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「情報化時代に考えたい漢字の話」 文化庁文化部国語課 国語調査官・武田康宏氏が講演

イベントレポート

「情報化時代に考えたい漢字の話」 文化庁文化部国語課 国語調査官・武田康宏氏が講演

「情報化時代に考えたい漢字の話」

文化庁文化部国語課 国語調査官・武田康宏氏が講演

千代田区立日比谷図書文化館は3月30日、日比谷コンベンションセンターにおいて、文化庁文化部国語課 国語調査官の武田康宏氏を講師に迎えて「情報化時代に考えたい漢字の話」をテーマとした講演会を開催し、年度末にもかかわらず200名が聴講に訪れた。

文化庁文化部国語課 国語調査官・武田康宏氏

武田氏は、新聞、雑誌など、一般の社会生活における漢字使用の目安として1981年に告示された「常用漢字表」の概念や2010年に実施された改定内容、また情報化が進む現在、JISコード(第1〜第4水準)だけでも約1万にのぼる漢字が存在する中で、2,136字の「常用漢字表」を定めた理由などについて解説した。

情報化社会における漢字コミュニケーションの課題

武田氏は、まず「常用漢字表」を「広場の漢字」と表現した上で、「人と人とのコミュニケーションを円滑にするために共有しておきたい漢字集合」とし、その役割について説明する。

現在、ユニコードで約10万、中華字海で約8万5,000、大漢和辞典で約5万、JISコード(第1〜4水準)で約1万の漢字集合が存在している。しかし、情報化が進む現代社会では、そのような膨大な漢字が存在していてもパソコンやスマートフォンで簡単に使える環境にある。例えば教科書では、絶対に習わないような画数の多い難しい漢字であっても、入力、変換するだけで誰もが万を超える漢字を使いこなすことができる。一見、便利と思える漢字だが、武田氏は「伝える側がパソコンで変換した漢字を、受け取る側が必ずしも正しく読めるとは限らない。常用漢字表は、そのようなコミュニケーションの不具合がないようにつくられたもので、漢字使用の目安として策定されたもの」と説明する。つまり、万単位で存在する漢字の中で、常用漢字表に登録された2,136字を覚えていれば、よりスムーズな情報交換が行えるという考えだ。

「平成22年の改定時に、JISなど自由に漢字を使える環境にあるのに、なぜ漢字表をつくるのか、といった意見を多く頂いた。しかし、情報化が進み自由に漢字が使える環境だからこそ、漢字表が重要になっているとも考えられる」(武田氏)

ちなみに世の中に流通する漢字(延べ合計数)のうち、常用漢字が占める割合は96〜97%だという。また、小学校から高校までに習得する漢字は、常用漢字表の範囲と一致しているという。

漢字は「書くもの」から「打つ(入力)もの」へ

平成22年、常用漢字表は約30年ぶりに改定された。その大きな理由は、情報化の進展に伴う、パソコンや携帯電話などの情報機器の普及が人々の言語生活、とりわけ、その漢字使用に大きな影響を与えることに対応しようとしたものである。つまり、漢字は「書くもの」から「打つ(入力)もの」に変化しており、その環境に対応するために改定されたと武田氏は語る。

平成22年の改定では、字種は196字を追加、逆に5字が削除され、合計の字種は2,136字となる。では、どのような漢字が追加されたのか。それは大きく分けて次の4つの基準によって決められた。

まず、1つは、「出現頻度が高く、造語力(熟語の一部としてどれぐらい活用できるか)も高いこと。具体的には、出現頻度数調査で3,500位までに入っている漢字が候補となる。

また、漢字仮名交じり文の読み取りの効率性を高める漢字。固有名詞は取り上げないが、都道府県名及びそれに準じる字を例外として追加している。これには、これまで登録されていなかった熊本県の「熊」や岡山県の「岡」などがある。

「漢字の『熊』は、『クマ』や『くま』といったように、ひらがなやカタカナで使われることが多かったが、平成22年の改定で都道府県名は例外として追加されることになった」(武田氏)

さらに書籍や新聞の出現頻度が低くても、社会生活上よく使われ、必要と認められる漢字。「訃報の『訃』という漢字は、出現頻度こそ多くはないが、社会生活において必要であると判断し、常用漢字となった」(武田氏)

手書き文字と印刷文字の違いへの対応

そして話は今年2月29日に文化審議会国語分科会がとりまとめた「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」(PDF)ついて。

「この指針は、簡単に説明すると、常用漢字表がこれまで示してきた内容をもっとわかりやすくしようというもの」(武田氏)。そして、その本質にあるのは、明朝体に代表される印刷文字と手書き文字の字形の違いへの対応だと言う。

情報化社会における現在では、手書き文字と印刷文字(情報機器等の画面上に表示される文字を含む)の形の違いが理解されにくくなっているのが実情だ。例えば、金融機関などで仮に「令子さん」という人が手書きで「令子」と教科書体のように書いた場合、明朝体の「令」に書き直すように指示されることがある。
また、手書きされた文字の細部に必要以上の注意が向けられ、本来であれば問題にならない違いによって漢字の正誤が決められる傾向がある。

同じ文字であっても異なる字体・字形

「手書きの楷書で書く『木』の縦画は、本来であれば、とめても、はねてもいいのだが、とめて書く方が正しいといった認識が広がっている」(武田氏)

実際に共通意識として漢字のとめ、はね、はらいは大切だと思っている人は多いはず。しかし、武田氏によると、調査の結果としてわかったことは、どこをとめて、どこをはらうか、という意識は、その人によってバラバラだということ。その意識の違いを生み出す要因の1つとして武田氏は、小学校における漢字教育との関係を挙げている。

「小学校学習指導要領では、学年別漢字配当表に出ている字のかたちを標準として教えている。この教育自体は非常に重要なのだが、教わった先生、学んだ時期、使った教科書などによって、とめ、はねなどの意識が違っている場合がある」(武田氏)

教科書でつかわれている字形も若干の違いがある

そこで文化庁は、教科書に使用されている字を調査するために、現在の教科書(5社)で使われている教科書体の字体・字形の比較などの調査を実施した。結果として、年代によって字形は異なることもあり、また、現代においても教科書を出版する会社によって、字体・字形に若干の相違があることが判明した。そのような相違が生じるのは自然なことであり、いずれも正しい字と言えるのだが、僅かな違いに着目して正誤が決められてしまう場合がある。これら課題の解決策として発表されたのが今回の指針である。

これまで手書き文字は、個人の習慣などの違いにより字体・字形が異なるケースが多く、本来であれば問題ではない違いであっても、印刷文字を基準に正誤が決められる傾向があった。今回、発表された指針では、「手書き文字と印刷文字の表し方には習慣の違いがあり、一方だけが正しいのではない。字の細部に違いがあっても、その漢字の骨組みが同じであれば、誤っているとはみなさない」との見解を示している。

「とめ」、「はね」なども手書き文字は様々

さらに今回、発表された指針では、様々な例示やQ&Aでわかりやすく解説するとともに構成要素ごとに字形の例を分類し、豊富な手書き文字も例示している。

武田氏は、今回の指針によって問題が解決していくことを期待する一方、「課題はまだまだある」と語る。 「髙橋さんの『髙』や山﨑さんの『﨑』などは対応できる時とできない時がある。つまり、個人のアイデンティティを保証するための漢字と情報交換のための漢字が、ぶつかることがある。それを社会全体で、どのように考えていくか、これは大きな課題である」


2016年5月13日

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