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稀代の“文字ハンター”が集めた世界の文字「文字の博覧会 ―旅して集めた“みんぱく”中西コレクション―」展

展覧会レヴュー

稀代の“文字ハンター”が集めた世界の文字「文字の博覧会 ―旅して集めた“みんぱく”中西コレクション―」展

稀代の“文字ハンター”が集めた世界の文字

「文字の博覧会 ―旅して集めた“みんぱく”中西コレクション―」展

私たちはなぜ文字を使うのか。 伝えたいことが、残したいことが、だれかと共有したいことがあるからではないだろうか。 文字は、はるか距離や時間を超えた相手にも、記された内容を伝えてくれる。

京都にある中西印刷株式会社の六代目社長であった中西亮氏(1928-94)は、印刷業を営む家に生まれ、身のまわりに活字のある生活を送っていたことから、世界の文字に興味をもつようになったという。〈未知なる文字への探求心から25年の間に100を超える国々を旅して3,000点近くの文字資料を収集〉し、亡くなるまでに実に95種類の文字を集めた、世界でも稀有な「文字ハンター」であった。

「シリア文字 Syriac script」 手書きの聖書。16 世紀。シリア文字は1世紀から 9 世紀頃まで、古典シリア語を表すために使われた。 文字で、古代都市エデッサ(現在のウルファ/トルコ)を中心とする地域で使われた。

LIXILギャラリーで現在開催中の「文字の博覧会」は、そんな氏が遺した「中西コレクション」(国立民族博物館所蔵)から約80点の文字資料を紹介した展覧会だ。展示は、中東・欧州文字文化圏、インド・東南アジア文字文化圏、漢字文化圏などのコーナーに分かれて構成されている。展示物には、世界最古の印刷物といわれる「百万塔陀羅尼」などの印刷物も含まれるが、手稿も多い。記録媒体は、紙のみならず、竹筒や椰子の葉、樹皮、布、粘土板などさまざまだ。見ていくと、そうした素材や筆記具の特性が文字の形に影響を及ぼしていることもあるとわかる。

ラテン文字。聖務日課集の紙片。16 世紀。聖母マリアの聖務日課(教会の祈り)の一部で、携帯用。 金や銀、飾り文字が施されている。

タミル文字。南インドのタミルナードゥ州で使用されている文字。貝葉(ばいよう/椰子の葉)に書かれた医学書のアップ。タミル伝統的民間療法の塗り薬や貼り薬について書かれている。

多種多彩な文字の形は、それぞれ特徴があり、独自の美しさがある。 しかし文字の造形そのものの美しさもさることながら、そこに束と重ねられた紙の、樹皮の、文字の集積に圧倒された。 たとえば、画像はないが、「マグリブ体アラビア文字で書かれた『コーラン』」。古い革に包まれた、綴じられてもいない、分厚い紙の束。その1枚1枚の両面に、3色のインクを使って、ていねいに経典が書かれている。展示で見ることができるのは見開きだけだが、その紙の束の厚みを見れば、どれだけの思いをこめて、集中力をもって、このコーランが書かれたのかが伝わってくる。

図録『文字の博覧会』は一般販売されており、展覧会場を訪れなくても購入することができる。しかし、文字が刻まれたまわりのことは、実物を見なくては感じ取ることがむずかしい。

中西氏が「旅して集めた」文字コレクションは、展示を見る人の想像をも、世界各国に旅立たせてくれるだろう。できることならぜひ会場に足を運び、文字ハンターの集めた文字資料の熱量を直に感じてほしい。

西夏文字。西夏陵出土墓誌銘断片拓本。11-13 世紀(拓本は現代)。西夏文字は李元昊(りげんこう)が宋の西北部に西夏国を建てた際、西夏語を表す正式な文字として公布された。1227 年に蒙古に敗れた後に西夏文字も消え、いまは使われていない。

会場入口付近には、中西氏自作の高校卒業アルバムの1ページと、手書きの旅行アルバムがいくつか展示されている。その精緻で美しいレタリングやイラストレーションも必見だ。

※画像はすべて、所蔵:国立民族学博物館/撮影:佐治康生


  • 会期:2016年6月2日(木)~8月27日(土)
  • 場所:LIXILギャラリー(東京)
        東京都中央区京橋3-6-18 東京建物京橋ビル LIXIL:GINZA 2F
  • 時間:10:00~18:00
  • 休館日:水曜日
  • 入場料:無料
2016年7月15日

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展覧会レヴュー

雪 朱里

ライター、編集者。1971年生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、専門誌編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事やくらしの歴史などの分野を中心に、ものづくりに携わる人々への取材執筆活動を行なっている。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、編集・執筆等を手がけた書籍に『一〇〇年目の書体づくり 「秀英体 平成の大改刻」の記録』(大日本印刷)、『活字地金彫刻師 清水金之助』、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話』(小塚昌彦著/グラフィック社)ほか多数。2011年2月より『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)のレギュラー編集者も務める。

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