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心に飛び込む「描き文字」の数々「花森安治の仕事 デザインする手、編集長の眼」展

展覧会レヴュー

心に飛び込む「描き文字」の数々「花森安治の仕事 デザインする手、編集長の眼」展

心に飛び込む「描き文字」の数々

「花森安治の仕事 デザインする手、編集長の眼」展

花森安治の描く明朝体を見ると、ドキドキする。 途切れてしまいそうに繊細な横画が生み出す緊張感と、フリーハンドで太く描かれた縦画から来るのどかさと安心感。そのコントラストに引きつけられ、目は思わず言葉を追う。決してまっすぐではなく、まるで無地のハガキに書かれた手紙のようにうねりながら組まれる言葉は、直に話しかけられているかのように、心に飛び込んでくる。

花森安治は、雑誌『暮しの手帖』の創刊編集長だ。自ら企画を立て、取材し、写真を撮り、原稿を書き、レイアウトをし、カットや表紙画を描き、校正をし、新聞広告や中吊り広告の制作も手がけた。〈それが編集者としてのぼくの、なによりの生き甲斐であり、よろこびであり、誇りである〉(同誌100号「編集者の手帖」より)。本展「花森安治の仕事 デザインする手、編集長の眼」は、『暮しの手帖』の出版活動をひとつの雑誌を超えた「運動」としてとらえ、生活者にメッセージを伝えることに命をかけた花森安治の思想を、700点以上もの展示資料から浮き彫りにする展覧会だ。

花森のデザインの中心となるのは「描き文字」だった。 たとえば、『暮しの手帖』の表紙。毎号の表紙画を自ら描き下ろすだけでなく、題字もそのつど描いていく。花森明朝体のスタイルは継承しつつ、表紙自体のデザインに呼応して、題字は変わっていく。 誌面のタイトルや見出し、カットにも描き文字が用いられた。カブラペンや丸ペンなどのつけペンやフェルトペン、クレパスや鉛筆、筆といったさまざまな画材で、記事内容に合わせていろいろな個性の描き文字で誌面を飾った。

新聞広告の版下も必見だ。花森は、数百字もあろう長いボディコピーを、一切の修正もなく、細いペンで丁寧に書いていく。写植を用いたものも、見出しコピーは1字1字を切り貼りし、字間を詰め、まるで手で描いた文字のようにうねらせながら組んでいく。写植の文字と手描き文字が絶妙に混植されているその様子を見ると、花森安治という人は、呼吸するようにデザインをした人なのではないかと思う。高校時代に手がけた『校友会雑誌』(旧制松江高等学校)の編集後記ですでに、1行文字数や字詰めと読みやすさとの関係に言及しており、その早熟さに舌を巻いたが、論理的に考えつつも誌面を実際につくり上げるときには、彼の身体のなかにある伝えたい思いやリズムに従って、呼吸するようにデザインしていたのではないかと感じる。

終戦後に創刊した『スタイルブック』の編集後記で、花森は誌面に対する読者の意見を募り、「もっともっと勉強して、少しでもよい本をつくっていきたい」と書いた。一人の人間がこれだけの仕事をなし得るのかと圧倒されんばかりの仕事量も、ただただ「少しでもよい本をつくりたい」という、強い思いから生み出されたのだろう。

一貫してあるのは「伝えたい」という思いだ。人の手仕事を大切にする花森にとって、メッセージを伝えるための大切な手段のひとつが「描き文字」だったのではないか。 とにかく数多くの「描き文字」が見られる展覧会である。


  • 会期:2017年2月11日(土)~4月9日(日)
  • 場所:世田谷美術館
        東京都世田谷区砧公園1-2
  • 時間:10:00~18:00
  • 休館日:月曜日
  • 入場料:一般 1,000円、65歳以上800円、大高生800円、中小生500円
2017年3月23日

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展覧会レヴュー

雪 朱里

ライター、編集者。1971年生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、専門誌編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事やくらしの歴史などの分野を中心に、ものづくりに携わる人々への取材執筆活動を行なっている。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、編集・執筆等を手がけた書籍に『一〇〇年目の書体づくり 「秀英体 平成の大改刻」の記録』(大日本印刷)、『活字地金彫刻師 清水金之助』、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話』(小塚昌彦著/グラフィック社)ほか多数。2011年2月より『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)のレギュラー編集者も務める。

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