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「和語表記による和様刊本の源流」開催記念講演レポート

イベントレポート

「和語表記による和様刊本の源流」開催記念講演レポート

現在武蔵野美術大学美術館で開催中の展覧会「和語表記による和様刊本の源流」。 展覧会初日の11月1日(木)には開催記念講演会が開催されました。その模様をレポートします。

「和語表記による和様刊本の源流」

 この展覧会は、新島実氏(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授)をプロジェクト長として、文部科学省より「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の採択を受け、武蔵野美術大学造形研究センターが行なう「日本近世における文字印刷文化の総合的研究」の成果の公開のため開催されました。

各所から集められた近世日本の古活字版と木版製版により作られた刊本の資料、 また古活字版の復元などをはじめとする研究プロジェクトの取り組みを、文字や製本などの様々な側面から眺めることができます。

1:嵯峨本謡本の美を探る−古活字版『三井寺』の復元プロジェクト

2:浄土真宗の版本−柳宗悦により見出された書物の美

3:古活字版・木版整版の美−近世和様刊本の造本美

4:古文眞寶−明朝体をはじめとする漢字の字形の変遷をたどる


 開催記念講演会は、美術館ホールにて行なわれました。 司会は本庄美千代氏(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科講師、造形研究センター客員研究員)。

「江戸の出版」開催記念特別対談

ロバート キャンベル氏×神作研一氏

 最初のプログラムは、国文学研究資料館 館長のロバート キャンベル氏と、同教授神作研一氏による「江戸の出版」開催記念特別対談。 展覧会には、国文学研究資料館から多くの資料が貸し出しされているとのことです。

講演会が行なわれた11月1日は偶然にも「古典の日」。 「古典こそ人間学」であると折々に主張されるというキャンベル氏。日本の書物の特徴として、書籍の物質としての形態とコンテンツとの結びつきが密接であることを挙げられました。

ロバート キャンベル氏(左)と神作研一氏(右)
スライドは『解体新書』(1774刊)と『塵劫記』(1634刊)

 神作氏は今回出品されている数学(和算)の本『塵劫記』吉田光由著(1634年)や、 言わずと知れた医学書『解体新書』前野良沢・杉田玄白ほか訳(1774年)などを例に挙げ、「古典というと文学の領域のものと思われがちだけど、文学だけではないさまざまな領域のものがある」と語ります。

「日本では18世紀以降、印刷技術や技法の発展により、視覚的な要素が比重を持つようになった。欧米の書物は文字は文字、絵は絵と別々に組まれるが、日本の木版では一面の中で隔てなく処理することができる」とキャンベル氏。

挿絵は同じで、本文の組みが数種類存在する『錦百人一首あづま織』。
複数のバージョンが存在するのも、木版の特徴とのこと

 話題が変体仮名、くずし字に及んだ時には、凸版印刷が開発した「新方式OCR技術」などが紹介されました。 「古典籍には、活字になっていない、現在とちがう表記のまま残されているものが多くある。それらの文化資源に分け入っていくためにまず判読しなければならない。 まずひらがなを読めるように目をならす意味で、こういった技術の利用は一般の人や、学生が変体仮名を学ぶのにとても有効」と話されました。

 お二人にとって今回の展覧会はどういったものだったかも語られました。 キャンベル氏は「文字の意匠としての美しさにふれる、いつもの我々とちがう観点から勉強することができて刺激になった」、神作氏は「謡本をガラスケースの中にそろえて見せる、国文学の分野の人間からすると意表をつかれた展示でした。嵯峨本のなんたるかを伝えられる展覧会」と述べられました。

 国文学研究資料館では現在「祈りと救いの中世」という展示が行われ、 国宝「称名字聖教」や重要文化財「往生要集」などが出展されているとのこと。 古典籍や絵画資料にふれられる展示の紹介で、お二人による対談は締めくくられました。


「和語表記による和様刊本の源流」

新島実氏

 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授、造形研究センター研究プロジェクト長、展覧会監修の新島実氏により、展覧会・プロジェクトの経緯について等が語られました。

