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12月のもじうご報告

今月のもじうご

12月のもじうご報告

2017年8月から1年間、月1回の連載『今月のもじうご』をお届けした、宇野由希子と藤田すずかによる新作制作の定期報告、最終回です。
無事完成し、type.center 企画展「文字の未来・未来の文字」に出品した「暗い台所 青い発酵」はどんな作品になったのかお話ししていきたいと思います。


宇野(もじ担当):さて、前回の8月のもじうご報告の時点では、果たして完成するだろうか……と不安でいっぱいでしたが、完成しましたね!

藤田(うご担当):しましたね〜。今回ばかりは本当に間に合わないかもと思ってましたが、なんとかかんとか、無事完成しました。

AtypIでたくさんの方にご覧いただけたし、直接「よかったよ〜」って話しかけてくれた方もいてうれしかったな。
タイトル「暗い台所 青い発酵」は文章と合わせて大竹さんに名付けてもらいました。物語のタイトルでもあり、暗い宇宙空間で文字が作られるという映像の構成の意味も含んでいて、すてきなタイトルをいただきました。

ちょうど動きをつけている時期に決まりましたね。タイトルが決まると軸足が定まるというか進むべき方向がはっきりする感じがして、よかったです。あとタイトルを文章を書いてる人につけてもらえるというのはとても良いですね。
では、作品をパートごとに振り返っていきますか〜。


はじまりは「素」

無の空間から「素」が浮かび上がってきます。素粒子の「素」、宇宙の始まりです。
動きも粒子が揺らぎながら形になっていく感じですね。

はじまりはそれ以降の動きともちょっと動きを変えて、粒から「素」という文字を有機的に形づくっていく様子をゆったりと見せました。

最初の1文字というのもあるけれど、文章を読んで「文字も粒子の集まり」で「不確かで揺らいでいる、揺らいでしまう」という考えから発展させて制作をしていったので、この「素」の意味がすごく重要だなと思っていました。作字をする時も、動きや形の歪みをチェックする時も、他の文字より少しだけ緊張感があった気がします。

素粒子からの世界の始まりとか、文字を書き始める時の最初の筆をトンと置く感じとか、文字の成り立ちの始まりとか、いろんな始まりを含めてのこれって感じですね。スー、トン、ブワワ〜と広がってく、って感じですね。

宇宙から地球へ

「素」から始まり、膨らんで宇宙ができ、宇宙から太陽系、地球、日本、都市、住宅と徐々にクローズアップしていきます。動きもいろいろついていきますね。

いくつかの動きでは、動きに合わせたそれぞれの形を用意しました。
既に作った基本の文字の形に対して、部分を抽出したり抽象化したりするので、そのルールを決めれば形は決まってくるんだけれど、ルールを決めるのが悩ましかったな。どの部分をどのように抽出するのかとか……。
暗号とか新しい言語を作ってるみたいな気持ちになりました。作っている間にこんがらがってきて、決めたはずのルールを見失ったりして……。
日本語の文字の形ってめちゃくちゃいろんな要素を含んでるんだな〜って改めて思いました。

ですねえ。同じ文字から抽出しているはずなのに、抽出するルールによっていろんな形や印象が生まれるんだなと思いました。それが地図や星のようにも見えて、視点の広がりが感じられてよかったですね。

動きも要素ごとにつけ方が違うの?

それぞれ違いますね。この形の時はどんな動きが自然なんだろうと、形をもらってから色々試しました。それぞれの動きと動きの重なり方も、どうすればそれぞれの動きを引き立てあって見せられるだろうとかタイミングも試行錯誤しました。

激しく揺らぐ

視点はさらにクローズアップしてキッチンにたどり着きます。 字数も多くて、盛り上がるところですね。音楽の強く響く感じもかっこいいです。

ここは盛り上がりどころなので、より強い形を使いながら密度を感じさせるように動きをつけていきました。

面の要素と線の要素、点の要素がいっきに重なって見えてくると迫力があるよね。それぞれの要素が同じ文字を表しているので、ひとつの文字がせわしなく形を変えているというか、激しく揺らいでいる感じですね。

ゆったり柔らかく

宇宙から始まった物語がキッチンまでやってきて、環境や展開が身近になり、文章も徐々に柔らかくなっていきます。 合わせて、文字の形もちょっとずつ柔らかくしていきました。形の変化のことは5月の報告で詳しく話してましたね。

組版の字数はだんだん少なくなっていきます。 ここからはまたゆったりと文字そのものの形の揺らぎをじっくりと見せるターンですね。

パン

そしておしまい。パンです。

ルビの動きかわいいよね。作字している時には一文字ずつ正方形の中に描いていて、ルビどうしよう?隣のマスを4等分して左側2マスに描く?とか当然のように横に入れようとしていたけれど、「もじうご」ではこういう出し方もできるんだよね。「もじうご」ならではのルビだ。

んですねえ。単純に横に入れるよりも、時間経過によって変形していくと文字と文字とのひも付きがより感じられていいですよね。これの読み方ってパンなんだ、じゃなくてこの文字そのものがパンなんだ。みたいなね。
パン。いいですね。おいしいしね。パンは。

おいしいねパン。パン好き。食べたくなってきた。


さて、いろいろと話していきましたが、作っていた時のことはなんだかもう遠い昔のことみたいですね。作り始めたのは去年の今頃だったような……。

もう完成してしまった今となってはいろんな記憶がおぼろげですね。ここまでの長編を作れたのは、世界観をガンガン広げてくれた文章の大竹さんと音楽の神田さんが参加してくれたおかげな部分がとても大きいと思います。「もじ」と「うご」の二人で制作している期間がそこそこ長くなってきていたので、もう少し他の分野の人の力も貸していただきながら作ってみたいと思ってお声がけさせていただきましたが、想像していた以上にいろんな気づきをさせてもらいとてもよかったです。

そうですね。文章に導かれて新しいテーマに取り組めたし、曲を聴くことでイメージも明確になっていったよね。 試作のころから長い期間お付き合いいただき大感謝ですね……!

動き自体も今までやったことのない手法をたくさん試して形にできたので、この作品をきっかけにもっと色々挑戦していけると思います。

長編だけあって字数も多くてひやひやだったけど、おかげで作れそうって思う文字数もぐんと増えましたね……。少し心が強くなりました。

前回、「夜は」を制作したあともそれをきっかけに色んな方にお声がけいただけたので、今回の作品もそんな感じになるといいですね。あと、他の分野の人と一緒に制作するのは新しい気づきがあってとてもよいので、そういう機会も増やしていきたいです。

いろんな文字を作ったり動かしたり、新しい人と新しいことをしたり、したいですね、ぜひ!!


2月に始まった『もじうご報告』、作品は無事完成し、連載も最終回を迎えることができました。「暗い台所 青い発酵」はまたどこかで上映できたらいいですね……!
ご愛読ありがとうございました!!

2019年12月2日

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『今月のもじうご』を振り返る〈前編〉
『今月のもじうご』を振り返る〈前編〉
映像作品『夜は』で東京TDC賞2017 RGB賞を受賞した宇野由希子と藤田すずかによる、実験的な共同作業を続け、2017年8月よりお届けしてきた『今月のもじうご』。1年を終え、新たな「もじうご」の制作に入る前に、この1年を大日本タイポ組合塚田哲也さんをまじえて振り返ります。