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「文字で演じる戯曲あそび」ワークショップレポート

イベントレポート

「文字で演じる戯曲あそび」ワークショップレポート

文字を通じて、フェスティバル/トーキョー18で上演されるマレビトの会『福島を上演する』の戯曲に書かれた言葉と出会う創作ワークショップが、9/8(土)IID世田谷ものづくり学校にて行なわれました。主催はフェスティバル/トーキョー。 講師にグラフィックデザイナーの大原大次郎氏、ゲストにマレビトの会から神谷圭介氏と田中夢氏を招き、文字のモビールを制作します。 タイトルは「文字で演じる戯曲あそび」。戯曲と文字のコラボレーション企画、その模様をお伝えします。

「文字で演じる戯曲あそび」

マレビトの会は、松田正隆氏を代表とする「舞台芸術の可能性を模索する集団」。 「劇団」というかたちではなく一つのプログラムごとにプロジェクトメンバーを形成し、創作・公演を行なう会とのこと。
そのマレビトの会がフェスティバル/トーキョー(以下F/T)で三年間にわたり上演している長期プロジェクトである『福島を上演する』(2016-)では、複数の劇作家が福島に取材へ赴き、短編の戯曲を執筆されています。

このWSは、ディスカバリープログラムと呼ばれる「学び」「発見」「交流」をテーマにしたF/Tの参加プログラムのうちの一つ。様々な分野、テーマが交差するプログラムやシンポジウムが多数組まれています。
今回は、戯曲の言葉に込められた意味や背景を表現した文字のモビールを作成します。

大原氏によって描かれたWSタイトル

「戯曲をみんなで読んでみて、感想を共有することは普段なかなかできない。このWSは頭の中に浮かんだイメージを具体化する体験ということで、私自身も楽しみです」とマレビトの会の三竿文乃氏より挨拶がありました。

「いわき総合図書館にて」を朗読

今回のWSで使用する戯曲は松田正隆氏作の「いわき総合図書館にて」というタイトルのもの。
戯曲というと台本形式になったものが想像しやすいですが、こちらの戯曲は図書館に集まるいわき市民の姿を形容する言葉がぽつぽつと紡がれていて、まるで詩のようです。
この戯曲をみんなで朗読することからWSは始まりました。

参加者全員で戯曲を朗読。会場とも相まって、国語の授業のようです

続いて、戯曲のワードが一行ずつ印刷されたクジを参加者がひきます。ひいたクジに書かれた言葉のモビールをそれぞれが作ります。
たとえば「雑誌を読む人」や「高校生」などの、人を表す言葉が対象になっています。

五種類の文字のエクササイズ

いきなりモビールの制作にはいらず、まずは手を動かすエクササイズから。
「デザインにおいても、文字が意味する状態を文字のかたちに表すことは難しい。文字は自然発生物だから、地球の物理要素が関わってくる。道具、書きかたから文字は作られます」と大原氏。

エクササイズの道具に使用するのは、黒いクレヨン。
最初に、普段自分が書くような文字で、A4コピー用紙に自分があてがわれた文字を書いてみます。

そのあと、四つの異なった方法で文字を書きます。
一つ目は、普段の利き手とは逆の手で、目を閉じて文字を書いてみます。

二つ目は、「指定規」を使用します。指や手がもつ曲線を定規のように沿って線を引き、文字を書きます。

指定規で書かれる「資料」の文字。制約のある中でひかれる線は、見慣れないかたちになります

三つ目は、一分間の制限時間を設けて、その中でできるだけたくさんの文字を書いてみます。

柔らかいクレヨンらしからぬ、カツカツと机にあたる音が教室に響きます

四つ目は、一分間目を閉じて沈黙したあと、目をひらいて一分間ゆっくり時間をかけて文字を書きます。

方法を変える、道具を変える、時間を変える、心持ちを変える。様々な要素を入れ替えて文字を書いてみます。

「書いた文字を、他の人と交換して、その文字を宙でなぞってみてください」という指示がでます。
書いた文字は、参加者のみなさんから出てきた「運動の跡」。どういう変化があるのか眺めてみると、他人の息遣いの差異を感じ取ることができます。