今回の研究プロジェクトのきっかけとして、ご自身の監修された展示 「近現代のブックデザイン考 I」(2012)「タイポグラフィ 2つの潮流」(2016) を挙げ、木版印刷による日本の美しい本がどのような経緯で完成されていったのかを探ることが発端であると話されます。

 骨董市でご自身が購入した短冊を紹介、 「絵の上に文字をのせるという美意識をもっているのは日本人だけ。 この美意識をどうやって木版に置き換えているのか」ということから、出品されている刊本の紹介へと移ります。

新島氏が骨董市で購入した短冊。書き手は不明


「和様刊本とは、本文に匡郭および行間に界線を用いない版面を持ち、和語による漢字平仮名混じり文 漢字片仮名混じり文で表記されている刊本のことを言う」。

『三帖色紙和讃』(1553刊)(城端別院善徳寺所蔵)

 『三帖色紙和讃』は、仏の教えを幅広い人々へ説く、人のために使われる本。 この本の元になったものは、グーテンベルグのバイブルと同じ頃に作られたそう。 本文の周りの装飾が美しく、プロジェクトではこの本の復元も進められているとのこと。

『古文眞寶 後集』(1823刊)

 『古文眞寶』は、「ボドニ(Bodoni)体」のように横線が細く、文字を書く人間の手の痕跡のないモダン的な書体が特徴です。

「楷書で文字を版に彫っていくのはとても難しい。 これは推察ですが、(古文眞寶のような)こういった形式であれば、横画だけ彫る人間、縦画だけ彫る人間、とそれぞれ分業することができるのではないか。 誰が作ってもある程度クオリティを保つことができるのが明朝体であり、 日本人が明朝体を選んで制作し使用してきたのには、文字の美しさからではなく合理性からの理由かもしれない」と新島氏。

(スライド左)伝嵯峨本『源氏物語』(慶長期刊)

 漢字片仮名混じり文で表記されている刊本として挙げられた『源氏物語』。比較対象として挙げられたのはコブデン=サンダーソンの聖書で、こちらはホワイトリバー(単語間のスペースが数行に連なることで白い川のような空白になってしまうこと)のない美しい組版。源氏物語もまた「活字の分かれ目がまったく視認できない」、高水準の本文組版と紹介されました。

『文明版 三帖和讃のうち浄土和讃』(龍谷大学図書館蔵)

 漢字片仮名混じり文で表記されている刊本の紹介として挙げられたのは『浄土和讃』。こちらは薄暗いお堂の中、置かれて読む本であり、 間違えて読んではいけないお経が書かれているため、小さい本の大きさに対して文字が大きいとのことです。

「親鸞聖人への尊敬の念を込めて、一丁めはつかいません。最初の一行目、一字上がっている行は僧侶が読むところ。残りの三行はみんなで読むところ。漢字の右側にルビがふってあり、左に索引(リファレンス)があり、句点がはいってくる箇所が空白になっており、デザインの視点からみて、誰もが読める本がこの時点で完成している」と解説されました。

 講演の締めくくりとして、 「文字は正方形のなかでデザインするものと思っていたわれわれの考えを、もう一度見直してもいいのではないか。 活字の時代、金属、写植の時代には制約があってできなかったことも、新しいデジタルの技術のなかで実現できることもある。古格、力を持っている字のかたちをもう一度われわれが使えるようになるのではないか」と話されました。


 この日は講演会のあとに図書館一階大階段にて、同展覧会の開催記念能楽公演(能「船弁慶、居囃子「三井寺」)が行なわれ、翌日以降も木版の彫り・摺り・綴じの実演などや、多数の講演を含む関連イベントが開催されました。

 11月末には図録が完成予定とのこと。こちらも要チェックです。

(レポート:伊東友子)


「和語表記による和様刊本の源流」は引き続き、12月18日(火)まで武蔵野美術大学美術館にて開催しています。

和語表記による和様刊本の源流

  • 会期:2018年11月1日(木) ― 12月18日(火)

    • [日祝休館]
    • 10:00 ~ 18:00
    • ※土曜日は17:00閉館
  • 会場:武蔵野美術大学美術館 展示室3

2018年11月26日

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