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対談『造本あれこれそれ話』 〜「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」関連イベント〜

イベントレポート

対談『造本あれこれそれ話』 〜「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」関連イベント〜

対談『造本あれこれそれ話』

祖父江氏の感性「うまくいかない喜び」を探る

対談「造本あれこれそれ話」が2月18日、日比谷コンベンションホールにおいて開催され、200名が聴講に訪れた。

白井敬尚氏と祖父江慎氏 (撮影:堺亮太)

同イベントは、現在、千代田区立日比谷図書文化館において開催されている特別展「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」の関連イベントとして企画されたもので、祖父江慎氏と白井敬尚氏の2人のグラフィックデザイナーが、それぞれの造本に対する考え方や取り組みなどを語った。

対談は、「うまくいかない喜び」をコンセプトに、従来にはない常識を覆すようなブックデザインを手がける祖父江氏独特の感性を白井氏が探るかたちで進行。時折、話が脱線する祖父江氏を白井氏が引き戻す会話は、常に会場を明るい雰囲気にしていた。
2人は、以前から親交はあったものの、「デザイン」についてまじめに語り合うのは初めてのこと。同じ愛知県出身の2人は、まず同郷のデザイナーである味岡伸太郎氏との関わりについて話を始める。「同じ愛知県にこんなに凄いデザイナーがいることに驚いた」と語る白井氏とは対照的に「浪人生のときに、よく味岡さんのお宅に遊びに行っていた。とくにデザインの勉強をするのではなく、当時は味岡さんのお子さんの子守り専門員でした」という祖父江氏。
しかし、この味岡氏との関わりが、のちに2人を巡り合わせることになる。祖父江氏は「そこ、忘れてました、びっくりポンです」。白井氏によると1980年代に東京・吉祥寺で開催された味岡氏の個展で2人は初めて出会っている。

集めて並べることを楽しむ

今回の対談に際し、白井氏は事前に祖父江氏のデザイン事務所を訪れ、簡単な打ち合わせをしている。会場では、その時に白井氏が撮影した祖父江氏のデザイン事務所の写真数点が公開された。

最初に紹介された写真は、事務所内の棚に並ぶ、大量の恐竜フィギュア。「これを見れば、祖父江慎という人物がブックデザインをする以前にどのような人物かわかる。きっと祖父江さんは、ひとつのことが気になると、徹底的に追求していく性格なのだと思う」(白井氏)

(撮影:堺亮太)

フィギュア収集のきっかけは、祖父江氏が誕生日に夫人からもらった「ガチャガチャ」のカエルのフィギュアだった。本当は、プレゼントのおまけとしてもらったものなのだが、祖父江氏はそのカエルフィギュアのリアルな表現・造形に魅了され、すぐに100円玉を持って「ガチャガチャ」を回しにいったという。しかし、お目当てのカエルフィギュアの「ガチャガチャ」がなかったことから、インターネットで卸問屋を探し出し、いわゆる「大人買い」でカエルフィギュアシリーズをコンプリートしている。現在は、カエルシリーズから恐竜シリーズの収集に力を入れているとのこと。これだけを聞くと、ただのフィギュアコレクターとなってしまうが、祖父江氏のすごいところは、その恐竜に関する情報を知識として持つことを楽しんでいることだ。興味を持つと妥協することなく徹底的に調べ、それに喜びを感じる。ここに祖父江氏のブックデザインへの取り組み姿勢が垣間見える。


(撮影:堺亮太)

続く写真は、夏目漱石の「坊っちゃん」だけが500冊近く並べられた本棚。なぜ、同じタイトルばかりを集めて並べているのか。そこには祖父江氏独特のこだわりがある。
「同じ出版社の同タイトルでも文字組が古くなり改訂版がでることもあり、その微妙な変化を楽しんでいる。複数の出版社から発行された本、この場合『坊っちゃん』だけど、どの年代にどのように変わったのかをながめることが楽しくてしょうがない」(祖父江氏)
この祖父江氏の行動について白井氏は「この徹底した資料収集方法は、仕事がきてから始めるのではなく、もともと自分の興味で集めていることがすごい。さらに自分で面白いポイントを見つけていく性格が祖父江さんのブックデザインに反映しているのかもしれない」と分析する。