他者の息遣いを感じるとともに、自分の呼吸のリズムを意識するきっかけにもなります。

エクササイズを経た後戯曲を読み直すと、前とは異なる様々な方法でアプローチができるようになっています。
そこで改めて、どういったモビールを作るのかを考えます。
モビール制作のルールは、一本の糸でオブジェがつられていればOK。素材となるのは、紙、テグス、ワイヤー。のりやテープ、画材を使ってもOKです。

モビールの設計

いざ、設計図となる文字を描き、モビール用の文字をデザインしていきます。
読めるものをというよりかは、生き物をあつかっているように考えてください、と大原氏よりアドバイス。

ポイントは、モビールの部品となる文字のエレメントをどう抽象化して形状に落とし込むか

グラフィカルな「勉強」の文字をデザインする神谷氏。
神谷氏は『あたらしいみかんのむきかた』でイラストを担当されたそう

「高校生」の文字のモビール。吊るしながらかたちを整えていきます

モビールを吊るす

WSの終盤、できあがったモビールから、天井にぶら下げられていきます。

一つずつ、それぞれの声を持ったモビールが立ち上がってきます

左から大原氏、田中氏、神谷氏

WSにも参加されていた神谷氏は、 「文字が立体的にみえると、立ち上がってきた感じ。文字が生きてくるということは珍しい、平面に書いてるだけでは起こらない」と話しました。
平面の文字が立ち上がり、ゆらゆら風に揺れている様子はそのモビールが声を発しているようにも見えます。

モビールを眺めながらトーク

「エクササイズの速書きでバーっと文字を書いた時、自分からこんな文字のかたちがでてくるのか、と思いました。
自分の中から自然と出てくるものも大事だけど、本来の自分とは異なるものが引き出されてくるのも意味があること。
それは舞台でもそう。普段はコントの台本などを書いているので、『福島を上演する』で戯曲を書いたことはとても刺激になりました」と語る神谷氏。

WSでは「本」の文字のモビールを作成した田中氏。
「『福島を上演する』の中では一人で何役も演じなくてはならないので、今までの自分のスタイルだけでは通用しないことがあります。
今回のWSのように素材や手法を持ちかえて演じることで、俳優として、新しい自分の持ち味をお客さんに発見してもらえた時は楽しい。自分の素材を増やしていく、という点は共通していると思います」と語られました。

大原氏は「他者に自分でも気づかなかった自分を発見してもらう、というのは大切なこと。 今回エクササイズの途中、人が書いた文字を宙でなぞってみてくださいと言いましたが、他者の呼吸を感じる、自分とは違うリズムを一度からだの中にいれてみる、ということが重要です。
モビールを制作するには、空間的な制約がかかってきます。環境条件が作用し、重力と戦わなければなりません。
デザインすることというのは、ある提示された条件に摺り合わして作られていくことのように思われがちですが、どう対象にアプローチするか、というのが土台にあります」 と話し、三者より演じることと、デザインをすることの共通点が語られました。


マレビトの会『福島を上演する』は10月25日(木)、26日(金)、27日(土)、28日(日)に東京芸術劇場シアターイーストにて上演されます。 今回使用された「いわき総合図書館にて」の戯曲は、4日目に上演されるとのこと。戯曲構成はフェスティバル/トーキョー18ウェブサイトよりご覧いただけます。戯曲はマレビトの会ウェブサイトにて公開されています。

F/Tの岡崎由実子氏が「みなさんは演技をしないかもしれないけれど、読んだり、文字を書いたり、みなさん自身の味わいかたでこれからも戯曲を楽しんでほしい」と締めくくり、WSは終了となりました。

(レポート:伊東友子

※会場写真はフェスティバル/トーキョーよりご提供いただきました
(photo: Masanobu Nishino)

2018年9月28日

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type.center編集部

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