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本文用紙と書体で予想する芥川賞&直木賞

第155回受賞作を大予想!

2016年7月19日に第155回芥川賞および直木賞、二大文学賞の受賞作が決定。現在、候補作が発表されています。あちこちで受賞作予想が行なわれている中、異彩を放っているのが、毎回ブツとしての存在感を醸し出しすぎている雑誌『デザインのひきだし』の編集長、津田淳子さんによる「本文用紙による受賞作予想」です。しかも近年、見事に受賞作を的中、各方面からの取材も引く手あまたとなるほどの注目予想となっているとか。
前回に引き続き今回もtype.centerからは大日本タイポ組合の塚田哲也が話を聞き、「紙」からの予想を伺いつつ、さらに「文字」のサイトならではの、書体による受賞作も予想してみたいと思います!

(※7月13日に本文書体情報など加筆しました)


「パウル津田」の誕生

【塚田】いやー、前回もまた、当てちゃいましたね。

【津田】自分が一番驚きましたよ。中身を読んでなくって、本文用紙の銘柄を見て、勝手にあれこれ言ってるだけなんですから。会社の人からは、少し前のサッカー・ワールドカップで勝敗予想をしてけっこう当てたタコの「パウル」から、パウル津田と呼ばれる始末で……。

パウル津田……! ビミョーに古いところがじわじわ来ますね……。
ところで前回、実は芥川賞の『異類婚姻譚』も当てていたとか?

第154回芥川賞の『異類婚姻譚』本谷有希子(Amazon)

そうなんですよ(笑)。芥川賞は賞発表時点で単行本になっているものが少ないので、あまり予想を公言してなかったんですが、3冊単行本化されている銘柄を見て、こっちも新製品の紙を使ったものがくる!という予想のもと(直木賞の本文予想は、王子製紙の新製品「OKプリンセス」を使った『つまをめとらば』と予想)、「オペラクリアマックス」という日本製紙の新製品を使っていた本谷有希子さんの『異類婚姻譚』が来ると周りの人に言っていたんですよ。そうしたらそっちも当たっていて……

あますところなくパウルっぷりを発揮してますね。ちなみに『異類婚姻譚』の使用書体はタイトルが「金陵」(欣喜堂)、本文書体は「凸版明朝」でした。

もう、驚くというか、もう怖くなりましたよ。

それだけ当てすぎるくらい当ててたら、ウチだけじゃなく他からも取材が引く手あまたなんじゃないですか? パウルだけに。

前回は朝日新聞のWeb媒体から取材してもらいました。で、驚くことに今回は、週刊文春から取材依頼をいただいて、事前予想込みの記事になるようなんです。7月14日発売号で。(そして掲載された記事はこちら

センテンススプリングきたー!!!

んじゃそれに先駆けてスクープをこっちが先に出しちゃいましょう、ちょっと長くなりそうですけど改ページしないで一気に行っちゃいますよ。まずは候補作とその本文用紙と書体のご紹介です!


第155回芥川龍之介賞候補作品

『あひる』

たべるのがおそいvol.1/今村 夏子

『短冊流し』

新潮1月号/高橋 弘希

『ジニのパズル』

群像6月号/崔 実

『コンビニ人間』

文學界6月号/村田 沙耶香

『美しい距離』

文學界3月号/山崎 ナオコーラ


芥川賞候補作は選考の時点では未だ書籍化されていないため本文用紙と書体について調べることができませんでした。つづいて、直木賞候補作をご紹介いたします。

第155回直木三十五賞候補作品

『天下人の茶』

文藝春秋/伊東 潤

『天下人の茶』伊東 潤(Amazon)

  • 本文用紙:OKプリンセス(王子製紙)
  • タイトル:秀英初号明朝 + 游築初号かな
  • ルビ:正楷書CB1もしくは新正楷書CBSK1
  • 著者名:秀英初号明朝
  • 本文:秀英明朝
  • 装画:久保田眞由美
  • 装丁:大久保明子

『海の見える理髪店』

集英社/荻原 浩

第155回直木賞の『海の見える理髪店』荻原 浩(Amazon)。本文用紙は「オペラクリームマックス」、タイトル書体は「A1明朝」

  • 本文用紙:オペラクリームマックス(日本製紙)
  • タイトル:A1明朝
  • 著者名:小塚ゴシック
  • 本文:リュウミン
  • 装画:新目 惠
  • 装丁:大久保伸子

『家康、江戸を建てる』

祥伝社/門井 慶喜

『家康、江戸を建てる』門井 慶喜(Amazon)

