文字による文字のための文字のサイト

ただ無心に刷り続けられる版木の姿「三度目の京都 ―1678 / TODAY―展」

展覧会レヴュー

ただ無心に刷り続けられる版木の姿「三度目の京都 ―1678 / TODAY―展」

ただ無心に刷り続けられる版木の姿

「三度目の京都 ―1678 / TODAY―展」

東京・学芸大学の古書店BOOK AND SONSで、7月12日から「三度目の京都 ―1678 / TODAY―展」が行なわれている。京都・宇治の黄檗山萬福寺 宝蔵院収蔵「一切経」版木を紹介する展覧会で、この版木は明朝体のルーツともいわれている。

BOOK AND SONSは春に東京・学芸大学にオープンした、タイポグラフィを中心としたグラフィックデザインの本を扱う古書店だ。

店内に入ると、手前が古書店スペース。広々とした店内に、タイポグラフィ関連書籍がずらりと並ぶ。ギャラリースペースはその奥。壁面に宝蔵院の写真が展示され、プロジェクターが一切経の版木を刷り続ける摺師の映像を映しだしていた。

6万枚の版木が置かれている宝蔵院の、圧巻の光景。
無心に版木を刷る摺師の姿。その手元。
版木をこするシャッシャッ、シャッシャッという音。
摺師の息づかい。
刷り上がった黄色い紙。
一切経の文字。

私はまだ実際に宝蔵院に行ったことがない。 摺師の仕事を淡々と映し出す映像はだからこそ、「ここに行きたい、この目で見たい」という思いを強くうながす。

宝蔵院に足を運んだことがない人、どんな場所でどんなふうに摺師が一切経を刷り続けているのか、その光景を見たい、空気に触れたいという人には、感じるもののある展覧会だろう。展覧会を通じて一切経を初めて知り、興味をもつ人もいるはずだ。

一方で、版木そのものや、そこに彫られた明朝体のルーツといわれる文字、そこから刷られた文字……文字そのものを求めて行く場合には、ものたりない展示といえる。版木実物の展示はない。文字そのものが見える写真はほとんどなく、刷られた「般若波羅蜜多心経」の実物も、見られるのはごく一部だ。

会場に置かれたチラシを通じて、展覧会を企画した「三度目の京都」によるオリジナル書体が配布されている。「オリジナル明朝体」とのことだったが、アルファベットの小文字と数字から成るこの書体は「明朝体」でなく「オリジナル書体」と告知すべきだった。しかし文字にまつわる展覧会のためにオリジナル書体を作成する姿勢は意欲的といえる。

会場では、宝蔵院の写真や一切経を紹介する文章が収められた冊子『1678/Today Exhibition』も販売されている。


展覧会DATA

  • 会期:2015年7月12日(日)〜7月20日(月祝)
  • 場所:BOOK AND SONS
        東京都目黒区鷹番2-13-3 キャトル鷹番
  • 時間:12:00〜20:00(土日祝日は10:00開場、最終日は19:00まで)
  • 料金:無料
  • レセプション:2015年7月20日(月・祝)14:00~15:00
        会場 BOOK AND SONS
2015年7月13日

シェア

展覧会レヴュー

雪 朱里

ライター、編集者。1971年生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、専門誌編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事やくらしの歴史などの分野を中心に、ものづくりに携わる人々への取材執筆活動を行なっている。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、編集・執筆等を手がけた書籍に『一〇〇年目の書体づくり 「秀英体 平成の大改刻」の記録』(大日本印刷)、『活字地金彫刻師 清水金之助』、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話』(小塚昌彦著/グラフィック社)ほか多数。2011年2月より『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)のレギュラー編集者も務める。

連載記事一覧
今日
昨日
おととい
ちかごろ
あいうえお かきくけこ さしすせそ たちつてと なにぬねの はひふへほ まみむめも やゆよ らりるれろ わゐゑを ん がぎぐげご ざじずぜぞ だぢづでど ばびぶべぼ ぱぴぷぺぽ 0123456789.
連載記事一覧
連載記事一覧
展覧会レヴュー
昭和初期の描き文字による映画ポスター「映画に魅せられた…
昭和初期の描き文字による映画ポスター「映画に魅せられた文豪・文士たち」展
昭和初期から30年代にかけて、映画に魅せられた文豪・文士たちが新聞や雑誌に寄せた映画評を、公開当時の映画ポスターやプログラムと一緒に楽しめる展覧会を、ライターの雪 朱里が文字好き視点からレヴュー。
展覧会レヴュー
心に飛び込む「描き文字」の数々「花森安治の仕事 デザイ…
心に飛び込む「描き文字」の数々「花森安治の仕事 デザインする手、編集長の眼」展
雑誌『暮しの手帖』の創刊編集長・花森安治は、編集長を務めるのみならず、企画・取材・執筆・編集・誌面デザインやカット、表紙画を自ら手がけた。その仕事をたどる展覧会が世田谷美術館で開催中。たっぷりの描き文字を堪能できる本展を、ライターの雪 朱里が文字好き視点からレヴュー。
展覧会レヴュー
稀代の“文字ハンター”が集めた世界の文字「文字の博覧会…
稀代の“文字ハンター”が集めた世界の文字「文字の博覧会 ―旅して集めた“みんぱく”中西コレクション―」展
未知なる文字への探求心から25年の間に100を超える国々を旅して3,000点近くの文字資料を収集した稀代の文字ハンターによる「中西コレクション」の展覧会がLIXILギャラリー東京で開催中。ライターの雪 朱里による、文字好き視点のレヴュー。
展覧会レヴュー
本の世界を紡ぎ上げる、組版設計のすさまじさ「祖父江慎+…
本の世界を紡ぎ上げる、組版設計のすさまじさ「祖父江慎+コズフィッシュ展 ブックデザイ」
人気ブックデザイナー祖父江慎の展覧会「祖父江慎+コズフィッシュ展 ブックデザイ」が日比谷図書文化館で2016年1月23日〜3月23日まで開催中。ライターの雪 朱里による、文字好き視点のレヴュー。