナーを選別し、紹介してくれ、大いに助けられた」と当時を振り返っている。

 『タイポグラフィ・トゥデイ』(225×297ミリ)は、TM誌(230×297ミリ)より5ミリ幅を狭くし、一辺35ミリの正方形を横に5個、縦に7個、5ミリの間隔を置いて配置したグリッドがベースになっている。

 当時アイデア誌の編集室は東京に、シュミット氏の住居兼仕事場は大阪の江坂にあり、すべての作業は別々に行わなければならず、テキストはアイデア誌の薦めにより東京の写植にオーダーしなければならない。版下は見開きで構成され、テキストは薄いブルーで事前に印刷されたグリッドの上に張り付け、画像の位置は黒い枠で指定したという。画像は別に添付しなければならなかった。

 「印刷のための最終の版下は見開き2枚、つまり4ページ分とかなりの大きさになるため、日本の狭い和室で作業するのは大変だった。何ページ分か仕上がると航空貨物で東京に送る。私にとってこの仕事は素晴らしく楽しいものだった」とシュミット氏は当時を振り返っている。


 一方、タイポグラフィ・トゥデイは2か国語版である。英語と日本語の分離の仕方は全ページを通して一貫しており、それは寄稿者のポートレート写真の配置にも影響を及ぼしている。ウイム・クロウエル氏のポートレートは英語側に、杉浦康平氏は日本語側に掲載されている。「この原稿を書いている時、偶然気が付いたのだが、ルーダーの写真を無意識に中間点に置いていた。それは現実を反映していたといえる。ルーダーは西洋にも東洋にも属していたからだ」(シュミット氏)

 さらにシュミット氏は、杉浦康平氏からの寄稿「漢字とカナ:共震しあう二重性」について「日本のタイポグラフィの現状を見事に説明している」と絶賛した上で、「タイポグラフィを学ぶ者にとって必読の一文と言える。私にとっては、日本語の文字組みの見方を変えるきっかけになった」とし、その一部を抜粋して紹介した。

「漢字は3500年の歴史をもつ。一方カナ文字の成立・使用の歴史は、1000年に満たない。出生年代が異なる文字体系の共存…。これら2つの相異なる表記体系は、水と油・陰と陽ともいえる、対立的な構成原理を内包することになる」「漢字カナ交じり文は、組み上げたときの乱雑さとひきかえに、自然な可読性を獲得していることになる」


design is attitude プロジェクトの展開

続いて、デザイナー、フィヨドル・ゲイコ氏がFH-D デュッセルドルフ応用科学大学の卒業制作でヘルムート・シュミット氏を取り上げた「design is attitude」の話に。

 フィヨドル氏は「私は、あるひとりのタイポグラファの膨大な作品を取り上げようと思う。ヘルムート・シュミットの作品は、その姿勢と一貫性において範とすべきものである」と説明した上で、 ヘルムート・シュミット氏の言葉「 design is attitude (=デザインは姿勢である)」をタイトルとする サイズ180×240ミリ、152ページのコンセプト・ブックを制作した。

本書の構成は、内容のコンセプトとデザイン・コンセプトに分類されており、 後者ではシュミット氏の作品に見られる、4つの書体(アクチデンツグロテスク/ギルサン/ユニバース/ローティス)についても言及されている。

 またこのプロジェクト「design is attitude」は書籍だけではなく、展覧会も開催された。

 第1回目の展覧会は、2006年に韓国ソウルのwelcome galleryで開催された。ポスターデザインはアン・サン・スー氏。

 2回目は2007年、バーゼルの工芸学校。ポスターは当時バーゼルで勉強中だったニコール・シュミット氏が担当。3回目は2007年、デュッセルドルフの応用科学芸術大学で開催され、フィヨドル・ゲイコ氏がポスターのデザインを担当した。


「design is attitude」でフィヨドル氏は、シュミット氏の著作を個人的なコメントを添えて紹介し、長所・短所を挙げている。このリストをもって、ヘルムート・シュミット氏の功績を改めて確認してみたい。

  • 『タイポグラフィック リフレクション』(1992年より・自主制作)

    • 長所:短くて情報豊か、フリーなデザイン
    • 短所:広く行き渡っていない、私的出版物
  • 『バーゼルへの道 the road to basel 』(1997年・朗文堂)(Amazon)

    • 長所:本書はバーゼル・スクールのドキュメンタリーである
    • 短所:この本を手に取るのが怖いと感じる
  • 『タイポグラフィ・トゥデイ』(1980年・誠文堂新光社) (Amazon)

    • 長所:ボリュームが増し、より洗練された
    • 短所:ソフトカバーゆえに、どちらかというと雑誌のようである
      ※ 『タイポグラフィ・トゥデイ』は2015年に「増補新装版」としてハードカバーで出版された。
  • 『japan japanese/ニッポンのニッポン』(1968年より連載)(Amazon)

    • 長所:日本文化について短いけれど情報が満載である
    • 短所:まだ1冊の本にまとめられていないこと
      ※『japan japanese』は2012年に朗文堂から単行本として出版された。
  • 『日本タイポグラフィ年鑑1985』(1985年・朗文堂)(Amazon)
    • 長所:本書はシュミットのデザインのおかげで、彼の言葉を借りれば、スーパーマーケットにならずに済んでいる
    • 短所:44ページにわたる広告。私個人は広告に害があるとは考えていない。醜悪な広告の責任は広告主ではなくデザイナーにある
  • 『hats for jizo』 かさこじぞう英語版(1988年・朗文堂)(Amazon)

    • 長所:大人と子供のための絵本
    • 短所:絵が(見開きページの)真ん中にあって見づらい

以上、ヘルムート・シュミット氏による京都造形芸術大学情報デザイン学科特別講義「タイポグラフィとタイポグラフィ」から抜粋をお届けした。これに先駆けて2015年11月9日(月)に京都dddギャラリーで行なわれたギャラリートークのアーカイヴ映像も配信されているようなので合わせてご覧いただきたい。

2016年2月2日

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人物プロフィール

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Helmut Schmid

ヘルムート・シュミット、1942年オーストリア生まれ。西ドイツで植字工従弟期間を終了後、1960年代、スイスのバーゼルスクールで、モダンタイポグラファのエミール・ルーダーのもとで学ぶ。1970年代中頃、西ドイツで社会民主党のウィリー・ブラント、ヘルムート・シュミット両首相のための制作活動に携わる。1980年、大塚製薬の医家向け医薬品のパッケージやポカリスエットのアイデンティティの確立。ヘルムート・シュミットは、現在大阪を本拠に、商業デザインの仕事と並行して、自主制作に携わっている。1992年以来、自主制作シリーズ「タイポグラフィック・リフレクション」を発行し、現在11号に至る。また、専門誌「ベースライン」「アイデア」「TM」等への寄稿者である。 著書:『タイポグラフィ・トゥデイ』(1980/2015年)誠文堂新光社発行、『バーゼルへの道』(1997年)朗文堂発行。フィヨルド・ゲイコの編集、デザインによる『helmut schmid: design is attitude』が2006年ビルクホイザー社より発行。

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