1番遠いかもしれないことをイメージすることで発見できること

そして、話は今回のテーマである、祖父江氏の「うまくいかない喜び」について。白井氏は、まず祖父江氏がブックデザインに組み込む従来の感覚では真似できない様々な「仕掛け」について言及。白井氏は「今回の展示会でもそうだが、祖父江さんのブックデザインは、視覚や味覚など五感に関わることを本に還元しているように感じる。従来、本は紙の束という物質の中に文字や図版などが定着するものだが、それ以外のものを盛り込もうとする結果として『仕掛け』がでてくるのか」と疑問をぶつける。

(撮影:堺亮太)

これに対し祖父江氏は「とくに『仕掛け』を意識しているのではないが、もともと僕はデザイナーに向いていないことと、本を読むことが苦手なことがその背景にあるのかもしれない。だから頭から文章をちゃんと読まなくても、おおむねの内容がつかめればいいな、という想い。そして文章で内容を追うことが苦手な人にも、なるべく読みやすくしたいという想いでデザインをしている」と語る。
「文章を読むのが苦手」という祖父江氏は、編集者から、デザインする本の内容を聞き、その話をもとに組みたてるという。つまり本の内容や面白さを聞き、内容と似合うイメージを探っていくというのが祖父江氏のデザイン手法のひとつだ。

さらに祖父江氏は続ける。「論文系はこの書体、小説であればこの書体が似合う、といったジャンルに関するノウハウは、すでに決まっている。だが、そのやり方だけでは、それぞれの内容に関する独自性はつかめない。だから本来であれば、この作品にはこの書体が似合うというものに対し、逆に一番似合わない書体を合わせるとどうなるのか、という考えも同時にイメージしてみる。そうすると1番似合わないと思っていた書体でも、実はその作品にとても適しているグラフィックが見つかることもある」

バランスは「死」不安定は「生命力」

(撮影:堺亮太)

白井氏は、祖父江氏の事務所を訪問した時に、たまたま文字の誤植の連絡が入り、祖父江氏がその修正対応をしていたことについてふれ、今回のテーマ「うまくいかない喜び」のコンセプトからすると誤植もその範囲内なのではないかと問うと、祖父江氏は「一口にうまくいかない、と言ってもステキなものと、本質的にダメなものがある。誤植はダメでしょ」と説明する。
祖父江氏の仕掛けはデリケートで斬新なものだ。白井氏は、祖父江氏のブックデザインを「本を手に取った人たちにどうやって楽しんでもらうか、というエンターテイメントの領域に入っている」との見解を示した上で、その核にあるのが「不安定」という表現手法であるのではないかと説明する。

「バランスではなく、不安定」に軸足を置く祖父江氏は、自身のデザイン制作の留意点として「最初にイメージしたグラフィックは仕上げていけばいくほど、もともと描いていたイメージが弱くなり、単に整っただけのつまらないものになり、文章の魅力が消えていってしまう。だから最初のイメージよりも、少し行き過ぎたところを狙った『うまくいかなさ』を大切にしなければ、内容の独自性には追いつかない」と語る。「不安定」という表現手法は、簡単なようで難しい。


最後に祖父江氏は、若いデザイナーに次のようにアドバイスし、対談を締めくくった。
「若いデザイナーの人が不安定なデザインをやろうとすると、つい内容とは関係のない説明的な「いじり」になってしまいがちです。でもそれは、本来的な不安定な喜びではありません。論理的な観点だけから崩しちゃいけません。内容にあわせて進めていくうちに「なぜか崩れてしまう」というような、自主的ではない「うまくいかなさ」を前むきに味わってデザインしてほしいです。『うまくいかない喜び』は、狙うのではなく、つねに受け身なんです」

(撮影:堺亮太)

2016年3月18日

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人物プロフィール

祖父江 慎

グラフィックデザイナー。コズフィッシュ代表。1959年愛知県生まれ。多摩美術大学に入学するが、杉浦康平に憧れ、在学中の1981年から工作舎でアルバイトを始め、大学中退。在学中は漫画研究会に所属、先輩にしりあがり寿、喜国雅彦がいた。1987年工作舎退社。秋元康が設立した株式会社フォーセールでアートディレクターを務め、1988年独立。1990年コズフィッシュ設立。人文書、小説、漫画などの書籍の装丁やデザインを幅広く手がける。吉田戦車の漫画本をはじめとして、意図的な乱丁や斜めの断裁など、装丁の常識を覆すデザインで注目を集める。近年、「スヌーピー展」「エヴァンゲリオン展」「ゲゲゲ展」「ゴーゴーミッフィー展」など、 展覧会のグラフィック、アートディレクションを手がけることも多く、展覧会グッズでは独特の感性を爆発させたユニークな商品を開発している。

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