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『まちの文字図鑑 よきかな ひらがな』刊行記念 藤本健太郎氏&松村大輔氏 スライド・トーク「まちのよきかな十番勝負」

イベントレポート

『まちの文字図鑑 よきかな ひらがな』刊行記念 藤本健太郎氏&松村大輔氏 スライド・トーク「まちのよきかな十番勝負」

スライド・トーク「まちのよきかな十番勝負」

街で出会った「よきかな」の個性で勝負

街中で見かけた個性豊かな文字を収録した『まちの文字図鑑 よきかな ひらがな』(大福書林)の刊行を記念したスライド・トークショーが7月19日、東京・神保町の東京堂書店・東京堂ホールにおいて開催された。


スライド・トークでは、『まちの文字図鑑 よきかな ひらがな』の著者である松村氏と同書のブックデザインを担当した藤本氏が、まだ訪れたことのない地を取材し、その街で見つけたレトロ看板やPOPなどに使われている個性豊かな「よきかな」の画像を交互に公開した。

松村氏は、茨城県土浦市に出向き、「よきかな」を探索。しかし、いまひとつ収集がはかどらなかったことから、やむなくハンティングポイントを移動することになったという。 「関東鉄道常総線というローカル線に、何の予習もなく飛び乗ってみました」(松村氏) 行き着いた先は、同じ茨城県の水海道であったが、松村氏はその駅前商店街を見たとき「よきかな」に巡り会える予感がしたという。

一方の藤本氏は、「よきかな」を探すために北海道の函館に向かった。ちなみに藤本氏は、中学生時代に修学旅行で函館を訪れているが、「よきかな」ハンティング目的としては、初めての土地ということで承認された。


十番勝負では、まず、藤本氏がハイヒールの様に見える「よきかな」をセレクトして公開。一見、文字のようには見えないが、全体を通して見てみると、実は「むさしや」の「し」。 「これは『むさしや』というスーパーマーケットのネオンサインだが、何でこんな形になったのかを考えると不思議で面白い」(藤本氏)

ハイヒールの様な文字

実は「むさしや」の「し」

続いて松村氏は、「クスリ」と記された看板の写真を紹介。見た目には、どこにでもありそうな単純なクスリ屋さんの看板だが、その中で松村氏が発見した「よきかな」は、「ス」だ。なぜか「ス」の後方が丸くなり、さらに3本の曲線が加わっていることで躍動感を連想される構成になっている。 「まるで、『ス』という文字がス、ス、ス、と前に動いているように見える」と語る松村氏に、藤本氏も「これは僕でも絶対に写真に撮ります」と絶賛する一方、「カタカナでもいいの?」と指摘する場面も。

単純なクスリ屋さんの看板だが

なぜか「ス」に躍動感がある

次に藤本氏が紹介した「よきかな」は、「ず」。こちらも「ず」単体では、それほど面白さを感じないが、実際の看板で確認すると「ず」の濁点などがイクラでデザインされている。 「海鮮味処の看板だが、イクラ以外にも文字の骨格がカニの足にも見えるところが函館を感じさせる」と言う松村氏は、この書体を「海鮮フォント」と勝手に呼んでいる。

丸みが特徴的な「ず」

イクラが文字に使われている

「海鮮フォント」に負けじと松村氏が紹介したのは、漢字の「心」のようにも見える「よきかな」。しかし、実は「心」ではなく、「ル・ロア」というお店の「ル」。 「まちの文字図鑑のカタカナ編が発行されるのであれば、ぜひ掲載したい」と語る松村氏だが、藤本氏から「この『ル・ロア』は、なんのお店ですか」との質問に対し、「そこまでは調べてなかった」と回答。もし、カタカナ編の発行が決まれば、「ル・ロア」の正体が明らかになるかも知れない。

漢字の「心」?

全体的に見るとカタカナの「ル」

そして「かりんとうのような文字」と表現する藤本氏が紹介したのは、力強さを感じる「よきかな」。その正体は、再度の登場となる「むさしや」の「さ」。今回は、あえて「さ」を選んだ藤本氏だが、「『む』も『や』も含め、すべてがやばい文字になっている。これを書いた方は、よほど名のある方だと思う」と評価している。

かりんとうの様な文字

今度は仕出し屋さんの「むさしや」の「さ」

ここで松村氏から、全体を通して見る「よきかな」と、一文字だけで見る「よきかな」の印象について問われると、藤本氏は「これまでは文字の並びで見ていたが、今回は、十番勝負ということで一文字の面白さにこだわって『よきかな』を探してみた。そこで感じたのは、看板としてはそれほど面白くないが、『この字はやばい』という観点で捉えると、全く違う感覚になる」と、その面白さについて説明した。

ちなみに最初の「むさしや」はスーパーマーケットだが、もう一方の「むさしや」は仕出し屋さんなのだという。被写体もよく見ると車で、藤本氏は「実はホテルの裏口に停車していた仕出し屋さんの車体に書かれていたロゴを撮影したもの。みなさんも商店や旅館などの裏口を注意して見れば『よきかな』に出会えると思う」と「よきかな」発見の裏技を紹介した。


十番勝負も終盤戦に突入したところで、松村氏がクイズ的な文字として紹介したのは、漢字の「店」の中に小さな「ち」が埋め込まれた謎の文字。当然、そんな文字は存在しないのだが、文字全体の並びで見ると、実は「パパん店(ち)」となる。「ルビが内包されちゃってます」と説明する松村氏に対し、「この『ち』がなかったら何て読むんだろう。パパん店(みせ)かな?」と言う藤本氏に会場は大爆笑となった。

「店」の中に小さな「ち」が

ルビを表現している

この他にも多くの「よきかな」達が紹介され、十番勝負が終了。十番勝負と名打った企画であったが、とくに勝敗の決着はつかなかった。 このあと会場では、Twitterのハッシュタグ「#よきかなひらがな」を用い、全国の文字ハンターから投稿された面白い「よきかな」たちの画像も紹介された。

2016年9月6日

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