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「『タイポグラフィー』って、本当のところ、何?」平林奈緒美×古平正義

モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザインVol.5」

「『タイポグラフィー』って、本当のところ、何?」平林奈緒美×古平正義

2014年6月5日に開催された、第13回モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザインVol.5」(於:株式会社モリサワ本社4F大ホール)のレポート、齋藤精一氏によるセッション1「無いモノを創る、あるモノを使う」に引き続き、平林奈緒美氏×古平正義氏のセッションをお伝えする。


「『タイポグラフィー』って、本当のところ、何?」

セッション2:平林奈緒美氏×古平正義氏

古平氏はまず、「タイポグラフィー」という言葉をウィキで調べたところ、日本語版と英語版では大きな認識の違いがあると指摘。「日本では、規範に則って美しい文字組を作ることがもともとの『タイポグラフィー』の意味だが、意外にも英語版では柔らかめの表現で、『タイポグラフィーは誰にでもできる』というような広範囲の認識になっている」と説明する。

「最近、『タイポグラフィーが好きです』みたいな人が増えているが、私は『苦行』だと思っている」という古平氏に対し、「私もよく分からなくなっている。適切な書体を選んで、適切な目的できちんとしたカタチで文字を組むということが『タイポグラフィー』だと思ってやってきたけれど、文字を作ったり、文字を使って華やかなポスターを作ったりするのも『タイポグラフィー』という認識になりつつある」と平林氏。

そこでスクリーンに映し出されたのは、酷い文字組で作られた新幹線の座席にある案内図と、ある警察署のホームページ。平林氏は「これは許せない!」と怒りを露わに気になる点を指摘する。「世の中、こういうものが蔓延している。意外とデザイナーも気付いていないのではないか?」という問に対し、古平氏は「気付いているが、そこを気にし出すと生きていけなくなるから、目を瞑っているってことでは」と笑う。

そして、ドイツの空港のサインをスクリーンに映し、「こういうものがタイポグラフィーだ」と平林氏。「行間、字詰め、アキ、罫線の太さとのバランス。欧米の人は、そんな感性が身に付いているが、日本ではまだタイポグラフィーの素地ができていない。そのひとつの理由に、社会とデザインの関係性の違いがある。日本語は文字組の当たり前のルールが崩れていても誰も気にしていない。一方、海外ではクライアント側の方がタイポグラフィーを分かっていたりする。この違いをすごく感じる」と古平氏は続ける。

一方、平林氏は「私は日本語を組む時、内容を読んで自分ですべて文字詰めする。内容によって組み方は変わる。そういうように仕事をしてきた」と話し、docomoの携帯電話のパッケージやパソコンのリニューアルといった作品を紹介。とくにパソコンのアイコン類は、同じ大きさにすると線の太さや角Rがそれぞれ違い、デザインも全く違う。「私はMacでも3,600倍にして角と角のポイントを見る。実寸では気付かないかもしれないが、全部作り直した」とその仕事ぶりを垣間見せる。

古平氏も家電の文字部分の監修を例に、「デザインクオリティの高いモノを作るということを遙かに超える、違う論理からくる余計な要素が入ってきて、様々な壁が立ちはだかる」と話す。

平林氏はセコムのコントロールパネルを英語版のものにしたり、古平氏はトイレのリモコンを英語版にしていたり。文字に対するこだわりに共通する部分は多いようだ。

続いて、古平氏が自らの作品を紹介しながら「日本語は、文字の形をデザインしすぎると、そこに好き嫌いが出てしまい、伝えたいことが後回しになってしまう。既存のノーマル書体を使えば、好きも嫌いもなく、一番にメッセージが入ってくる。極力、文字自体、配列もいじらない。正しい行間、字間、ノーマルがキレイに見える」と話す。

これに平林氏も共感する。「いま、デザインが誰にでも適当にできてしまう。昔は写植を打つとか、適当にはできないからこそ、ちゃんとしていた。『文字が好きです』という若い人も増えていながら、どんどん汚いモノが増えてくる。どうしたらいいのか」 そして、外国のCIマニュアルの話へ。「これこそ技術。とてつもない時間をかけて、とてつもない検証を行い、ようやくあのマニュアルができる」と話す平林氏に「マニュアルは、ロゴを守るためのものではなく、印刷物をキレイにするためのもの。しかも外国の大企業のロゴは何千万というお金を使っている。それを、何十万かで作った貧相なロゴで真似するなと言っておきたい」と古平氏は笑う。

最後に「いま、デザインが安っぽくなっている。結局、タイポグラフィーは『文字を弄る』など、趣味的なところに走りがちだが、非常に地味ではあるが普通のことをしっかりやる方が高級で、それがプロの仕事である」と語った。


佐藤卓氏によるセッション3「感性に逃げないデザイン」は後日掲載する。

2014年10月6日

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人物プロフィール

佐藤卓

1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発から始まり、「明治おいしい牛乳」「ロッテ・キシリトールガム」「S&Bスパイス&ハーブ」などの商品デザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマーク、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「武蔵野美術大学 美術館・図書館」のロゴ、サイン及びファニチャーデザインを手掛ける。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター・「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務めるなど、多岐に渡って活動。また、大量生産品をデザインの視点で解剖する「デザインの解剖」プロジェクトが話題を呼ぶ。代表著書に『クジラは潮を吹いていた』(DNPアートコミュニケーションズ)、『JOMONESE』(美術出版社)、写真集『真穴みかん』(平凡社)

古平正義

1970年大阪生まれ。主な仕事に「アートフェア東京」「ローリングストーン日本版」「堂島ウィンターライブ」等のアートディレクション、山下智久・GLAY・INORAN(LUNA SEA)等のCD/DVDジャケットやミュージックビデオ、「ラフォーレ原宿」広告・CM 他。D&AD 銀賞、ONE SHOW 銀賞、東京ADC 賞など受賞。www.flameinc.jp

平林奈緒美

東京生まれ。武蔵野美術大学卒業後、(株)資生堂宣伝部入社。ロンドンのデザインスタジオMadeThoughtに出向後、2005年よりフリーランスのアートディレクター/グラフィックデザイナー。雑誌GINZAのアートディレクションをはじめ、アパレルブランドのビジュアルディレクション、NTT DOCOMO、HOPE(JT) 等のパッケージデザイン、(marunouchi)HOUSE のサインデザイン、DREAMS COME TRUE・宇多田ヒカル等のCDジャケットデザインなど、ジャンルを問わず活動中。

斎藤精一

1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006 年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年-2013年国内外の広告賞にて多数受賞。現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師。2013年D&AD Digital Design部門審査員。

モリサワ文字文化フォーラム「文字とデザインVol.5」

type.center編集部

type.centerの編集部です。文字関連イベントをレポートしたり役立つ情報を発信できるよう努力してまいります。よろしくお願いします。

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