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第六期文字塾展トーク「この文字どうかな? どの字がすきかな?」聞いてきました。

イベントレポート

第六期文字塾展トーク「この文字どうかな? どの字がすきかな?」聞いてきました。

 書体設計士の鳥海修氏が主催する「文字塾」では、一年をかけて塾生が各々の仮名のデジタルフォントを作ります。 11名の塾生の書体が集まった第六期文字塾の展覧会が、2018年6月3日(日)から9日(土)まで人形町ヴィジョンズで開催されました。

今年のタイトルは「すきこそもじの上手なれ」。最終日にはトークイベント「この文字どうかな? どの字がすきかな?」が行なわれました。その様子をレポートします。

第六期文字塾展トーク

「この文字どうかな? どの字がすきかな?」

 第六期の文字塾に参加されたのは、11名の塾生のみなさん。

Acra Koh(アクラ・コウ)/淺岡真世/上杉望/木内陽/ 坂野徹/新海真司/隅芙蘭都/遠矢良彦/松葉菜摘/ 吉田大成/綿引麻子(五十音順、敬称略)

普段はデザイナー、エンジニア、学生の時から参加されている方など、さまざまな経歴を持った方が参加されています。

 展示会場にはそれぞれの書体の組み見本のパネルが展示されており、コンセプトの設定や、書体の作成の経緯、修正の過程などが収められている塾生のみなさんの制作ファイルも設置されていました。

完成に至るにはどのような作業があったのか、どのような言葉を塾長と交わしたのか、参考にした資料等々を垣間見ることができます。


 いよいよ時間となり、塾長の鳥海氏の進行によりトークイベントが開始。

まず最初に、展覧会会場にて来場者に向けて行なわれた各書体のアンケート結果を読み解いていきます。

集計したアンケートについて解説する鳥海氏

 「新鮮だ」「まじめだ」「読みやすい」「ほしい」「好きだ」の五つの項目ごとに、1から5の五段階の点数での回答を集計。

「まじめだ」で票を集めた書体は「新鮮だ」の項目の点が低い傾向が伺えます。 「中庸的で奇をてらわない本文用書体」を目指して制作された新海真司氏の「かわせみ」などがそれに当てはまります。「書体に特徴があるということと、それがまじめな印象を与えるということは両立しえないのかもしれない」と鳥海氏。

また「読みやすい」の項目で低評価の書体は、現代の日常生活の中でなじみのない形状を持つ書体であることがわかります。たとえば東京築地活版製作所『改正三号明朝活字書体見本 全』の細い仮名のコピーを元に制作された、上杉望氏の「ほたる」がそれにあたります。

 塾生のみなさんの書体の傾向の概略がどことなく見えてきたところで、制作者のみなさんからの各書体の説明に続きます。


 「土桔明朝」を制作された綿引麻子氏は、ジュエリーメーカーで働かれる職人。普段は結婚指輪に刻印されるイニシャルやメッセージ、時計の文字盤の文字を制作されているそう。

「土桔明朝」について解説される綿引麻子氏(中央)

 手紙や随筆を書く用途に、使う人の「声が伝わるような書体」をコンセプトとされた書体とのこと。

コンセプトを決める前に、勤めている会社で結婚指輪に刻印したいメッセージのアンケートをとり、その時に印象に残った「たくさんわらおう」という言葉をまず組むことを目標に設定したというエピソードを語りました。


 隅芙蘭都氏の「歓楽明朝」は、やわらかくひらひらとした「ひらがならしいひらがな」を目指して制作された書体。

一字ごとに見ていくと、文字の重心の軸がずらされていて、真ん中ではないことがわかります。「行に沿って進むのではない視点の動きかたが、舞い落ちる花びらがまっすぐではなく右に寄ったり左に寄ったりしてひらひらと落ちる様子と近い印象になるのではないかなと、制作後に思いました」と話されました。

「歓楽明朝」について解説される隅芙蘭都氏(左)

 古典的な印象を受けますが毛筆を見慣れない現代では新鮮に感じる書体で、アンケートでも「新鮮だ」の項目で点を集めていました。


 「はくれい Bold」を制作された吉田大成氏は、二年続けて受講された塾生の方です。

一年目に制作された「はくれい」は岡倉天心の『茶の本』から着想を得て制作された書体。儚げで、曲線ののびやかさが特徴です。Boldでもその特徴は引き継ぎつつ、強くなりすぎないように注力されたとのこと。

こだわった点として、太いけど厳しすぎない、キツくなりすぎない、儚さをうちに秘めて、伸びやかなかたちを挙げました。

「はくれい Bold」について解説される吉田大成氏(左から2番目)

 たとえば「あ」の文字の三角目の曲線は、カーブを描いて線の始点に交差する際に、起筆がとびでるように書かれるのがよく見られるかたちですが、「はくれい」の三角目の起筆はカーブの内側に収まっています。

これは「のびやかさを出すためにカーブが大きくなったから」と吉田氏は語りました。一文字一文字を見ていくことで、「はくれい」の持つ曲線のやわらかさと、筆のスポード感を感じることができます。

「太い明朝の仮名は難しいんだよね」と鳥海氏。仮名はそもそもが細い筆で書かれた文字。太い書体を作るためには、新しいスタイルを考えていかなくてはならないと語りました。

「つるくさ」について解説される遠矢良彦氏(左)


 終盤には、会場からの質問に答えるかたちで鳥海氏の制作した「疾駆」についても触れられました。

雑誌『疾駆』内での氏の連載「横組み用書体をつくってみる」。そこで作られたのは、黒田夏子氏の小説『abさんご』を組むことを想定に作られた横組み用のかな書体。

今回の文字塾展には挨拶文のパネルのとなりに、参考出品として書体一覧と組み見本も展示されていました。

「現代の人が筆を使って横書きでかなを書いたらどういうかたちになるかということを考えた」とのこと。「かな書体の形状は、縦書きで書いた時の上方向からのはいりかたと、下方向へのぬけかたが想定されている。疾駆では、横方向に進んでいく軌跡を描くようにした」と構想を語られました。

 展覧会会場で配布された冊子の鳥海氏のあとがきには、次のような文章がありました。

不易流行という言葉があります。ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず…は『方丈記』の冒頭の文章。(中略)それからすると、文字はコミュニケーションツールとしては変わらないが、その表現方法は時代とともに変わるというふうに置き換えられるかもしれません。もっというと表現方法が変われば文字のデザインが変わるのかといえば、変わるでしょう。しかし変わりながら変わらないところがあると思います。その変わらないところは文字の成り立ちであり、歴史だと考えます。私はそこに立脚することが肝要で、その上での新しい環境における文字作りであることを忘れてはならないと思います。

 制作のファイルや、トークイベント中の言葉からも、塾生のみなさんがどのようにそれぞれの文字に向き合ってきたか、塾長の鳥海氏がどのように同じ方向に目を向け並走してきたかということがにじみでていました。

第七期の塾もすでに開始しているとのことで、今もまた文字塾では新たな文字が模索されていることでしょう。

上杉望氏の「ほたる」の三種類の「と」の文字について語る鳥海氏

(レポート:伊東友子

2018年6月15日

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