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design surf seminar 2017〜デザインの向こう側にあるもの

イベントレポート

design surf seminar 2017〜デザインの向こう側にあるもの

モノタイプ 小林章氏

「公共サインのフォント、世界の潮流とこれからの日本の課題」

(株)Too(石井剛太社長)が10月13日、東京・虎ノ門ヒルズで開催した特別セミナー「design surf seminar 2017〜デザインの向こう側にあるもの」の中から今回、モノタイプの小林章氏による講演「公共サインのフォント、世界の潮流とこれからの日本の課題」をレポートする。

小林章氏

書体の選択や使い方で遅れる日本の公共サイン

日本の公共サインに英語表示を添えることが急増しているが、日本を訪れる外国の旅行客が英文の情報を頼りにして移動するとき、それらの情報は安心感を提供できているのか。ヨーロッパや米国ではサイン等で使われる書体がここ数十年で大きく改善されているが、小林氏は「日本では書体の選択や使い方を見る限りかなり遅れている」と指摘する。

同セミナーで小林氏は、フォントのデザインを軸に、公共スペースでの英文情報の「可読性」や「読みやすさ」について解説した。

日本人が欧文書体のスペシャリストに

2001年からドイツで欧文書体の設計を手掛ける小林氏。最近では日本語書体に関わることもあり、モノタイプ130年の歴史で初の日本語書体となった『たづがね角ゴシック』は小林氏がディレクションを務めた。

初めて制作した欧文本文書体「Clifford」

小林氏が欧文書体デザイナーになるきっかけとなったのは、はじめて制作した本文用の欧文書体「Clifford」が世界的な書体デザインコンテストでグランプリを受賞したことにはじまる。


まず小林氏は、自らの書体デザインの仕事として、ソニーの使用している「SST」書体やパナソニックの「Wonders!」キャンペーン用書体をはじめ、欧州の高速道路標識やスイス・UBS銀行といった事例を紹介。

「Akko」をモディファイしたPENNYのオリジナル書体

なかでも、ドイツのスーパーマーケットチェーン「PENNY」の仕事について「私の『Akko』という書体をモディファイしてPENNYのオリジナル書体をカスタマイズした。基本的に全部自分の書体なので、このスーパーマーケットに入るだけで多幸感に包まれる。ついつい余計なものまで買ってしまう」と述べ、会場の笑いを誘った。

日本人になぜ欧文書体のデザインを依頼するのか。「もうそんなことは誰も気にしていない。欧文書体のスペシャリストがたまたま日本人だっただけである」と小林氏。そんな小林氏が日本に帰ってきた時に違和感を感じる「公共サインの読みにくさ」が今回のテーマだ。

「可読性」と「読みやすさ」

Helvetica BoldとFrutiger Bold|提供 小林章氏

Helvetica BoldとFrutiger Bold|提供 小林章氏

4万近くあるモノタイプの書体の中でも有名なHelveticaとFrutigerを比較。見えやすい環境で見ると同じだが、ぼやけるなど条件が悪くなると見え方が変わり、Frutigerの方が見やすいという現象を再現した上で、Frutigerが用いられた世界の標識などを紹介した。小林氏は、これに対して日本の「読みにくい」と感じる標識について、いくつかの観点から解説した。

まず、日本語書体付属のローマ字は単語を組むのに向かないということ。一文字なら読めても、組み合わせになるとリズム感や単語の輪郭の印象に違和感が生じ、とくに「g・j・y」などが寸詰まりで読みにくい。「欧文の読み方のメカニズムとして、縦線の間が均等に見えることが重要」(小林氏)とし、「単語を組む」ということにおいて「MSゴシック」などは有用でないことを示した。

日本語書体付属のローマ字で文章を組むと、gjyなどが寸詰まりで読みづらい

欧文の読み方のメカニズム:縦線の間が均等に見えることが重要


次に「無理な省略」。「『JR L.』や『Tokyu L.』という標識を見て、この『L』を『Line』だと一目で分かる外国人はいない。このような標識表示が様々な所で当たり前のように使われている」(小林氏)

英単語の無理な省略

さらに、「無理な変形」についても指摘。「左右方向に縮小をかけて、縦線の方が横線の半分ぐらいの細さになってしまっているケースもある。『情報をあるスペースに詰め込めば仕事が終わり』という風潮が垣間見られる」と小林氏。スペースが限られる場合には、最初から縦長に設計されている「コンデンス体」という書体バリエーションの有効活用を訴える一方、ドイツで使われている「テレスコピック枠」という標識を紹介。これは道路名の文字数に合わせて伸縮させ、長さを調節できる道路標識枠のこと。小林氏は、この背後にある「情報は変形させない」というコンセプトの重要性に言及。「最も重要な文字情報に合わせて枠を可変させるという考え方がポイントである」と語った。

羽田空港国際線ビル駅

長さを調節できる道路名取り付け枠


一方、標識ではないが、大文字の単語が文章中に入るとそこだけ怒鳴っているように見える。生命の危険を知らせるなど本当に重要な警告以外は使用は控えたほうが良いと指摘。日本語の地名は全部大文字で表記という暗黙のルールがあるように思うが、文章中でその単語だけ目立ってしまって読みやすさの妨げになるので避けた方が良い。また、社名やブランドのロゴがすべて大文字でも、ロゴの表記に従う必要は無い。英語の一般的な固有名詞の表記で、最初の文字だけ大文字であとは小文字、というのがスマート。」(小林氏)

誰かの話し言葉としてではない単語を引用符("")で囲み、『本当はそうではない』という意味を含ませることがある。それを小林氏は『皮肉引用符』と呼んでいるが、この皮肉引用符を使うことで意味がおかしくなる例を紹介。小林氏は英国の日刊紙「Guardian」の組版ルールブックのツイートを引用し、「たとえば、『PIZZA』に引用符が付くと『PIZZAという名前の何か別のもの』という意味になる」とし、正確に伝わらない表現になってしまうことを指摘した。

これらの問題点を踏まえ、小林氏は日本の公共サイン制作に対して以下の是正を提言している。

  • 日本のサイン表示で用いられる英文フォントの多くは旧式。
  • 新DIN1450規格の考え方を参考にアップデートを。
  • つくる側の都合ではなく、英文の読まれ方のメカニズムを知って、読む人の側に立ったサイン表示を。
  • 無理な変形よりは視覚補正されたコンデンス体の使用を。
  • 大文字だけで組んだりロゴの表記にむやみに倣うことなく、組み方にも一定のルールを。

DIN1450規格が推奨する標識用書体の選び方・使い方

さらに小林氏は、提言に挙げられた新DIN1450規格についても解説。ドイツ工業規格DINが定める標準書体として、DIN1450規格が推奨する標識用書体の選び方・使い方について、以下のように定義している。

  • 適切な字幅・線の太さを持つ書体であること。
  • フトコロが閉じ気味でない書体であること。HelveticaやDIN1451はすでに全面的には推奨されていない。
  • 字形の判別がしやすい書体であること。
  • 大文字・小文字表記で単語の輪郭を明確にすること。
  • 適切な文字間を確保すること。

2017年12月6日

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