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アドビのオープンソースPan-CJK書体「源ノ明朝」 日米のフォント開発チームが、その全容を明かす

イベントレポート

アドビのオープンソースPan-CJK書体「源ノ明朝」 日米のフォント開発チームが、その全容を明かす

アドビシステムズは4月10日、米Google社と共同開発したオープンソースPan-CJK書体「源ノ明朝(Source Han Serif)」に関するプレス向け説明会を開催し、その全容を明らかにした。

左から、アドビシステムズ・岩本崇氏、米国チームFont Developer Frank Grießhammer氏、西塚涼子チーフタイプデザイナー、山本太郎シニアマネージャー、服部正貴フォントデベロッパー

4月4日に公開された源ノ明朝(げんのみんちょう)は、アドビフォントとしては2番目のPan-CJK書体ファミリーで、Serif書体として源ノ角ゴシックと対をなすもの。開発には、イワタ(日本)、Sandoll Communications(韓国)およびChangzhou SinoType(中国)がパートナーとして参画している。

東アジアで用いられている4つの言語(簡体中国語、繁体中国語、日本語、韓国語)においてそれぞれ7つのウェイトを持ち、各ウェイトにはOpenTypeの上限とされる6万5,535の字形を収録。これらは各言語の多様性を尊重するとともに、共通化できる部分については積極的にデザインの一貫性を高めるようにデザインされている。さらに、欧文の文字セットとしてSource Serifのデザインに基づくラテン、ギリシアおよびキリル文字を採用している。なお、各言語のみに使用を限定したサブセット版も提供する。

源ノ明朝を使ったオブジェに隠し文字も

これらのフォントは、すでにフォントライブラリサービス「Typekit」の無償フォントとしてデスクトップ同期、またはWeb上での利用が可能となっているほか、オープンソースとしてGitHubからも入手できる(Googleからは「Noto Serif CJK」として提供)。

モダン過ぎず、ややクラシックな印象で

プレス向け説明会には、フォントデザインを担当したアドビの西塚涼子チーフタイプデザイナーをはじめ、日米のフォント開発チームらが出席。新フォントの概要やデザインコンセプト、開発プロセスなどが語られた。

まず開発の背景について、アドビ日本語タイポグラフィ シニアマネージャーの山本太郎氏は、「中国語、日本語、韓国語圏の人口は世界のおよそ1/4を占め、これら言語で利用される文字数は数万以上。フォント開発には膨大なコストと労力がかかるが、一方でこれらの言語で用いる文字の起源はすべて中国語の漢字だということに着目。デジタルデバイスが普及する中、東アジア地域で汎用的に使用できるスタンダードなマルチリンガル書体へのニーズに対応したものだ」と説明している。

字面は大きめにデザイン (画像提供:アドビシステムズ)

続いて、西塚氏がデザインについて解説。「デジタルデバイスでの利用を想定してデザインしているため、小塚明朝よりも横画は太めで、光っている画面でも先端が飛ばないように筆の入りのボリュームはやや強めになっている。一方で、明朝特有の抑揚は少し抑え気味。フォルム全体はモダン過ぎず、ややクラシックな印象で、字面は大きめにデザインしている」


源ノ明朝は、187個のエレメントで構成されており、これを日本語と中国語で共有しながらデザインの一貫性を維持するとともに、フォントデータ容量の低減を図ったという西塚氏。既存のフォントで源ノ明朝と同等のフォント環境を得るためには通常40MB程度のものが、源ノ明朝では25MB未満と大幅なフォントデータ容量圧縮を達成している。

『はらい』のエレメント (画像提供:アドビシステムズ)

同プロジェクトで西塚氏が最も困難を極めたのが「各国がそれぞれの国で使いやすいものをデザインする」ということ。とくに日本と中国の漢字をシェアすることでデータ容量を減らすことが重要なわけだが、無理にシェアしてしまうと中国で日本過ぎる感じが、日本で中国過ぎる感じが混じってくるなど、ユーザーにとって自然でないものになってしまう。「シェアしないか、シェアするならば中国語を採用するか、それとも日本語を採用するか、その判断に多くの時間を費やした。最も重要な作業である」(西塚氏)

シェアしないか、シェアするならば中国語を採用するか、それとも日本語を採用するか (画像提供:アドビシステムズ)

次に「源ノ明朝をどのように使ってほしいか」という問に対して西塚氏は「使用に関してはほぼフリーなので、Webやアプリ、ゲームなど、様々な場面で使ってほしい。もちろん印刷でも使える。私個人的には、大きめのかなを活かして、児童文学や高齢者向け書籍などでも使ってほしい」と語った。


