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セッション1:小林章「ここが知りたい、フォントのカスタマイズの実際」

「Type&(タイプアンド)2016」レポート

セッション1:小林章「ここが知りたい、フォントのカスタマイズの実際」

Monotypeが日本で主催する、書体のセミナーやワークショップを行うトークイベント「Type&(タイプアンド)」が10月21日・22日の2日間、東京都渋谷区恵比寿の「Daikanyama The Room1」において開催された。

小林章氏が「ここが知りたい、フォントのカスタマイズの実際」テーマに講演

Monotypeのタイプディレクター 小林 章 氏

開催初日の21日13時30分から15時30分までは、「ここが知りたい、フォントのカスタマイズの実際」をテーマに、Monotypeのタイプディレクター・小林章氏が講演。前半部分では、同氏がこれまでブランディングエージェンシーとともに手掛けてきた既存フォントをカスタマイズした事例を紹介し、後半部分では、これまで同氏に寄せられた質問に回答。最後に質疑応答の時間も設けられ、満席状態の会場からは様々な質問が投げ掛けられた。

満席となった会場


既存フォントをカスタマイズした3つの事例を紹介

約2時間の講演の冒頭、小林氏は既存フォントをカスタマイズするメリットについて「ベースがもともとあるので、企業イメージや姿勢にあったフォントを短い制作期間で開発することができる」と前置いた上で、小林氏がここ数年で関わってきたフォントのブランディングについて、3つの事例を挙げて紹介した。

【事例1】ドイツのスーパーマーケットチェーン「Penny」

小林氏は最初に、ドイツのブランディングエージェンシーPSGから発注を受けて制作を担当したドイツのスーパーマーケットチェーン「Penny」の実例を紹介。「この会社からは、私が開発した書体『Akko』をベースにフォントをブランディングして欲しいとの要望を受けた」と説明し、モニターにカスタマイズ前のAkkoとPennyのブランディングのために開発したAkkoを映し出し、「変更していない部分も多いが、小文字のiやj、コロン、セミコロン、ドイツ後のアクセント記号であるウムラウト、ピリオド、クエスチョンマークなど、通常のAkkoでは四角である『点』の部分を『丸』に変更している。これにより、スーパーマーケットチェーンの賑やかな感じにふさわしく、さらに、丸いので優しくフレンドリーなイメージにすることができた」と述べ、Akko for Pennyの書体として新しく作り出したBlack/Bold/Medium/Regularの4種類のファミリーを紹介。続いて、実際にPennyの店舗で使用されている様々な使用例をモニターに映し出し、「Akkoという書体は、大きく使っても小さく使っても、非常に読みやすいフォントになっている」とその特長について説明した。

【事例2】スイス最大の銀行「UBS銀行」

続いて、SNKというブランディングエージェンシーとともに取り組んだスイス最大の銀行であるUBS銀行の事例を紹介。「UBS銀行のフォントのブランディングでは、1800年頃にドイツの活字メーカーによって作られた『Walbaum』という活字書体をもとに、『UBS Headline』という書体を作り出した」と説明した上で、この書体をカスタマイズする必要があった理由として、「高級感と伝統を感じさせる味のある書体であるが、銀行のフォントとして使用するには癖がありすぎた」と解説。癖のある文字としてB、K、Q、R、U、W、a、g、k、s、w、&などを挙げ、「例えば、『K』にはガチガチ感があったり、『Q』の下のしっぽの部分が真ん中より左にあり、落ち着かないなど、それぞれの文字の癖をなくした。また、数字についても銀行として機能的なものにカスタマイズした」と語り、21世紀の銀行として、信頼感があり、モダンなイメージにカスタマイズして作り上げた書体である「UBS Headline」をモニターに映し出し、その特長を紹介した。

「UBS Headline」について説明する小林氏

【事例3】ドイツの高級時計メーカー「A.ランゲ&ゾーネ」

最後の事例として、ドイツのKW43というブランディングエージェンシーとともに取り組んだドイツの高級時計メーカーであるA.ランゲ&ゾーネの事例を紹介。「カタログを作るにあたって書体が必要とのことで、制作の依頼を受けた。もともとの書体は『Versailles』というものであるが、KW43からは、この書体をベースに、例えば『a』や『f』、『g』、『r』などの文字の内側に巻き込んだ感じをなくし、これをおとなしく落ち着かせた上で、さらにセリフを少し強めにして欲しいという注文を受けた」とその経緯について説明した上で、カスタマイズした後の書体である「Versailles for ALS」を紹介。その中、「例えば、小文字の『l』のアセンダーという上に伸びる部分、また小文字『g』の下に伸びるディセンダーを長くしている。小文字の上下に出る部分を伸ばすことで、エレガントに見えるようにした。また、セリフの先端が細くとがっていたものを太めにしている」などと解説した。

