デザインフォーラム「TDC DAY 2018」レポート
2018年4月7日(土)、DNP五反田ビルの1Fホールにて「TDC DAY2018」が行なわれました。東京TDC賞受賞者のプレゼンテーションなどが聞けるこのデザインフォーラムは、今年で19回目の開催とのこと。6時間半にわたるフォーラムの様子をレポートします。

「TDCDAY 2018」は、DNP五反田ビルの1Fホールにて開催。
1. 藤田重信 + 祖父江 慎
タイプデザイン賞

藤田重信氏と祖父江 慎氏
まず最初のプログラムは「筑紫書体(第2期)」でタイプデザイン賞を受賞された藤田重信氏と、ゲストの祖父江慎氏による対談。

タイプデザイン賞を受賞した「筑紫書体(第2期)」
(「TDC 2018」展にて)
漢字の“ふところ”の小ささが特徴の筑紫書体第2期。「引き締まった、“ふところ”の少ないゴシックを現場のデザイナーはこれまで切望してたんだよね」とゲストの祖父江慎氏の言葉から始まりました。
かつてはナールやゴナに代表されるような、“ふところ”が大きいゴシックが近代的・都会的なイメージを持ち、広く使用されてきた。それに伴い、明朝体の“ふところ”も大きくなっていったという書体の流行の流れについてのお話があったあと、「2000年を過ぎたころから若いデザイナーが、『“ふところ”が大きい書体は古ぼけた前時代的な印象で、“ふところ”が小さいほうが新鮮』だと話すようになった」と語る藤田氏。
特徴的な字形については、「文字は結局見慣れていくものだから、(特徴が)いきすぎと思える文字も必要になるのではと思う」とのこと。

藤田重信氏
筑紫Q明朝のカタカナについて、祖父江氏は「これまでどの書体もひらがなに力をいれて、カタカナはどの書体も同じだったけど、(筑紫Q明朝のカタカナは)うつくしすぎて困っちゃうね!」とにこやかに語られました。
2. 中村至男
RGB賞

中村至男氏
次に登壇したのは、RGB賞を受賞された中村至男氏。実験的な映像作品の「エイドリアンーよむきくをまぜる試み」については、「最近、歌詞とタイポグラフィをシンクロさせたミュージックビデオで優れたものを多く見かけるようになったが、自分は文字を優先して読んでしまって、曲が聴けなくなってしまう」を自身の体験をきっかけとして話されました。「話を聞くとき、人は自然と相手の口元を見る。口のかたちを見ることで、聞くことを補っているのではないかと」、「『読む』と『聞く』とを混ぜることで、両方をリアルタイムに獲得できる瞬間があるのではないか」。

RGB賞「エイドリアンーよむきくをまぜる試み」
(「TDC 2018」展にて)
その他のお仕事でも、「見る」というフィジカルな行為が及ぼす、生理的な感覚と一緒になるアイデアを模索していると語る中村氏。
たとえばプレゼンの中で紹介された「どっとこ動物園」は最低限に抑えたドット絵で動物が描かれており、絵を見てから、それが何の動物だかわかるまでに時間がかかります。その能動的に対象を見よう、感じようとする姿勢が「見る」という行為なのではないか、と語りました。
3. Balmer Hählen (Priscilla Balmer + Yvo Hählen, Switzerland)
TDC賞

Balmer Hählen の Priscilla Balmer氏(右)と、Yvo Hählen氏
3番目に登壇したのはBalmer Hählen(Priscilla Balmer + Yvo Hählen)。スイスにオフィスを構えるデザインデュオです。
現在受賞作品・エントリー作品が展示されている銀座gggの中でも、異質な素材感でひときわ目立つ「Rendez-vous des créateurs 2017」のポスターとインビテーションでTDC賞を受賞しました。

「Rendez-vous des créateurs 2017」のポスターとインビテーション
(「TDC 2018」展にて)
砂鉄のような質感のポスターは、フロッキングという技術が使用されているとのこと。シャボン玉の泡を想起させるカードはホログラフィックフォリオ、グリッジから着想を得たインビテーションはレーザーカッティング、その他にもエンボスやワニス、フロッキングなど、彼らの仕事には様々な印刷加工技術が活かされています。
制作の工程についても紹介があり、印刷・加工業者にどういった効果を求めているのかを説明するために見せる、アイデアのアニメーションなどを公開してくれました。
4. Fraser Muggeridge studio (Fraser Muggeridge, U. K. )
ブックデザイン賞

Fraser Muggeridge氏
4番目の登壇者はブックデザイン賞を受賞したFraser Muggeridge studio(Fraser Muggeridge)。
受賞作品はグループ展『Shonky: The Aesthetics of Awkwardness』のカタログ。テーマを「ぎこちなさの美」と語りました。
「Shonky」とは「あやしいもの、正統でないもの」という意味がありますが、この作品も中のテキストは中央揃えで組まれ、複数の書体が組み合わされ加工された読みにくい書体が使われています。スタンダードなデザインから外れた、美的な読みにくさを作り上げたと話しました。

