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書体の生まれた軌跡をたどる―「漢字書体の変遷とその復刻」展

展覧会レヴュー

書体の生まれた軌跡をたどる―「漢字書体の変遷とその復刻」展

書体の生まれた軌跡をたどる

「漢字書体の変遷とその復刻」展

活字書体設計師・今田欣一がアドバイザーを務める活字書体の勉強会 typeKIDS groupの展覧会「moji moji Party No.9 typeKIDS Exhibition Spring 2015 漢字書体の変遷とその復刻」展が開催されている。

「漢字書体の変遷とその復刻」展DM

「漢字書体の変遷とその復刻」展DM

明朝体をはじめ、漢字書体は中国でどのように誕生し、どう変遷してきたのか。漢王朝から現代までの中国の碑文や刊本、活字本に見られる漢字書体を隷書体、行書体、楷書体、宋朝体、元朝体、明朝体、清朝体、過渡期明朝体、近代明朝体、銘石体、経典体、呉竹体・安智体と分類し、各書体誕生の背景の概略をパネルで解説。コンパクトな展示ながら、歴史の流れを簡単に追うことができる。

さらに、各分類それぞれで今田が欣喜堂として復刻に取り組む24書体について、typeKIDS groupのメンバーが原資料と欣喜堂の復刻書体を構成したポスターが展示されている。

展覧会場

今田はかつて写真植字メーカー・写研で秀英明朝、かな民友、Helveticaなどのリデザインに関わった後、今田欣一デザイン室を設立。「欣喜堂」「ほしくずや」のブランドで、デジタルタイプの開発・販売を行なっている。欣喜堂のサイトで今田は、書体の復刻についてこのように語っている。

「活字書体の源泉は書物の歴史にあります。写本の時代、刊本の時代、金属活字の時代──それぞれの時代に数えきれないほどの書物が誕生し、そこにはたくさんの文字と書体が残されています。それらをあたらしい時代の息吹によってよみがえらせ、実際に使用できるようにして、次の世代にバトンタッチすることが使命だと考えています」
「欣喜堂」サイトより)

こうしてつくられた復刻書体を、ポスターのなかで原資料と比較すると、現代に使いやすいよう、バランスなどを微調整していることがわかる。美しい。

惜しむらくは、ポスターによっては原資料や復刻書体そのものが極端に少ないものがあること。それぞれの文字組みをじっくり比較してみたかった。

また、typeKIDS groupの意欲的な取り組みとして、「初号活字をつくろう」というプロジェクトがある。「初号活字」とは、かつて活版印刷に用いられていた最大サイズ(14.76mm角)の活字だ。書体制作についてまったくの初心者であったメンバーが、かつて金属活字がつくられていた方法で活字書体制作に取り組むという体験を通して、活字書体を理解しようというプロジェクトである。制作したのは、40年前に今田がスケッチしていた書体「貘1973」だ。

本展覧会では、このプロジェクトの成果として、3Dプリンターで制作したABS樹脂製の初号活字とその印刷物、そして、制作過程の下書き、墨入れ原図などが併せて展示されている。

3Dプリンターで製作したABS樹脂製の初号活字

本来であれば、かつての金属活字の製造工程そのものを追体験したいところであったろうが、現在国内では、活字を鋳造することはできても、そのもととなる母型を新たに製造することがむずかしい。そんななかメンバーは3Dプリンターという手段を知り、活字製作に取り入れた。

印刷物を見れば、3Dプリンター製活字の精度はまだ低く、成功しているとは言いがたいことは一目瞭然だ(これは、使用する3Dプリンターや樹脂の種類にもよるだろう)。しかし樹脂製の活字で「いろはうた」を組版し、印刷する過程で、メンバーは、活字の高さがそろっていなければきれいに印刷できず、微妙に調節する「ムラ取り」という作業が必要となることを知る。微妙な高さの違いや傾きは、印刷結果に大きく跳ね返る。ならばどうしたら「いろはうた」を印刷できるのか。組版や印刷方法を工夫し、どうにか刷り上げていく過程は、もしかしたらかつての活字職人も味わったものかもしれない。

「活字を製作して自らの手で印刷する」そのプロセスを経験した者にしか得られない気づきが、そこにはあったのではないだろうか。この特別展示のコーナーは、ぜひそうしたプロセスに思いを馳せて見てほしい。


展覧会DATA

  • 開催日 :2015年3月9日(月)~14日(土)
    ※14日(土)14時〜(予定) Easy afternoon party

  • 場 所 :表参道画廊+MUSÉE F
         〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-17-3
         アーク・アトリウム B-03

  • 開催時間:正午~19時(最終日17時)
  • 入場料 :無料
  • URL :http://www.mojido.com/party/party.html

  • 構 成 :typeKIDS group

  • 企 画 :文字道 
2015年3月11日

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展覧会レヴュー

雪 朱里

ライター、編集者。1971年生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、専門誌編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事やくらしの歴史などの分野を中心に、ものづくりに携わる人々への取材執筆活動を行なっている。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、編集・執筆等を手がけた書籍に『一〇〇年目の書体づくり 「秀英体 平成の大改刻」の記録』(大日本印刷)、『活字地金彫刻師 清水金之助』、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話』(小塚昌彦著/グラフィック社)ほか多数。2011年2月より『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)のレギュラー編集者も務める。

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