最後に、前半部分のまとめとして「ヨーロッパのブランディングエージェンシーはフォントを発注する際、すでに最終的なフォントの使われる姿が見えており、既存フォントの中でどれがイメージに最も近いのかを選んでいる。既存のフォントをどのようにアレンジするとどのように見えるのかまで見えている。つまり、設計図ができあがっている。また、フォントのバリエーションの使い方を知っている」との見解を示した。

このあと、Monotype営業の横関茂材氏とバトンタッチし、カスタムフォントを発注する際の制作期間、価格などのプランについて説明が行われた。


小林氏のもとに寄せられた数々の質問に回答

続いて後半部分では、小林氏のもとに前もって寄せられた質問に回答する形で講演が進められた。

  • 好きなタイプフェイスとその理由は。
    • 「自分で作った書体を好きな書体であると言っておけば間違いないと思うので、CliffordとAkkoであると答えるようにしている。なぜCliffordが好きかというと、ヨーロッパのメーカーに注目されたきっかけがこの書体であるということと、また、2013年に改訂されたドイツの工業規格DINのDIN1450の中で読みやすい書体があがっている中にCliffordが入っており、読みやすい書体として証明されたと感じているからである。ただ、自分で開発した書体ばかりだと宣伝になってしまうので、次に好きな書体をあげるならCOOPER BLACKであろうか。ありふれた書体であるが、この書体で組むと場が和む気がする。街中のいろんなところに禁止の標識であったり政治のポスターなどがあるが、道路の『STOP』などの標識もこの書体で組めば、やわらかいイメージになるのではないだろうか」
  • デザインテーマ、コンセプトに対して相応しいフォントの選び方やプロセスについて、どのようなところに注意しているか。
    • 「ブランディングに関してのことだと思うが、クライアントとしっかり相談するようにしている。なぜなら、自身が描いているブランドイメージとクライアントの描いているものとの食い違いが生じる場合があるため、クライアントのイメージをしっかりと理解するまで話し合い、その上で、デザイン、フォントを選ぶようにしている」
  • その年や季節によって、ファッションのように色々なフォントの流行といったものがあるが、それに対しての意見と、流行のフォントを追う大切さや重要度などについては。
    • 「フォントは目的や使われ方によって寿命が違ってくる。例えば、インパクトは強いが、寿命は短いフォントがある。一方、ソニーの企業専用書体であるSSTのように、この先何十年と企業の顔になり、声になり、メッセージを伝えていくような書体の場合、フォントは目立たず、むしろ個性を抑え気味にするぐらいでちょうどいい。ブランドの与えるインパクトと寿命は関係するものと考えている」
  • タイプを商品として開発する際は、自分が作りたいものを自由に制作できるのか。あるいは流行・トレンドに沿ったものを制作するのか。
    • 「Monotypeでは、両方やっている。マーケティングや他のタイプディレクターと流行やトレンドに沿ったフォントなどについても話し合うが、それだけでは書体のバラエティーの幅が狭くなってしまうため、フリーランスのデザイナーから応募されてくる個性豊かな書体などはクオリティがともなっていれば積極的に採用するようにしている」
  • 英語だけで作業していた時には考えたこともなかった、日本語のcomplexさに苦労している。平仮名、カタカナ、数字、アルファベットなど、1つのブランドを作るために、いくつものタイプを選択しなければならないが、その際の注意点は。
    • 「使われ方にもよるが、どのような場面で使うかを考えた上で、デザインのみを重視するのではなく、読みやすさも考慮して選択することが判断の基準になると思う」
  • 今からフォント・タイポグラフィを学ぶ人や若い人達に対しての姿勢、また推奨する勉強方法は。
    • 「書体デザインの勉強は、必ずしも書体デザイナーになるためでなくてもいいと思う。ブランディングエージェンシーであったり、グラフィックデザイナーなどの職種でも、その勉強が役立つ場面はどんどん出てくる。また、勉強方法としては、書体デザインの勉強以外には、海外のファッション雑誌など、実際に使用されている例をたくさん見て分析していくことを推奨したい。私も昔、神田の古本屋でたくさんのファッション雑誌を買ってきて勉強した」

このあと、会場からの質問にも回答し、講演を終了した。

2016年11月11日

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