『Shonky: The Aesthetics of Awkwardness』のカタログ
(「TDC 2018」展にて)
プレゼンテーションの後の質疑応答にて、「読みにくいデザインについて、クライアントからの反発はあったか?」という質問がでました。
それに対し、彼は「shonkyは表現主義的な極端な例です。たとえば道路の標識が読みにくいことはよくないが、すべてが読みやすい必要はない」と答えました。
5. Prill Vieceli Cremers(Tania Prill + Sebastian Cremers, Switzerland)
グランプリ

Prill Vieceli Cremers の Tania Prill氏
5番目には、グランプリを受賞したPrill Vieceli Cremers(Tania Prill + Sebastian Cremers)、スイスのデザインスタジオによるプレゼンテーションが行なわれました。受賞作品の『Under the Radar, Underground Zines and Self-Publications 1965-1975』は、西ドイツにおけるアンダーグラウンドなセルフパブリッシュ作品をまとめた書籍です。

書籍『Under the Radar, Underground Zines and Self-Publications 1965-1975』
(「TDC 2018」展にて)
Zine,セルフパブリッシュ作品のアーカイブについて、ブレーメンの現代美術館で行なわれた収集作品の展示会について、そしてUnder the Radarの出版についてにわたるプロジェクトの全容についてをTania氏が話されました。
統一性がなく変わった形状のタイポグラフィやグラフィック、デジタルソフトと手描きによるレイアウトの混在などを魅力として述べつつ、グループ同士をつなげる自己表現や、出版物を通して行なわれるコミュニケーションこそが自己出版のブームが担う文化的な価値と語りました。
6. Au Chon Hin(Macao)
TDC賞

Au Chon Hin 氏
6番目に登壇したのはマカオの若手デザイナーAu Chon Hin。
彼はまず最初にスライドで、歴史的な建造物と現代的な風景が混在するマカオという国について紹介をしてくれました。

「16th Macao City Fringe Festival」のイベントVI
(「TDC 2018」展にて)
今回TDC賞を受賞したのは、「16th Macao City Fringe Festival」のイベントVI。このイベントはマカオのアートフェスティバルで、「親しみやすく、難解ではない」イベントだそう。ポスター等には、マカオの食べ物がシンプルな線、抽象的な図形で描かれています。たとえば会場の受付にはバナナのグラフィックがありますが、それは手土産を持たず来訪したときに「バナナ二本しか持ってきていないの?」と言うマカオでの定型文の冗句が由来と語りました。その他の仕事でも、マカオの伝統をとりこみ、モダンなデザインでアプローチする事例が紹介されました。
7. Nod Young(China)

Nod Young氏
最後の受賞者のプレゼンテーションは、中国の若手デザイナー Nod Youngによるもの。「Editor」のVIでTDC賞を受賞しました。
彼は仕事に対して大事にしているものとして「KISS:Keep It Simple Stupid」と話しました。

「Editor」のVI
(「TDC 2018」展にて)
受賞作品の「Editor VI」は、識別性の高いロゴを作るという目標を掲げた上で、ロゴよりも先にビジュアルシステムを作ることをクライアントに提案したとのこと。カードの判型によって、形状が異なるEditorの文字は、面いっぱいにあふれでるメッセージをあらわしています。
その他の仕事のプロジェクトを紹介しつつ、「商業ベースを離脱したデザインは成立しえない」「難しいことを簡単に、簡単なことを細やかに」と語りました。
8. Nod Young + Guang Yu + 服部一成 + 菊地敦己

左から Nod Young、Guang Yu、服部一成、菊地敦己の各氏
最後に、Nod Young氏にGuang Yu氏、服部一成氏、菊池敦己氏が加わり、昨年北京で行われたTokyo TDC Selected Artworks 2016-2017 in Beijing についてのトークセッションが行なわれました。
Guang氏はこれまで二度TDC賞を受賞しており、今回受賞されたNod氏とデザインスタジオABCを主宰。北京でのTDC展のキュレーション、会場設営、展覧会グラフィックを担当されました。
会場設営の経過やオープニングの様子、学生対象のワークショップについてなどの報告があり、その他北京の若いデザイナーの作品の紹介で話が盛り上がりました。
中国と日本でのデザイナーの環境の違いについて話題が及んだ際には、 「中国の印刷業は価格重視なので、品質のよい業者探しにデザイナーはいつも悩まされている。日本の品質重視な点はうらやましい」 とNod Young氏・Guang Yu氏が印刷技術についてを語る一方、 「北京ではデザインされていないものがまだ残っていて、それをデザインしていくというダイナミックな動きがある、ある意味でとてもいい(面白い)状況。東京はすでにデザインされているものであふれてきて、デザインされすぎているものは格好悪く感じる風潮。その中で、デザイナーはどうふるまうか?という問題がある」等、現在の風潮について菊池氏が語り、様々な方面からアジアのデザインを考えるトークセッションとなりました。
6時間半にわたる豪華な会は、最後に登壇者、来場者での記念撮影にて締めくくられました。
受賞作品も展示されている「TDC 2018」は、ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて4月28日(土)まで開催されています。

ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて開催中の「TDC 2018」
(レポート:伊東友子)
※「TDCDAY 2018」の会場写真は、TDC事務局からご提供いただきました。