  • 本文用紙:嵩高書籍用紙55A(三菱製紙)
  • タイトル:凸版文久見出し明朝 StdN EB
  • 著者名:ヒラギノ角ゴシック
  • 本文:リュウミン
  • 装丁:かとうみつひこ

『暗幕のゲルニカ』

新潮社/原田 マハ

『暗幕のゲルニカ』原田 マハ(Amazon)

  • 本文用紙:OKサワークリーム(王子製紙)
  • タイトル:太ゴB101
  • 著者名:見出ゴMB31
  • 欧文:Bernier
  • 本文:秀英明朝
  • 装画:パブロ・ピカソ〈ゲルニカ〉
  • 装丁:新潮社装幀室

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』

光文社/湊 かなえ

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』湊 かなえ(Amazon)

  • 本文用紙:メヌエットフォルテクリーム(北越紀州製紙)
  • タイトル:筑紫Aオールド明朝
  • 著者名:筑紫Aオールド明朝
  • 欧文:Sinobi
  • 本文:本明朝 新がな
  • 装丁:鈴木久美

『真実の10メートル手前』

東京創元社/米澤 穂信

『真実の10メートル手前』米澤 穂信(Amazon)

  • 本文用紙:OKライトクリーム(王子製紙)
  • タイトル:解ミン 宙
  • 著者名:解ミン 宙
  • 欧文:解ミン 宙
  • 本文:リュウミン
  • 装丁+写真:岩郷重力+K.K

今回も芥川賞は、現時点で1冊だけしか単行本になっていないので、直木賞だけ予想します。

候補作6冊の本文用紙を見てみると、驚くことに、全部紙の種類が違うんですよ。たいてい同じ紙が使われている候補作があって、その紙がくる!って予想を立ててしまうと、2作のどっちかなのかと迷うんです。ちなみに前回は『羊と鋼の森』(宮下奈都 作)と『狐狼の血』(柚月裕子 作)が同じ「アルトクリームマックス」で、もしこの銘柄にピンときてしまったら、紙の厚さも考慮しようとか思ってました。『羊と鋼の森』の方が1ランク厚かったので(笑)。

その点からすると今回は銘柄だけでバシッと予想ができるので苦しくないです。っていうか、そもそもが本文用紙の種類で予想するっていのが苦しいんで、微差といえば微差なんですが……。

微差ですけど、大事ですよね。まぁ、微差ですけど……。

書体のほうの話をさせてもらうと、今回もモリサワフォントが多勢を占めているなぁというところです。面白かったのは『天下人の茶』がタイトルが「秀英初号」で本文が「秀英明朝」という秀英ざんまいでまとめられてたのと、『真実の10メートル手前』のタイトルまわりが欧文も含めてまるっと「解ミン 宙」づくしだった、という発見がありました。

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』だけが唯一、フォントワークスの書体、「筑紫Aオールド明朝」を使ってたんですが、本文もタイプバンクの「本明朝 新がな」だったりと、他の候補作とは違って独特な書体づかいですね。ついでに言うと、このタイトルの下に小さく入っている欧文が「Sinobi」という書体で、これもレア書体で見つけんの大変でした。っていうか、書体探偵ことakira1975に調べてもらったんですけど……。

「微」なところ攻めますね、互いに(笑)

実は今回、掲載初日の12日には未だ本文書体を調べきっていなくて、13日に追加掲載するっていう、ドタバタ具合なんですけど、でも、タイトル回りでほぼ確定してるんで、予想結果の発表しちゃってもいいですか。

いいですよ(笑)では私から。

第155回直木賞受賞作は?

ズバリ、「オペラクリームマックス」を使っている『海の見える理髪店』(荻原浩 作/集英社/装丁・大久保伸子)です。

おお、そう来ましたか。

実は前回の予想後すぐくらいに、なぜか次回は日本製紙の紙を使った本が受賞するような予感がしたんです。なんの根拠もないんですよ、もちろん。

今、製紙業界は残念ながら右肩上がりという状態ではなく、どこもあまり新製品を出さなくて、逆に廃番ばかり。そんな中、本文用紙や印刷用紙で一番新製品を出してるんじゃないかと思うのが、日本製紙なんです。東北の震災で被災したりと、他社よりも圧倒的に不利な状況があったと思うんですが、それなのにこの意欲的なところもグッとくるし、加えて、出してくる新製品が、どこかの真似ではなく独自路線なところもたまりません。紙不況が続く状況下で、この攻めっぷり。もう本当にすばらしいと思います。

