文字による文字のための文字のサイト

type.center

「凸版文久体ができるまで 1」 監修を務めた祖父江慎氏(コズフィッシュ)が講演

イベントレポート

「凸版文久体ができるまで 1」 監修を務めた祖父江慎氏(コズフィッシュ)が講演

印刷博物館は2017年3月11日、同館・グーテンベルグルームにおいて「凸版文久体ができるまで」をテーマとした講演会を開催し、80名が聴講に訪れた。


印刷博物館・P&Pギャラリーでは、3月11日から6月18日まで「印刷書体のできるまで 活字フォントからデジタルフォントへ」を開催しており、凸版文久体を中心にフォント制作工程などを様々な展示で紹介している。また、会期中は、凸版文久体の制作に携わったデザイナーなどを講師に迎え、3回にわたる講演会を企画している。

「凸版文久体ができるまで 1」

監修を務めた祖父江慎氏(コズフィッシュ)が講演

祖父江氏

その第1弾では、凸版文久体制作の監修を務めた祖父江慎氏が講師として登壇し、凸版文久明朝や凸版文久ゴシックなど5種の書体で構成される新たな凸版文久体ファミリーの特徴などを解説した。また、祖父江氏は、漢字、かな、英数字、記号などの多彩な文字が混在しても、サイズや位置を調整することなく、きれいに文字組版ができるようになった凸版文久体の機能性などを紹介した。

凸版文久体は、1956年に金属活字として誕生した凸版印刷のオリジナル書体「凸版書体」を、現在の電子化時代にも対応できるようにリニューアルして制作された書体。祖父江氏は、まず凸版文久体を構成するフォントファミリーについて「最近では、骨格が同じで太さが変わっていくものを書体のファミリーと定義する文献もあるが、凸版文久体ファミリーの考え方は、骨格が違っていてもファミリーと位置付けている」との見解を示した上で、本文用書体として「凸版文久明朝R」「凸版文久ゴシックR」「凸版文久ゴシックDB」、見出し用書体「凸版見出し明朝EB」「凸版文久見出しゴシックEB」の5つの書体で構成されていることを説明した。

文字のやさしさを追求して設計

線のつながりをおさえた独特の表現も凸版文久体の特徴の1つと説明する祖父江氏

祖父江氏は、まず、凸版文久体の大きな特徴として「そ」を題材に紹介。

「多くの『そ』は、上の部分がつながっているが、凸版文久体では、つながっていない。このつながっていない『そ』の字に凸版書体のスタートの秘密が隠されている」

祖父江氏によると、明治時代に近代の学校教育制度が発足し、誰もが教育を受けられるようになったが、しかし当時のひらがなは、各地域によって教え方がまちまちで、とくに「そ」などは、つながった状態、つながっていない状態のそれぞれが正しい書き方として教えられていた。その後、昭和30年代頃からそれら文字を統一して教えるために、つなげて書く「そ」の字を学校で教えるようになった。その転換期につくられたのが、凸版文久体の源流である凸版書体であったと祖父江氏は推測している。

凸版文久体では、人が書く文字のやさしさを重視し、「そ」のほか「さ」や「き」なども、線のつながりをおさえた独特のひらがなとして制作されている。

横組みに特化したゴシック体

次に話は、凸版文久ゴシックへ。

「多くの方が縦にも横にも組みやすい文字を目指して作っていると思うが、結果として同じような書体となってしまう。しかし、本文用の凸版文久明朝は、基本的に縦組みを優先に設計している。つまり「縦・横双方に対応する」といった考え方を最初から外して設計しているからキレイなのである。それに対し、見出し用の文久ゴシックは、横組みに特化して設計されている」

その大きな特徴として祖父江氏は、「あ」を例に解説する。

「明朝体に詳しい人であれば、これは『○○明朝』だ、とすぐに分かると思うが、ゴシック体はデザイナーであっても何ゴシックか分からないくらい似ている。しかし、凸版文久体のゴシックは、誰が見てもすぐに分かる特徴がある。それは、文字のでっぱりが逆になっていること」

でっぱりが逆になっているゴシック体

通常、明朝体のひらがなやカタカナは、筆を左から入れたような文字のかたちをしている。そのため、「あ」などは、左上部にでっぱりがある。だが、これが通常のゴシック体になると、そのでっぱりは逆の右になる。しかし、凸版文久ゴシックは、明朝体と同じように左から筆を入れた形状となっている。これは、横組みでの読みやすさを追求した結果で、でっぱりを左につけたことで、自然で読みやすい文字の流れが表現できている。

