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「凸版文久体ができるまで 2」 和文・欧文のデザイン担当者が講演

イベントレポート

「凸版文久体ができるまで 2」 和文・欧文のデザイン担当者が講演

印刷博物館・P&Pギャラリーでは、企画展「印刷書体のできるまで 活字フォントからデジタルフォントへ」の会期中に、凸版文久体のフォント制作に携わったデザイナーによる講演会を開催している。


5月20日には、その第2弾として和文デザインを担当した伊藤親雄氏(字游工房)と欧文デザインを担当した岡野邦彦氏(Shotype Design)を講師に迎えた講演会が行われた。

「凸版文久体ができるまで 2」

和文・欧文のデザイン担当者が講演

第2弾では、和文・欧文のデザイナーが登壇

最初のセッションでは、伊藤氏は、凸版文久体を構成するファミリーの概要について改めて解説した上で、デジタルデバイス対応などをコンセプトとしたフォント制作について振り返った。

伊藤氏は、2012年から2016年までの4年間、凸版文久体制作に携わり、漢字については明朝Rの種字制作および5書体の修正作業を、そして仮名については、明朝Rと見出し明朝EBのデザインを担当している。

まず、伊藤氏は凸版文久体の制作コンセプトとして「デジタルデバイス対応」「本文用明朝は縦組みに特化し、本文用ゴシックは横組みに特化する」「オプティカルスケーリング」の3つを挙げた。

その中で「デジタルデバイス対応」については、「印刷はもちろんだが、現代の表示環境で主流となってきている電子デバイスでの使用を念頭に置いている」と説明し、電子書籍をはじめ、パソコンやスマートフォンなど、バックライトによる透過光環境での表示を意識して制作したことを明らかにした。

独特の味わいがある現行フォントの特徴を生かす書体制作

そして実際の書体制作の話へ。まず、伊藤氏は、現行フォントの問題点として、バランスの悪さを指摘する。「バランスの悪さや太さやアウトラインの品質など、全体的に問題があった」

伊藤氏

伊藤氏によると当初、プロジェクト全体を通して「横組み適正」を構想しており、明朝も「横組み」で考えていたという。そのため試作では、明朝体も「横組み」を意識した試作を行っていた。しかし、監修会議では、「凸版明朝」と「横組み」の相性が良くない、との判断がなされた。

「試作の段階では、現行の凸版明朝の個性が抑えられてしまった。それならば、思い切って縦組みに特化しよう、というコンセプトに方向転換することになった」(伊藤氏)

「縦組み適正」には、「文字固有の形を尊重する」「漢字は大きく、仮名は小さく」「文章にリズム感を演出する」などの特性があるが、伊藤氏は「凸版明朝は、もともと自由奔放な骨格をしているので縦組みに適している」と説明。また、伊藤氏は「凸版明朝は、一見するとバランスの悪い書体だが、その不揃いさや無骨さが、現代の書体にあまり見られない独特の味わい深さになっている」と、その特徴を評価した上で、その短所を長所として生かすことが、今回の凸版文久体制作の役割であったと振り返る。

デジタルデバイスへの対応

デジタルデバイスへの対応がコンセプトの1つ

今回のプロジェクトでは、コンセプトのひとつに「デジタルデバイスへの対応」を掲げている。そのためデジタルデバイスの透過光環境でも、しっかり表示されるように、横線や先端を太めにしているという。

「今回のプロジェクトでは、想定している主なデバイスをMacやiPadのRetinaディスプレイに決めていたので、その環境でしっかり表示できるかを、主に太さの観点から検証した」(伊藤氏)

制作過程では、数種の太さの文字を作成して画面検証を行い、その中から適正な文字を決めていった。

監修者の意見を反映

今回のプロジェクトでは、第三者の客観的な意見を取り入れるため、小宮山博史氏と祖父江慎氏が監修として参加している。伊藤氏は、両氏からのアドバイスについて、次のように説明する。

小宮山氏からの意見—「伝統の継承と可読性に努める」 「凸版書体は、凸版印刷の財産でもある。そのため大きな変更を避けながらも適正な修正を加えて、新しい時代へ適応させていくことが必要、との意見を頂いた」(伊藤氏)

祖父江氏からの意見—「個性やオリジナリティを尊重する」 「今は、似たような書体が氾濫している。それならば個性やオリジナリティを尊重して、今までにないような書体をつくるべき、との意見を頂いた」(伊藤氏)

