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『今月のもじうご』を振り返る〈後編〉

今月のもじうご

『今月のもじうご』を振り返る〈後編〉

連載『今月のもじうご』の振り返り。前編中編に続き、後編では2018年4月から7月までの4ヶ月を振り返ります。


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もともとこの1年前くらいにもちもちした『桜』を作っていて、今回は平仮名にしてもうちょっと軽やかな感じにしてみようって。

もちもちの方の『桜』も気に入ってるんだよな~。もちで書いた風なんです。こっちの『さくら』は軽やかなイメージで気楽に描けました。こういうサンリオのキャラクターいない?

あれだよ、『たあ坊』

それだ! ポカーンてした感じ。

わかるわかる。短いパーツでぴっぴっぴみたいなね。これもちょっと顔っぽいな。「ら」めっちゃ『たあ坊』だね。目と困った口みたいな。

『たあ坊』っぽく字を描けますってところをサンリオさんにお伝えしたいです(笑)。

『たあ坊』けっこうセリフあるしね、よく喋ってるよね。割と私ら世代のキャラクターな気がする。たあ坊タイプフェイス。

「たあぼフェイス」だ。

……(笑)。

これはパーティクルを散らしましたね。

いっぱい散らしてみようってことだったよね。だから文字も筆画が短くて単純な感じにしました。

読めても読めなくてもいいみたいな感じで。花びら具合をいろいろやりました。完全な球体だと花びらっぽさが出ないからちょっと薄い楕円くらいにしてくるくるくるっと。奥行き表現とかをしたいけど、あんまりっがっつりやると色数が増えて重くなってしまうので、花びらの色を何色かにして奥行きがあるっぽくしました。『さくら』割と気に入ってます。桜は好きだし、たくさん散らすと楽しいねみたいな気持ちになるし。あと、割と簡単だし、使える系。

簡単でかわいい。

「もじうご」はかわいくやりたいという気持ちがけっこうある気がします。

かわいいのいいよね、描く時に機嫌良くやれるから。かわいいものを思い浮かべるじゃん。

『たあ坊』とかね。

上の半円は何ですか?

た……太陽です。

モロにその物が出てきちゃうんだ(笑)。そっからぽかぽかが出てくる。

このレベルだと「ぽかぽか」じゃないでしょうね。めちゃくちゃ灼熱ですね。

まあ、地球に届く頃には……。この頃、急に『ハミングがきこえる』にハマって、『ちびまる子ちゃん』のオープニング曲なんですけど、そのアニメーションがめっちゃかわいいんです。それで他の『ちびまる子ちゃん』のオープニングやエンディングの映像をいろいろ見ていたら、太陽がさんさんとする動きがよくあって、こういう陽気な感じかな〜って思いながら描きました。

いいよねえ、あの曲。『パンダコパンダ』とか『たあ坊』とか『ちびまる子ちゃん』とか、けっこう懐かしい系から引っ張ってきがちだね。『パンダコパンダ』はすごく参考になるからな、全編通して。元気も出るし。ジブリはすごい。ジブリは本当にすごい。

見たものに影響を受けて人は育つんだよ(笑)。そして大人になってからDVDを買ってしまったりする。私は『パンダコパンダ』を買ってしまったし。7月に『崖の上のポニョ』の話もしたね。

そういうのが共有できると割とやりやすい。文字を動かしてるものを参考にしてることはほとんど無いですね。

お互いが別々の分野をしっかり担当してるから、文字の知識で「あの書体みたいに」とか言っても伝わらないし、「あのエフェクトで」とか言われてもピンと来ないから、共通の知っているものを挙げていくことになるのかも。それくらいにしないと両方のところに一致しないというか、あんまり字に寄りすぎたり、動きに寄りすぎたりすると、もう一方に持ち込むのが難しくなる。

そうそう。自然現象とか、アニメとか、キャラクターとかね。「あの時見た、あれ」ってくらいのふわっとした感じの方がいいのかも。

動かすための文字

「ぽか」の形は1個だけなの? 「ぽか」アニメを作って、それをあちこちに?

そうです。同じのがぽかぽかぽか……ってどんどん出てくるつもりで。

動きも1個しか作ってないです。

これは全体としてはほんわかしたイメージだけど、筆画ごとに分かれていて、交差部はキリッとしています。3月の『はるかぜ』で話した内側のラウンドは動かしづらいという学びからだけど、結果的に見た目もこの方が覇気がある感じになって良かった気がする。

「もじうご」では筆画がバラバラに動くこともあるので、重なる部分も形を作る

筆画ごとに分けてもらったことによって、1パーツごとの動きを作ることが可能になりました。そうしてもらうと世界が平和になります。世の中にある文字を動かすものはフォントをアウトライン化したものから動かしてるから、各パーツごとで動かすというのがなかなか難しいと思います。パーツ分けのためにもっかいトレースしなきゃいけないので。