また、「あいうえおアイウエオ」の濁点付きかなが使える点や、EMダッシュを繰り返し入力することで2倍、3倍のリガチャーが使えることを紹介。さらに、最大画数の漢字「ビャン」が搭載され、入力が可能になったことにも言及。「この漢字は『ビャンビャンメン』という名称に使われているようで、ユニコードへの正式な採用を提案中のためにまだコードを持っていないが、特定の文字列を入力すると変換できるようになっている。『ビャンビャンメン』のお店を開業する機会があれば使ってほしい(笑)」(西塚氏)

新たな使い方も (画像提供:アドビシステムズ)

『ビャン』も入力可能に (画像提供:アドビシステムズ)

このほかプレス向け説明会では、日本語タイポグラフィ フォントデベロッパーの服部正貴氏がプロジェクトの苦労について「例えばAdobe-Japan1-6ならばその文字セットを作ることが目標になるが、今回のプロジェクトでは、作っている段階でどれだけの文字を作らないといけないかが分からない。目標が絶えず変化する中で、それを絶えずトラッキングしていくことが非常に大変だった」と振り返っている。

また、米国チームFont DeveloperのFrank Grießhammer氏は、CJKのために本社で追加したクエスチョンマークや全角合字のデザイン、Cap-Height数字の採用などに言及。とくにCap-Height数字の採用については「通常、ラテン用に作られた数字は、英字に合わせて少し小さめに作る。これをそのまま日本語で使うと非常に小さく見えてしまうという問題は昔からある。源ノ明朝では、Cap-Height数字を採用し、欧文で使う時と日本語で使う時で、高さの違う2つの数字を使い分けるというアイデアが組み込まれている」と述べ、そのユニークな試みを紹介した。

Cap-Height数字を採用 (画像提供:アドビシステムズ)

フォントの日 制定記念 源ノ明朝発表レセプションパーティ スペシャルトークセッションも

当日4月10日がこのほど「フォントの日」として正式に定められたことから、午後19時より「フォントの日 制定記念 源ノ明朝発表レセプションパーティ」も開催された。

一般社団法人 日本記念日協会が正式に定め、アドビが制定したもの。デザインの重要な要素となっている「フォント」に改めて注目してもらうことが目的だ。日付は4と10で「フォン(4)ト(10)」と読む語呂合わせから。

源ノ明朝の概要がプレゼンされた後、スペシャルトークセッションとして、博報堂・小杉幸一氏、DELTRO・坂本政則氏、ナイアンティック・川島優志氏、アドビ・西塚氏の4名が、源ノ明朝の評価や将来性、またフォント開発の方向性などについて討論した。

左から、DELTRO・坂本政則氏、アドビ・西塚氏、博報堂・小杉幸一氏、ナイアンティック・川島優志氏


※なお、当記事はAdobe TypeKitのwebフォント「源ノ明朝」(ExtraLight , Medium, Bold)を使用しています。
※ 4月12日に本文に修正を加えました。

2017年4月11日

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人物プロフィール

山本太郎

1961年京都市生まれ。1983年武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。株式会社モリサワに入社。1992年アドビ システムズ 株式会社に入社。現在、同社Japan R & D所属、日本語タイポグラフィ、シニアマネージャーとして、日本語フォントの開発及び関連技術の開発に従事。タイポグラフィ学会会長。

服部正貴

アドビ 研究開発本部 日本語タイポグラフィ シニアデザイナー。 1968年、名古屋生まれ。愛知県立芸術大学デザイン科卒業後、1994年、アドビシステムズ入社。小塚昌彦氏の指導のもと「小塚明朝」、「小塚ゴシック」の開発に携わると同時に、エレメントベースのフォント制作技術、アドビのフォント開発キット「AFDKO」を習得。アドビオリジナルかな書体「りょう」および「りょうゴシック」ファミリー、アドビオリジナル フルプロポーショナルかな書体「かづらき」の開発に参加。2014年にリリースされた「源ノ角ゴシック」では中国、韓国の書体デザイナーと協力し開発に携わる。

西塚涼子

1972年、福島県生まれ。アドビシステムズ 研究開発本部 日本語タイポグラフィ タイプフェイスデザイナー。1995年、武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科卒業。1997年、アドビシステムズに入社。小塚昌彦氏の指導のもと、「小塚明朝」、「小塚ゴシック」の開発に携わる。その後、アドビオリジナルかな書体「りょう」および「りょうゴシック」ファミリー、フルプロポーショナルかな書体「かづらき」、「源ノ角ゴシック(Source Han Sans)」をリリース。モリサワ国際タイプフェイスコンテスト、NY TDC審査員賞など多数受賞。

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