日本製紙石巻工場、僕も行ったことある! 外からただただ見てただけだけど、こみ上げてくるものありましたよ。

そんな心境も影響してるんだと思いますが、なぜか漠然と日本製紙の紙がくるような気がしていたところで候補作の発表があって。その銘柄を調べて特定してみたら、なんと日本製紙の紙はひとつしかない。おおお、ではもうそれしかない! と、銘柄で決めるというより、今回は製紙会社で選んだっていうのが本当のところですね。

毎回、その業界動向も見据えた上での願いも込めた予想、っていうのがシビれるんだなぁ。

でも浮気心も少しあって、三菱製紙の「嵩高書籍用紙55A」を使っている『家康、江戸を建てる』「メヌエットフォルテクリーム」『ポイズンドーター・ホーリーマザー』が次点です。特に前者は、今回ダメでも近いうちにこの紙を使った本が受賞するのでは? とも思っています。いい紙ですからねぇ。

実はその「嵩高書籍用紙55A」使用の『家康、江戸を建てる』(門井 慶喜 作/祥伝社/装丁・かとうみつひこ)が、書体での受賞作予想なんですよ。

そうなんですか!

はい。タイトルに使っている「凸版文久見出し明朝」は、2015年秋にリリースされたばかりの、いわば新書体で、それがこうしてすぐに使われてるってところに注目しました。オーソドックスな見出し用書体はここ最近出ていなかったように思います。2010年の「秀英初号明朝」以来かな。あ、2013年に「秀英初号明朝 撰」が出てますけどマイナーチェンジとカウントしてですね(笑)。定番化されていく見出し書体の使いはじめを目の当たりにした場面ともいえるわけです。

ところで「凸版文久見出し明朝」の「」の字って、「廴(えんにょう)」の最終画の書き出しのところに一画ひっかかりが付いてるんですよ。だけどこのタイトルの「」にはこれが無いから、違う書体なのかなー、と思ったんだけど「StdN」ってほうでした(「Std」と「StdN」の違いについてはこちらで)。ひっかかりが付いてるほうがカッコいいと思うんだけど、異体字はダメ、って校正に言われるだろうな、きっと。

細かい(笑)

次点は先にもあげた秀英ざんまい『天下人の茶』を、穴で「筑紫Aオールド明朝」『ポイズンドーター・ホーリーマザー』という感じです。

そうそう、予想前に紙関連の会社に勤めている人から、「今回は◯◯の下馬評が高いですよ」と、直木賞の予想を聞かされたんです(今回の私の予想とは別のものです)。でもそういうのを聞いてしまうと心がブレるなと思って、それ以降、極力そういう予想を聞いたり目にしたりしないように注意しました。あと絶対中身も(受賞が決まるまでは)読むまいと。自分の素人文芸予想なんかが入るとめちゃくちゃになるし、とにかく用紙銘柄以外の他の情報はなしで予想しようと、妙にストイックになったりしてました(笑)。

というわけで今回は、私が好印象な製紙会社を選んだというのが予想の理由です。さあ早く発表されて候補作を読みたい!(湊かなえさんと原田マハさんが大好きなのです)

津田さん今回もありがとうございました。文春よみます(笑)


第155回直木賞・本文用紙による受賞作予想

『海の見える理髪店』の「オペラクリームマックス」(日本製紙)

第155回直木賞の『海の見える理髪店』荻原 浩(Amazon)。本文用紙は「オペラクリームマックス」、タイトル書体は「A1明朝」

第155回直木賞・書体による受賞作予想

『家康、江戸を建てる』の「凸版文久見出し明朝 StdN EB」

『家康、江戸を建てる』門井 慶喜(Amazon)

……以上、今回も白熱した本文用紙と書体による芥川賞・直木賞の受賞作予想でした。7月19日の受賞作発表の結果は、はたしてどうなるでしょうか。発表をお楽しみにお待ちください。
(7月19日追記:発表結果はこちら!)

※ 使用書体は当サイトによる独自調査によるものです。書体見本などと照合したものになりますが、実際の使用書体とは異なる可能性があります。ご了承ください。

2016年7月12日

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人物プロフィール

津田淳子

編集者。1974年神奈川県生まれ。編集プロダクション、出版社を経て、2005年にグラフィック社入社。2007年『デザインのひきだし』を創刊する。デザイン、印刷、紙、加工に傾倒し、それらに関する書籍を日々編集中。
http://dhikidashi.exblog.jp/

本文用紙と書体で予想する芥川賞&直木賞

塚田哲也

大日本タイポ組合のひとり。新世界タイポ研究会のメンバーでもある。ソロ活動として、デザイン関連ダジャレコンテスト「グッドデザイソ」をtwitter上で開催中。

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