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円城塔『文字渦』出版インタビュー〈後編〉

開発インタビュー

円城塔『文字渦』出版インタビュー〈後編〉

円城塔さんへの『文字渦』(新潮社)出版インタビュー、前編にひきつづき後編をお届けします。(聞き手/撮影:塚田哲也)

──AIを使った書体の自動生成という話が出てきましたが、AIを使った文章作成についてはどうですか?

円城: 既に漢字変換でGoogle予測変換、僕は合わないので使っていませんけど、AI支援を受けているのと一緒ですよね。Wordの赤い下線とかも。ウザいなぁと思いますけど(笑)、そこは鍛えて賢くなっていけばいいわけで。

映画のプロットやハーレクイーンロマンスの大筋も自動生成されているし、定型に関しては自動生成でガンガン作っていけばいいと思います。機械に奪われる、って心配する人もいますが、奪われることは無いと思いますね。結局は人間にとってのものなので、便利なものは使えばいいと思います。機械にできることは機械にやらせればいい、機械にできないことをやるのが人間で、そこがメシのタネなので(笑)。

──文章を書くためのツールはよく作られていますよね。先ほどのルビを振るためのコードもそうですし。

円城: ルールが決まっちゃえば、それで遊ぶことはいくらでもできるんです。『シャッフル航法』(河出書房新社)がそうでしたね。ある日、「現代詩手帖」から詩を依頼されて。詩は書けないのに、ということでまずは基本となる文章をトランプの数と同じ52個のフレーズで用意して、それをフレーズ単位でシャッフルさせるコードを書きました。ある特定のシャッフルを8回繰り返すと元に戻るんですけど、それを「詩だ」と言い張ったことはあります。

『シャッフル航法』に収録されている「∅」という作品では、一行が250文字から始めて、一行進むごとに一字ずつ減らしていくというものを書きました。それをやるにはツールが無いと書けなかった。

──『文字渦』の「かな」の回では和歌がアナグラムになっていましたが、あれもツールを使ったんですか?

円城: 日文研に和歌のデータベースがあるんですよ。データベースといいながらhtmlなんですけど(笑)。今回は紀貫之集だけ引っ張り出して、歌の部分だけ引っこ抜いて、とある文字列が含まれている歌を検索するということをやっています。今回検索したのは「カンブリア爆発(かむふりあ はくはつ)」という文字列でしたけども。そのくらいはあるかな、って(笑)。

──あるかなって予想もすごいですね(笑)。

円城: 柳下毅一郎さんの訳したスラデックの『ロデリック』(河出書房新社)という本の解説を書いたとき、スラデックの言語遊戯に付き合ってやろうと「すらでつく」と「ろでりつく」を含む歌を古今和歌集から探す、というのをやったのが最初ですね。一首だけ見つかりました。

──やるのもすごいけど、見つかるのもすごい。

円城: 要はデータがあればなんでもできるんです。和歌だってこうやってデータベースがある。実際のところ、和歌っていうのは猛烈にあるんですよね。ひとつの和歌集でも1,000くらいの和歌が入っていて、蓄積もある。機械学習の人とか触るといいんですよ。

──『プロローグ』では二十一代集全部引っ張ってきてやってましたもんね。

円城: そうですそうです。あれは何故かマイアミで作業してたんですけど(笑)。あのへんから繋がって、徐々にできるようになってきたという感じです。


──type.center でも「文字文学」という企画があって、「文字」にまつわる文学集をまとめています。きっかけは「文字」と「文学」の字の形が似てるから、ということなんですけども(笑)、青空文庫から「文字」で検索した小説を収録し、BCCKSで公開しているんです。その後も「文字」に関するキーワードで探し出して今まで3巻ほど出してるんですが、その3巻目で、青空文庫に収録された円城さんの『ぞなもし狩り』も掲載させていただいてます。

円城: 実は『ぞなもし狩り』を書いたのも、そういう主旨でやったイベントなんです。澤西祐典、福永信と3人で別府大学で講演をやって、別府について何か書くというもので。別府のこと知らないよ、って話から、まずは青空文庫で「別府」を検索して、出てきた小説をまとめて、来たひとに配ってもらって。小説をみていくと、たいていの人は大分に心中しに来るんですけど(笑)。

で、そういったことを話題にトークをして、それをふまえて各自が小説を書いたんです。内容はともかくかならず「別府」という文字は入れることにして。そして青空文庫に収録すると次に「別府」で検索したときに自分たちのも出てくるようになると。

──別府で検索したのに『ぞなもし狩り』というタイトルが出てくるという(笑)

円城: 他の土地でも同じことをやりましたね。ひとつのスキームとして。静岡でやったときには、青空文庫を検索した結果、小説ではみんな通過するだけなんですね。東海道を。

──なるほど(笑)。既存のデータベースを素材として、どう加工したり、リミックスするか、遊び方のルール次第だぞ、と。

円城: そういった「プログラミング文芸部」みたいなものはいつかやりたいんですよね。誰もやってくれないんですけど(笑)

──「プログラミング文芸部」いいじゃないですか! 