これらのアドバイスは、書体制作に採用されていった。その代表的な例が仮名書体の「き」「さ」「そ」「や」で、伊藤氏は「筆脈が途切れているのが凸版書体の大きな特徴である。他の活字書体は、つながっているものが多いが、凸版書体は教科書体のような書き文字に近い字体になっている。そのため、この特徴を継承してデザインを進めていった」と語る。

ラインではなく重心を揃える

次に話は「横組み」に特化したゴシックへ。

横組みに特化するということは、通常とどのように違うのか?その点について伊藤氏は、「ラインではなく重心を揃えること」と説明する。

「一般的に言われる横組み適正とは、漢字と仮名の大きさを合わせて、上下のラインをキレイにする手法が行われている。今回のプロジェクトでは、その一般的なセオリーではなく、縦組みのような抑揚のある組版が、横組みでも必要なのではという考えから始まった」(伊藤氏)

そのため、凸版文久体では「横組み適正」として「ラインではなく重心で揃える」「寄り引きを少し下に設定する」「起筆の打ち込みを左側につける」「左ハライを横に向けるように払う」「横線を水平方向に近づける」という5つの考えを軸に制作されている。

「これは凸版文久体の考え方であって、一般的に正しい、といったものではない。横組み適正は、まだまだ検討の余地があり、今回はそのひとつの提案と言える」(伊藤氏)

手探りの状態から始まった欧文デザイン

岡野氏

続くセッションでは、欧文デザインを担当した岡野氏が登壇。

岡野氏は、2012年から凸版文久プロジェクトの欧文デザイン担当として参加した。しかし、岡野氏が参加したときには、すでに明朝体の試作が完成しており、また、プロジェクト全体の概要も完全には把握していなかったという。加えて欧文書体は、まったくの新刻であったため、元となる書体自体が存在しない。

そこで岡野氏は、全体像を把握するために、欧文書体制作に関する企画書を作成して、自身の考える制作プランをいくつか提案した。しかし、結果はすべて却下であったという。

岡野氏が提示した企画書

「玉砕覚悟の提案であったが、何が必要で何が不要なのか、いったことを確認することができた」(岡野氏)

企画書は通らなかったものの、プロジェクトの方向性を確認した岡野氏は、早速、試作づくりにとりかかる。「欧文は田んぼとして組まれたとき、そのかたまりが、どのように見えるかが重要だと思う。そのため、ひとつひとつを丁寧につくるよりも、PCでアウトラインをとりながら作り込んでいった」(岡野氏)

様々な利用環境を考慮して検証を実施

試作制作では、和書体が混在した文章に試作欧文書体を組み入れて作業を行っていった。和欧両書体が混在したときに、文字の大きさのバランスがどう見えるか。欧文で文章を組むと一番頻度が高いのは小文字である。そこで岡野氏は、エックスハイト(x-height)の大きさによって和欧文のバランスなどを検証していく。

「仮名の字面は大きいが小ぶりな印象であるため、全体の大きさはあまり大きくしていないが、カウンターの大きさをしっかりとすることで明るく軽快な印象にした」(岡野氏)

次に和文との濃度のバランスや強調具合を見ながらウェイトを検証。岡野氏は、5/1,000単位のウェイト差を生成し、紙媒体だけでなくスクリーンデバイスによる表示でも検証を重ねていった。その結果、高解像度では、やや細く見える傾向があるため、少し強めに感じるウェイトにしている。

岡野氏は、明朝欧文デザインの特徴として「クラシックなフォルム/プロポーションで、仮名同様にやや手書きの印象を持たせる」「仮名の起筆、打ち込みの厚みと合う、しっかりとしたセリフ」「セリフなどのエレメントはモダンな印象に」「クラシックとモダンのイメージを併せ持つことにより幅広いコンテンツをカバーするデザイン」と解説する。

また、岡野氏はゴシック欧文について、「明朝用欧文とゴシック用欧文は、骨格をほぼ同じイメージで揃えており、親和性を高くしている。仮名の力強さや漢字の込み入った線画との親和性を考慮して、既成概念にとらわれることなく、サンセリフではなく、スラブセリフ系の書体を設計し、スラブセリフ特有のしっかりとしたセリフとゴシックの個性的な印象のフォルムをあわせている。また、セリフ有りにしたことで、結果的に仮名のコブとの相性も良くなったと思う」と、その特徴について説明した。


※なお、当記事はTypeSquareのwebフォント「凸版文久明朝R」を使用しました。

2017年6月26日

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