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文字が記憶の奥底に印象を静かに刻む「色部義昭:WALL」展

展覧会レヴュー

文字が記憶の奥底に印象を静かに刻む「色部義昭:WALL」展

文字が記憶の奥底に印象を静かに刻む

「色部義昭:WALL」展

文字で風景をつくる人――。

そんな言葉が脳裏に浮かんだ。ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「色部義昭:WALL」展だ。

Design by Yoshiaki Irobe

会場に入ってすぐ、1Fのフロアでは、「TOKYO PROJECT」として東京街区表示板のリデザイン提案を行なっている。どの街角にも貼られているけれど普段はあまり意識されることのない街区表示板をデザインの「最小点」ととらえ、これを変えることがやがては街の景観をも変えるかもしれないと色部は考え、タイププロジェクト 鈴木功の協力を得て、新たに開発された「東京シティフォント」を用いた新しい街区表示板を提案しているのだ。

東京シティフォントは、タイププロジェクトが開発を進めていたサインシステム用フォントをベースに、色部から「100年残る仕事として考えたい。ついては東京の街区表示板用の書体を開発してほしい」という依頼を受けて、「和欧併記を前提とした、東京の新しい街区表示板の提案」という要望に合わせて制作されたフォントだ。開発に5年、認知されるまでに10年かかるフォントを開発している鈴木にとって、色部の語る「100年」という時間はとてつもなく長いものに感じたというが、〈街角にひっそりとたたずむこの脇役を、サインシステムという位置づけで、デザインすべき対象として取り組んだ〉色部の姿勢に共感した鈴木により、開発された。

東京シティフォントの書体コンセプトは「いき」。〈現代および将来の東京を書体表現の中心におきながらも、どこかに江戸の伝統を感じさせる痕跡を残したい〉という考えから、東京と江戸に共通する気質として導き出されたコンセプトだ。

「だれも触ったことのない開発中のフォントを自分が真っ先に触っているという、感動的な体験があった」 少し声をはずませながら、ギャラリートークで語った色部の感動は、一見端正だがただならぬ熱気をはらんだ展示空間にまちがいなく反映されている。

現在の街区表示板は、1962年から施行された「住居表示に関する法律」に基づき設置されたものだという。街区表示板のリデザイン提案にあたり、色部はまず、東京各地の現在の街区表示板を徹底的に観察し、膨大な量の写真を撮影した。そうして、その書体や色、形などデザインの不ぞろいさに愛しささえ感じながらも、自らの考える新しい東京の姿を提案する。その成果は、ぜひ会場を訪れて確かめてほしい。文字が街のなかで果たす役割を考えるきっかけを与えてくれる展示だ。

川村記念美術館や市原湖畔美術館のリニューアルなどのサイン計画をはじめとするB1Fの展示を見ると、色部がこれまでの仕事でも「文字で風景をつくってきた」ということが、きっと実感できるはずだ。


2015年9月20日

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雪 朱里

ライター、編集者。1971年生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、専門誌編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事やくらしの歴史などの分野を中心に、ものづくりに携わる人々への取材執筆活動を行なっている。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、編集・執筆等を手がけた書籍に『一〇〇年目の書体づくり 「秀英体 平成の大改刻」の記録』(大日本印刷)、『活字地金彫刻師 清水金之助』、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話』(小塚昌彦著/グラフィック社)ほか多数。2011年2月より『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)のレギュラー編集者も務める。

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