とはいえそういったプログラミング文芸も、手じゃできないところを作業するツールとして使う、という感じで、最終的にまとめているのは人間、円城さんということになりますよね。

円城: 編集さんに「こんなの」って言われて、それを入力すると、要望にかなったものができあがるツールがあれば最高なんですけどね(笑)。「面白い」と思うことは人間にしかできないし、機械に教えていくしか無いところで、そこまで機械はつきあわないんじゃないですかね。「面白い」と機械が思うようになったら機械も人間ですよ。そこまで機械と人間が混ざるにはまだ時間があると思います。

──プログラミングだけじゃなくて、人間の入力も手書きの頃から、キーボードでの誤字、フリック入力の誤字と変わってきてますよね。

円城: 僕は最近「です」が「てす」になっているという誤字がよく起こるようになって。

──えっ?

円城: キーボードを打っているのに手書きみたいに間違えるっていう。

──「さ」と「ざ」はSとZのキーの位置が近そうだからなんとなく分かりますけど、「で」と「て」はすごいですね……。

円城: 無意識化が進んで、打ち間違えの誤字と、手で書くような誤字が同時発生してきている(笑)。

それはともかく、こんなにみんな書くようになったのは、キーボードによって書いてるからですよね。どんどん書けてしまう。石に刻んでいるころにはそんなに書けないわけですよ。

円城: 最近では小説のテクニックも変わってきていますよね。投稿サイトの小説なんかは飛ばし読みに特化された文章にもなってきたり。毎週アップされ続けるし、書き方も変わってきている。なにで惹きつけて読ませるという構成も変わってきます。なので小説とは何ぞや、フィクションとは何ぞや、という話にもなってくるんですけども。

──かつての「ケータイ小説」みたいなものを思い出しました。

円城: 空の行を一行入れてね。たしかに電子デバイスやスマホで読む場合には、そういうものが適しているのは間違いない。画面では面白かったのに、紙で出すと駄目だ、みたいのはありますよね。 将来的には、飛ばし読みに適した文字が開発されるかもしれない。紙の拘束からも筆からも自由になったときに、どういう形になっていくか、というのが見たいですね。

──書く手段がどんどん生成されていった時に、どうやって読んでいったらいいでしょうかね。読み方は変わっていくんでしょうか。

円城: 頼れる人工知能を探す、ということになってきますよね。我が家に代々仕えてきた人工知能が、読むべき本を選んでくれる、みたいな。ウチの親父こんなの読んでたのかよー、みたいな(笑)。

──どんどん精査されていくと、すべての書物がクリーンなものになっていってしまいませんか?

円城: クリーンじゃないものは全部、紙として出回る、ということになるでしょうね。もはや怪文書扱い(笑)。本当に読みたい物語は地下出版することになるんじゃないでしょうかね。ポストに投げ込むとか。

──『文字渦』は電子デバイスでの飛ばし読みとは対極にありますよね、それに人工知能が理解できるかというと……(笑)。やはり怪文書ってことになるでしょうか(笑)。

円城: 連載をしていた2、3年前は、やっぱり紙の本だよね、という人が今よりも多かったので、じゃあ紙でしかできないことをやればいいじゃん、というのも動機としてありました。僕は決して紙サイコー、という人間ではないんですが、電子化しづらいものを作れば紙の本が出せるんだよ、というね(笑)。

でも、なんとか電子化はされると思いますよ。足りない文字はクラウドに置いてウェブフォントで読めるとか、そんなことも考えたりしました。けっこう関わらなくちゃとは思っているんですけどね。


なお、このインタビューはGitHub上にて自動音声書き起こし、編集、校正、原稿チェックを行いました。クリエイティブ・コモンズ BY-NC-SA 4.0 ライセンスの下、掲載しています。

2018年9月18日

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人物プロフィール

円城塔

1972(昭和47)年北海道生れ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。2007(平成19)年「オブ・ザ・ベースボール」で文學界新人賞受賞。2010年『烏有此譚』で野間文芸新人賞、2011年早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、2012年『道化師の蝶』で芥川賞、『屍者の帝国』(伊藤計劃との共著)で日本SF大賞特別賞、2017年「文字渦」で川端康成文学賞を受賞した。他の作品に『Self-Reference ENGINE』『これはペンです』『プロローグ』『エピローグ』などがある。

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