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伊東友子+時里 充「めくる映像シリーズ」

文字の未来・未来の文字

伊東友子+時里 充「めくる映像シリーズ」

「ATypI 2019 Tokyo」で行われたtype.center 企画展「文字の未来・未来の文字」。このコーナーでは、改めて展示作品を作家みずから語ります。伊東友子さん+時里充さんの「めくる映像シリーズ」は、文章、本、映像の関係性を考察する実験的な映像です。


「めくる映像シリーズ」

伊東友子+時里 充

 「めくる映像_特集」は2018年にメディア・アートの分野を軸に映像やインスタレーションなどを制作している時里充と、文字に関する制作を行ない、type.center編集部でもある伊東友子とで行なった展覧会です。

現在は池袋に移転した「コ本や」で展示をしないかというお話をもらったのをきっかけに、時里が以前から着想のあった「本をめくる映像を第三者の視点から眺める」映像を制作しました。

「めくる映像シリーズ」(左から実験01・実験02・実験03)

 「文字の未来・未来の文字」では実験01から03の三つの映像を上映していました。

シリーズの作品はどれも本、それに書かれたテキスト、本をめくる手が登場しますが、それぞれの映像の中ではいくつかのことを試みています。

たとえば日本語の曖昧性を抽出して複数のレイヤーにいる鑑賞者へメッセージをなげかけてみたり、メディアの形状が当然に持っている時間の進行軸をバラバラにして再構築したり……。

それぞれが、言葉の実験であったり、メディアとして本や映像が持つ性質の実験であったりという要素を持っています。シリーズ内で共通しているのは、「展示されているディスプレイに映されている映像で見なければ、見ることができない本、読めない文章」を作ろうという点です。

この作品の中での言葉、そして文字は読もうとする対象でありながら、映像の時間軸や、鑑賞者との視点の共有をつなぐ役割を担います。

制作時のメモ


 展示中配布したハンドアウトにはシリーズ全体の説明を載せていたので、ここではひとつひとつの映像について紹介したいと思います。

実験01(ひたすらに本をめくる実験)

実験01(コ本やでの展示風景 撮影: 山本渉)

 実験01 の中では一冊の本が淡々とめくられていきます。本に書かれている文章は、ページを めくる際の指示でもあり、時には、ページをめくった動作を書き起こしたものでもあります。 または、これから起きるかもしれないできごとに対するトリガーとも言えます。 この映像には複数の立場からの視点が介入します。本の作者、本をめくるパフォーマー、映 像の撮影・編集者、映像を見る鑑賞者。本に書かれるテキストの主体は、それらをシームレスに経由していきます。 そこに存在するゆらぎはそもそも言葉が保有している特徴であり、文章を読む際、無意識に 読み取り、判別して処理しているものです。

実験01における「ページをめくる」という動作は、それを切り取り浮かび上がらせ、ページをめくる手は誰のものなのか? 書かれる言葉は誰のものなのか? という疑問をなげかけ、鑑賞者の視点を揺さぶります。

実験02(じわじわと本をめくる実験)

実験02(コ本やでの展示風景 撮影: 山本渉)

 人が本を読む時、読者は書かれた文字の流れを一直線に前進していきますが、たとえば一つの物語に夢中で入り込んでいる時、本の周囲や中にひろがる空間を感じることがあります。行間のあいだ。本のむこう。ページのあいだ。しかし一冊の紙の本の中においてページの単位というのは、強い拘束力を持つルールです。ページのサイズ、枚数、裏表。すべての単位は規則的です。

実験02では、一定のページのめくり方をすることで文章が生成されます。めくり方を知らないと、つまり誰かがめくっているのを俯瞰している映像でなければ、この本に書かれる文章のすべては読めないのです。文章は文字の行、ページの進行とは同じに進みませんが、ページをめくらないことには文章は生まれません。

実験02における「ページをめくる」動作は、「読む」という行為のために行われるのではなく、文章を「書く」「つくりだす」「選択する」という行為に近いといえます。めくり方の行為それ自体が、言葉と同列に作用します。

実験03(折り返しの実験)

実験03(コ本やでの展示風景 撮影: 山本渉)

 前半の右側のページにはめくる手が行なった動作が、後半の左側ページにはめくる手に対する動作の指示が記されています。右側から左側に移動する時、何が起こっているでしょうか。横書き(右綴じ)から縦書き(左綴じ)に折り返しているように見える映像は、実際にはそうではないのです。めくる手とページの動きに不自然な点を感じたら、それが手掛かりです。右半分と左半分にトリミングされたのは画面だけではなく、それぞれの画面の時間軸もまた、折り返しているのです。


 このシリーズは、コ本やでの展覧会以降、いくつかの場所で展示をしてきました。

TDC 2019(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)
(左の壁にかかっているディスプレイが「めくる映像_特集」のアーカイブ映像)

GEIDAI BIBLIOSCAPE 2019 「オブジェとしての本」展

 そしてAtypIの会場内と、それぞれ雰囲気の違う中にディスプレイを置くことで、作品をとりまく空間やテキストの印象が変化するように思えました。

いつかは映画館のような場所で上映会のようなことにも挑戦してみたいですし、これからはめくる映像シリーズは展開していけたらと思っています。


「文字の未来・未来の文字」(会期終了)

Beyond Type - Exploring the Type in the Future

  • 出展作家(50音順)

    • 伊東友子+時里充 ―「めくる映像シリーズ」
    • 宇野由希子+藤田すずか ―「暗い台所 青い発酵」
    • 勝本雄一朗 ―「Robotype」
    • 河村真奈 ―「フリック書道」
    • 大日本印刷 秀英体開発グループ ―「DNP感情表現フォントシステム」
    • 大日本タイポ組合 ∩ 古堅まさひこ ―「帰ってきた『字作字演』」
  • 会場

    • 日本科学未来館 7階
  • 会期・開催時間

    • 2019年9月4日(水)〜7日(土)
    • 9:00–18:00
  • 観覧方法と料金

  • 主催

    • ATypI
2019年12月6日

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人物プロフィール

伊東友子

多摩美術大学大学院美術研究科修了。文字・言葉に纏わる制作および執筆を行う。

時里 充

岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー、多摩美術大学卒業。画面やカメラに関する実験と観察を行い、作品を制作発表している。 http://tokisato.info/

文字の未来・未来の文字

type.center編集部

type.centerの編集部です。文字関連イベントをレポートしたり役立つ情報を発信できるよう努力してまいります。よろしくお願いします。

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DNP秀英体開発グループ「DNP感情表現フォントシステム」
「ATypI 2019 Tokyo」で行われたtype.center 企画展「文字の未来・未来の文字」。このコーナーでは、改めて展示作品を作家みずから語ります。DNP秀英体開発グループの「DNP感情表現フォントシステム」は、会場ではキーボード入力・音声入力で体験できました!