フォントだと袋文字になってしまっているけど、作字する時は筆画に分かれた状態で作っていく方が多いかな。どこの会社も筆画で分けたデータは持っているだろうから、このフォントを筆画で分けて欲しいんですって言われたら出せそう。

会社的にはあんまり出したがらないのかな? 「うちのレシピです」みたいな。

分け方にそんなすごい秘密が隠されていることは無いんじゃないかな〜。筆画で分けたものを袋文字にした後にいろいろ調整するし、フォントデータと完全一致にはできないけど……。あと、視覚調整とかもするから、筆画の交差部分は滑らかな線になっていなかったりするし。その辺をきれいにする作業は必要になりますね。どういうデータで渡すのかとか、悩みどころもあるだろうけど、新書体を作るよりはずっと簡単だし、要望が無いから作ったことが無いだけでは?

すごいたくさん需要があるかっていうとちょっと微妙だけど、ある人にはあると思います。モーションロゴとかを作る時も、パーツを切り分けたりするのが進んだ気もしない割に、大事な作業だったりもするので。時間もそれなりにかかりますし…。

IllustratorでCommand+Shift+Oを1回やるとアウトライン化するじゃん? もう1回やるとそれがパーツに分かれるといいよね。

めっちゃいい!

映像でテキスト動かすのをたくさんやる会社の専用フォントとか? 游ゴシック体を筆画で分けて欲しいって言ってお金さえ払ってくれれば……(笑)。

あとアンカーポイントの数で動きがけっこう変わったりすることもあります。適当にアンカーポイント作って動かすと、動かし方によってはぐちゃぐちゃになることもあったり。フォントをアウトライン化するとけっこう増えるよね? そのまま動かすと、あれっこれちょっとどうにもうまくいかないな、みたいな感じになるから、自分で減らしてちょっと直す。

フォントだと、極点が必要になるとかデータの都合もあるし、それを自動でアウトライン化したものだとポイントは多いかもね。普段からなるべく少なく作るようにはしているけど、「もじうご」の時はフォント化を前提としたルールは関係無いって気づいてから、より少なくできるようになりました。後から筆画に分けるのはいろいろ大変だと思います。2人で制作を始めた頃に話していた、動画ではなぜ文字が平面的に動くのか問題はそれだよね。

筆画で分けようとすると時間かかるし、それだったら一括でエフェクトかけちゃえばって。映像ソフトでテキストのエフェクトが既にあって、一番手っ取り早いのはそれなので。ちょっと工夫しようとするとどうしても時間がかかってしまう。

しかし君たちはそれをやろうとしているし、実際やってるわけですね。

やっております!

絶賛やっておりますね。映像作る人はそもそも筆画で分かれている文字を使うのがなかなか選択肢として無いので、「こういう造りのやつが欲しいんだけど……」って簡単に言えるのは大きい気がします。

4月に見に行ったTDC展で、「動きそう!」って思うグラフィックがいろいろあって。TDC賞の『Rendez-vous des créateurs 2017』とか。2人別々に行ったんですけど、お互いこの作品のことは記憶に残ってて。雨の季節だし、波紋みたいな動きをしてみようかということになりました。

動きっぽいグラフィックを本当に動かしてみようみたいな。けっこう動きっぽいグラフィックってよく見るので。

3Dソフトで球状化ってやつがあるので、それで1文字ずつぐぐぐぐぐ……ってやって動かしました。色が3色重ねてあって時間差になっているはず。

陽炎みたいな感じだ。『ぽかぽか』とかは「ぽかぽか」感があったりするわけじゃん。これだけめっちゃゴシックなのはどうして?

この動きが前提だったから、字が直線的な方が差が出るかなって。『ぽかぽか』は動きに合わせて形が出るっていう感じで、形と動きが一緒にあるけど、これは動かした時に形が維持されないので、素材みたいなものを作った方がいいかなっていう考えで、アクセントも無し!直線!ゴシック!ということになりました。

確かに。そういう意味ではこれだけちょっと違うかも。既に文字があるところから動かす、みたいな。他のやつは動いて出てくる形だけど。

そうそう、僕がなんとなく違和感を感じたのはそういうところだったのかも。

確かに!

これが最後ですね。一番最後だし、楽しげな感じがいいねって。

6月も水だったけど違う感じの水。『崖の上のポニョ』の話どこでしたんだっけ?

……あっ! 『にじいろの魚』だ。

そうだ! 『紫陽花』とは違って、もっと明るい感じにしようって、『にじいろの魚』の話をして。ポニョの序盤とかもカラフルで良かったよね、みたいな。

ポニョみたいにたくさん出てくる感じがいいんじゃないとかね。

それで色を重ねてカラフルにしようということで、この時は蛍光ペンで何色かの文字がちょっと透けつつ重なるように書いてみながら考えていきました。骨格を決めて、蛍光ペンでいくつかなぞり書きしたのから1つ選んで、それを元にIllustrator上で少し太くしたり、先端の形状を解釈し直したりして。レイヤーに分けられた方が色の重なりとか、それぞれのパーツが別々に動くのを想像しやすいから、早めにIllustrator上での作業に移行しました。

元は1個なの?