祖父江氏は、「初めて見る人は、ちょっと違和感があるかもしれないが、これで文章を読むとあら不思議、とても読みやすいのである」と、その特徴を評価している。

どんな文字が混在してもキレイに組める書体

さらに祖父江氏は、様々な文字や記号が混在しても、すっきりとまとまる凸版文久体の特徴について言及。

「若いデザイナーたちは、日本語文に英文が混じるとき、大きさの相違から英文だけ他のフォントを使用したりするが、凸版文久体はその手間がいらない。日本語文と英文が混ざったとき、一番困るのがパーレンなどの約物だ。英文のパーレンは半角、一方の日本語のパーレンは全角と、その文字組みに苦労した経験をした方も多いと思うが、ちょっと混ざっていても意外に分からないのが凸版文久体で、ほとんど同じ設計になっている」

プロジェクターとホワイトボートを使ってその特徴を解説

日本語の文章には、漢字やひらがな、カタカナ、数字、英文、約物、記号など、実に多くの種類の文字が、当たり前のように使われている。凸版文久体は、文章にどんな文字が入っても、サイズや位置を調整することなくきれいに組むことができるようにデザインが整理整頓されている。

やさしさと力強さを両立

手書き文字の「やさしさ」を表現している凸版文久体ではあるが、逆に「力強さ」を表現するデザインも採用していると祖父江氏は説明する。

「もともと『ヒゲ』や『ヤネ』がなかった凸版文久明朝だったが、それではちょっと物足りない、という人のために今回、『ヒゲあり』『ヤネあり』を用意した(笑)」

今回、「ヒゲあり」「ヤネあり」の文字を採用した理由について祖父江氏は、「凸版の漢字書体は美しい骨格が特徴のひとつ。多くの漢字書体は、外側から内側に書いていくようなカタチで設計されている。つまり中心からではない。しかし、凸版の漢字書体は中心から外側に向かってデザインされている漢字が多い。つまり、書道的な骨格と言える。この美しさに力強さを加えることで、多様な場面で使うことができるはず」と語る。

読みやすくなったルビ

読みやすくなったルビについても紹介。祖父江氏は、これを「デカすぎるルビ」と表現している。

「漢字のルビは、あまりにも小さすぎて『ぶ』なのか『ぷ』なのか分からないことがある。そこで今回の凸版文久体では、ルビ専用字型を用意して、読みやすさを追求している」

凸版文久明朝と凸版文久ゴシックには、ルビ専用の文字が用意されている。通常の文章よりも小さく使われる文字でも、しっかり・はっきりと読めるように文字が大きく、通常の文字よりも濁点や半濁点が大きくデザインされている。

また、祖父江氏は、「邉」や「邊」など、多くの字型が使われる「渡辺」の「なべ」をはじめとする豊富な字型もラインアップしていることも報告。さらに凸版文久明朝と凸版文久ゴシックは、イタリック体に加えて欧文合字も搭載しているため、欧文の本文組版にも対応可能ということも付け加えた。


※なお、当記事はTypeSquareのwebフォント「凸版文久明朝R」を使用しました。

2017年4月12日

シェア

イベントレポート

type.center編集部

type.centerの編集部です。文字関連イベントをレポートしたり役立つ情報を発信できるよう努力してまいります。よろしくお願いします。

連載記事一覧
今日
昨日
おととい
ちかごろ
あいうえお かきくけこ さしすせそ たちつてと なにぬねの はひふへほ まみむめも やゆよ らりるれろ わゐゑを ん がぎぐげご ざじずぜぞ だぢづでど ばびぶべぼ ぱぴぷぺぽ 0123456789.
連載記事一覧
イベントレポート

「凸版文久体ができるまで 3」最終セッションでは小宮山…

印刷博物館は、P&Pギャラリーにおいて開催した企画展「印刷書体のできるまで 活字フォントからデジタルフォントへ」にあわせ、凸版文久体のフォント制作に携わったデザイナーなどを招聘し、これまで2つの講演会を開催してきた。その最終セッションとして6月3日、祖父江慎氏とともに凸版文久体制…
イベントレポート

対談『造本あれこれそれ話』 〜「祖父江慎+コズフィッシ…

千代田区立日比谷図書文化館において開催されている特別展「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」の関連イベントとして対談「造本あれこれそれ話」が2月18日、日比谷コンベンションホールにおいて開催。祖父江慎氏と白井敬尚氏の2人のグラフィックデザイナーが、それぞれの造本に対する考え…