そうです。1個できたのを別のレイヤーでちょっとずらして、ずらしたのを変形して作ってます。蛍光ペンでスケッチをしていて、重なるパーツが全く違う形だとレイヤーが増えるほど汚くなって、少し似ててちょっと違うくらいの方が重ねた時にきれいという発見があったので。

レイヤー1とレイヤー2

ビートルズのレコードとか?

右チャンネルと左チャンネルでこっちがジョンでこっちがポールみたいな。でも同じ歌を歌ってて。ハモってたり音のタイミングの微妙なズレが左右でよく分かりつつもひとつの曲にまとまってるっていう。

あっ、そういう感じです! そういうことにしよう! ビートルズ方式を採用しました(笑)。

魚はあんまり具体的にしないようにしようっていう、いい感じの抽象具合にしようという気持ちがありました。

ちょうどいい塩梅だな〜って思った。いい魚なんだろうな〜って、群れで暮らしてるんだろうな〜って。

どちらかというとね〜。


そんな感じで一年やりましたと。

そうね、振り返り終わりました。そういえば言葉を考えるのが割と悩みだったね。

そうだね、なるべく被らないようにとか。「この前のと似てない?」ってなったりね。

毎回、花と風が浮かびやすくて。あと、食べ物になるともちもちしてきちゃう。好きな食べ物が似てるじゃん? あんまり固いものは出てこない(笑)。

そうだね。だいたいもちもちしてるね。せんべいとか好きだけど、動かしたいかっていうと……なかなか動かし甲斐が無いので……。

『夜は』の時は文字と動きがだいたい決まってきた後に2人でテキストを構成して、『今月のもじうご』も文字や動きと一緒に言葉を考えていたけど、先に言葉があってそれに反応してっていうのもやってみたいな。

そうだね〜。

「もじうご」は手軽な感じで色々やりたくて始めたよね。『夜は』では同じ文字と動きをたくさん作って、だけどもっと他のパターンもあるだろうから制作を続けて、連載を1年して。いろんな字を描いたし、作り方も普段の書体の作り方に捕らわれないで、その時々で変えて。そういうことをやれる機会ってなかなか無いよね。書体を作る時は序盤に決まったデザインに合わせて文字を増やしていく時間が多いし。

それはすごいある。仕事だとけっこう最終の形態を決めてそこに向かって走っていくことが多いし、少人数で自主制作だからこそって感じ。こういうのもありかなみたいなのをとりあえずやってみるみたいな。そういう意味ではすごい短期的にやるのは良かった気がします。

勝手にやってるから楽しくやらないと。気に入ったやつをやりたいよね。「いいのできそう!」みたいな。

「これだったらテンションを上げてできるかな?」みたいなのを探すのがめっちゃ大事かも。あと、『夜は』の時は誰にも言わずにひっそりと制作してて、途中経過を誰にも見てもらってなかったから、もう少しみんなの反応が見えるようにしたいというのもあった。

『夜は』の時、不安だったね(笑)。

反応ありました?

たくさんではないけど、直接会った時に「見てます」ってこそっと言ってもらったり。もっと大きい声で言って欲しいけど(笑)。

『もじモノ ナイトマーケット』っていうイベントで「もじうご」の話をした時にやってみようかなって言っている人がたくさんいました。意外と関心は高いのかな。

『夜は』で精度を突き詰めるみたいなのをやって、もっと他の動きを試してみたいという連載期を経て、今はいろんなやり方が溜まった状態だと思います。溜めたものの精度を上げてみたい欲が再び湧いて、ちょっと長いのをやりたい気持ちが出てきているよね。

ツールと作業の進め方が慣れてきたところもあり、『夜は』より一段階上のやつができるかもみたいなね。

最初の頃は動きのしくみが分かってなかったけど、だんだん、動かしやすさとかも想像できるようになってきたし、引き続き新しい文字の形や動きを試して、どんどん取り入れていきたいです!

いろいろ試しつつ、がんばっていきたいですね!!!

いいんじゃないでしょうか!!!


ということで『今月のもじうご』1年の振り返りでした。引き続き「文字」担当の宇野と「動き」担当の藤田でがんばります。ご期待ください!!!

2018年12月21日

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映像作品『夜は』で東京TDC賞2017 RGB賞を受賞した宇野由希子と藤田すずかによる、実験的な共同作業を続け、2017年8月よりお届けしてきた『今月のもじうご』。1年を終え、新たな「もじうご」の制作に入る前に、この1年を大日本タイポ組合塚田哲也さんをまじえて振り返ります。